29.雪遊びとクッキー
次の日の朝、リルは寒さで目を覚ました。これは布団から出られない。一緒に寝ていた琥珀にしがみつくと暖かくて気持ちよかった。このままもう一度眠ってしまおう。リルがそう思った時、無情にも扉がノックされた。
「リル?起きてるか?」
イアンの声にリルは寝ぼけ声のまま返事を返す。イアンはくすくす笑っていた。起きなければ。
リルは急いで着替えて顔を洗った。琥珀を見てリルも毛皮が欲しいと思う。
食堂につくと魔道具の暖房が点けられていて暖かかった。
イアンがみんなに雪かきに行くぞと宣言している。
リルも一緒に行かなくては駄目らしい。リルはロザリンの作ってくれたコートできちんと防寒する。これでも寒いのだから相当だ。
みんなで外に出ると一面の銀世界だった。見事にあったかスポットだけ雪が積もっていない。少数の神獣たちが新雪に足跡をつける遊びをしていた。羨ましいとリルは思った。
雪かきは玄関から道を作るように行うようだ。リルは小さいスコップを貰った。他のみんなは両手持ちの大きなダンプを使っている。
リルには重いから無理だそうだ。
雪かきは重労働だった。リルはすぐに疲れてしまった。綿のようなのにどうしてこんなに重いのだろう。
「リル、頑張れ。終わったら雪だるま作ろう」
ヘイデンの言葉にリルは頑張った。イアンはリルを見て雪かきは体力作りにいいかもしれないと思っていた。ずっと地下で暮らしていたリルはとにかく体力がないのだ。イアンはそれをずっと心配していた。病気になったら抗う体力まで無いかもしれないと思ったからだ。
やっと雪かきが終わった。リルは達成感に包まれていた。見ていた神獣たちが拍手の真似をしてくれる。みんな誰かを称えたい時は拍手すると覚えたらしかった。
ヘイデンが、早速雪だるまを作り始めている。リルも慌ててそれに参加した。
ヘイデンが作った体にリルが作った頭を載せる。森の方から葉っぱを取ってきて、雪だるまの顔にする。生まれて初めて作った雪だるまに、リルは感激した。
『それなにー?』
ウサギとタヌキ達が集まってきて不思議そうにしている。
「雪だるまだよ、雪で作るお人形」
タヌキ達は雪だるまの周りをぐるぐる回っている。リルは少し考えて雪だるまに耳を付けてみた。
「おお、それ可愛いな」
ヘイデンが何やら小さい雪の塊を作りながら褒めてくれる。
ヘイデンの作っているものはなんだろう。リルは手元を覗き込んでみた。
「あ、雪兎だ!」
ヘイデンが作っていたのは、葉っぱの耳が付いた可愛らしい雪兎だった。ウサギ達は大喜びだ。
『わーい、仲間が増えたよ』
『ちっちゃい仲間』
雪兎に顔を寄せてクンクンしている。とても可愛い光景だった。
『僕たちは無いのー?』
タヌキ達が少々拗ねてしまったが、流石にタヌキを作るのは難しかった。
その後はカマクラを作った。穴を掘るのをみんな手伝ってくれて、小さいカマクラを沢山作ることに成功した。みんなお家だーと喜んでいる。みっちり詰まるのが楽しいらしく、ウサギ達は1つのカマクラに何匹かで入っていた。
みんなで遊んでいると、琥珀が気づいた。
『マーリンが来るわよ』
リルは作った歩道を見る。確かにマーリンに乗ったリヴィアンがいた。リルは手を振って呼び止める。
「やあリル、遊んでいたのかい?」
リルの周りを見たリヴィアンがくすくす笑う。
「はいこれ、クッキーだよ」
リルは大喜びでクッキーを受け取る。いつもより沢山入っているようだった。
「ねえ、リル。良かったらクッキーを作ったお姉さんにお礼のお手紙を書いてくれないかな?最近元気がないんだ」
リルはもちろん了承した。いつも美味しいクッキーを作ってくれるのだ、お礼は大事である。リルは急いで拠点の中に入った。
お手紙を書いている間、リヴィアンはイアンと話をするようだ。
リルはいつも美味しいクッキーをありがとうと手紙を書いた。思いついた言葉を色々書いていたら、長いお手紙になってしまった。
リルは手紙をリヴィアンに渡す。
「ありがとう、リアも喜ぶよ」
「お姉さんの名前はリアっていうの?」
リルは名前が似ていて嬉しかった。いつかお姉さんと会えるといいなと思う。あんなに美味しいクッキーを作るのだからきっと優しいお姉さんだ。
リヴィアンは手紙を受け取ると帰っていった。相変わらず慌ただしい。
リアの住む屋敷にやってきたリヴィアンは、早速リアに手紙を渡した。リアは目を見開いて驚いていた。
「ちゃんと返事を書くんだよ。返事がないと悲しくて泣いてしまうかもしれないからね」
リアは複雑そうな顔をしていたが、ちゃんと返事を書くことにしたようだ。返事はクッキーの箱に入れておくと言って去ってしまった。
リヴィアンは物事を真面目に考えすぎるリアを些か心配していた。だから強制的に関わらせることにしたのである。
そうしないといつまで経ってもリアは、リルに対する罪の意識に苛まれ続けるだろう。
かくして、姉妹の文通は始まったのである。
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