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28.初雪

 寒さが厳しくなってきた冬の日。リルは三倍に増やしたあったかスポットで、おやつのボックスクッキーを食べていた。

 このクッキーはリヴィアンが定期的に大量に送ってくれる、リルの大好物だ。マロンと琥珀、神獣たちにもよく分けてあげている。このクッキーは『みちるちゃん』が大好きだったクッキーにそっくりだ。

 食べると何故か心がポカポカする。そんなクッキーだった。

 

 クッキーを食べながら空を見上げていると、不意に空から白い小さな粒が落ちてきた。

『雪だ』

『わあ、もう降ってきた』

 リルは感激した。神獣たちは嫌そうにしているが、リルは『みちるちゃん』の記憶でしか雪を知らないのだ。自分の目で見るのはこれが初めてだ。

「早く積もらないかな」

 そういうと神獣たちが猛抗議してきた。

『寒いよ、積もらなくていいよ』

 雪とはそんなに大変なものなのだろうか。リルはわからない。

『リルももっと積もったら気持ちがわかるわよ』

 琥珀もそんなふうに言う。

『僕はわかるさ、雪は綺麗だし、何よりロマンがあるじゃないか』

 リルの気持ちをわかってくれるのはマロンだけのようだった。

 

 リルは空から降ってくる雪を捕まえてみる。なんだか『みちるちゃん』の記憶にある雪とは少し違う気がした。記憶の中の雪はもっとビシャビシャしていたはずだ。でもこの雪は手の上で綺麗に形を保っている。雪にも色々あるのかもしれないとリルは思った。


 拠点の中からロザリンが出てきた。ロザリンはリルを見つけると、薄桃色の可愛いショールを掛けてくれた。

「風邪ひいちゃうといけないから、暖かくしてね」

 どうやら雪が降っているのを見て出てきてくれたようだ。リルはロザリンの優しさが嬉しかった。

 実は冬になる時にもロザリンはリルの為に何着も服を作ってくれていたのだ。ロザリンが服を作る時は、必ず琥珀とマロンにもお揃いの何かを作ってくれるので、リルはロザリンの作ってくれた服ばかり着ていた。今日も三人でお揃いのケープを着ている。

 

 

 

 不意に、空が暗くなったような気がした。上を見ると真っ白な鳥が沢山飛んでいた。

「あら、今年も来たのね」

 ロザリンが笑って上を見上げた。

「今年も?」

「ええ、白鳥は渡り鳥だから、寒いところから冬を越すためにこの辺りにくるのよ」

 ここよりもっと寒いところだろうか、リルには想像できなかった。


 眺めていると、白鳥の群れの先頭が水浴び場に降り立った。

『ちょっとこれ何?こんなの去年無かったわよね?』

 白鳥は神獣だったようだ。水の上に器用に浮かびながら問いかけてくる。

「そこは神獣用の水浴び場だよ」

『やだ『通訳者』じゃない。やっと見つかったのね!』

 白鳥はなんだかキャピキャピしていた。イメージと違うとリルは思った。

『ちょっとここ凄くない?貴女がやったの?あれって遊び場でしょう』

「そうだよ、聖騎士さんにお願いして作ってもらったの」

『へえ、やるじゃない。楽しそうだわ』

 白鳥はキョロキョロと忙しなく周りを見回している。

「私はリルだよ。よろしくね」

『冬の間はこの辺にいるからよろしくね』

 この辺とは森の中だろうか。リルは聞いてみた。

『そうよ、森の中の湖にいるわ。ここにも顔を出すからお話ししましょ』

「うん、私もお話ししたい。白鳥さんはここよりもっと寒い所にいるんでしょ?どんな所か教えて?」

 白鳥は夏でも氷の解けない極寒の地がある事をリルに教えてくれた。そんなところにも人間は住んでいると聞いてリルは驚いた。

 神獣のみんなはそんな所絶対に住めないと震え上がっている。

 

『ところでなんでみんな石の上に居るの?土の上の方が暖かいでしょ』

 魔道具で石を温めているのだと説明すると、白鳥は楽しそうだった。

『何それおもしろーい。人間ってホント面白いもの作るわよね』

 お喋りな白鳥はそれからも色んな話を聞かせてくれた。たまに普通の白鳥に紛れて人間に餌を貰ったりするらしい。みんなにチャレンジャーだとツッコミを入れられていた。

 

 しばらくすると雪が多くなってきた。風も吹いてきたのでイアンがリルを迎えに来た。リルは白鳥と神獣たちとサヨナラすると、拠点の中に入る。

 リルが思っていたより体が冷えきっていたらしい、指がかじかんでケープが脱げなかった。

 見かねたイアンがリルのケープを取ってやって、風呂に入ることを薦める。

 

 リルがお風呂から上がって外を見ると、まだ雪が降っていた。マーティンが明日は積もると言っていた。今日は騎士たちの見回りはお休みのようだ。雪の中森に入ると遭難しかねないらしい。

 リルは午後なのにみんなが拠点にいるのが珍しくて、ソワソワしてしまった。ヘイデンがカードゲームに誘ってくれる。暖炉に当たりながらマーティンの入れてくれた温かいお茶を飲んでみんなで遊ぶ。

 拠点に来てから初めてのことかもしれない。普段はみんな忙しいのだ。

 リルはとても楽しかった。地下にいた頃、冬はただ寒さにふるえるだけの季節だったが、今日はとても暖かかった。きっと体よりも心が。これから冬はリルにとって大好きな季節になるだろう。そう思った。

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