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26.お姉ちゃんのクッキー

「厨房を貸してほしいのですが」

 

 その日リヴィアンは保護しているリアの様子を見に行っていた。

 そしてリアの言葉に面食らう。彼女はどうにも読めない所がある。

 男の格好を好んでみたり、庭で見たことの無い構えで木刀を振ってみたり、かと思えば大人しく勉強していたりもする。

 リヴィアンは困惑を通り越して少し面白く感じてきていた。

 その矢先のこの発言である。リヴィアンは今度は何が飛び出すのかと、好きにさせてやることにした。

 

 言質をとったリアは、前世から好きだったクッキー作りを始めようとしていた。昔からストレスが溜まると作っていたのだ。前世の妹もリアの焼くクッキーが好きだった。

 何故かリヴィアンが見学していたが、暇なのだろうかとリアは思った。

 リアは器用に数種類の生地を捏ねて、棒状にして魔法で冷ます。そして包丁で切ると、違う生地同士を組み合わせた。所謂ボックスクッキーである。

 リヴィアンは随分手慣れていると感心していた。彼女が侯爵令嬢だったのに料理ができることには触れない。指摘してもはぐらかされると分かっているからだ。彼女は自分の話をあまりしたがらない。

 彼女の奇行から、案外彼女にもリルと同じように守護霊がついているのではと思っている。

 

 焼きあがったクッキーは美味しそうだった。ただ大量だった。

 リアは焼きすぎたので好きに持っていけという。

 ひとくち口に入れるとほんのり甘くて美味しかった。

 リヴィアンは折角なのでこっそりリルに持って行ってやろうと思った。

 

 

 

 マーリンに乗って拠点に着くと、いつも通りリルと神獣たちが出迎えてくれる。この場所は癒されるなと、リヴィアンは思う。

「今日はリルにお菓子を持ってきたんだよ」

 リヴィアンが言うと、リルは中に案内してくれた。

「何しに来たんですか、兄上」

「ちょっとうちで預かってる子がクッキーを焼いたからね、持ってきたんだ」

 イアンにだけ意味が伝わるようにリヴィアンは言う。

 リルは一生懸命お茶を入れていた。

 イアンは内心、なぜ元侯爵令嬢がクッキーを焼くことになったのかと思っていたが、口には出さなかった。

 

 テーブルに出されたクッキーは色とりどりで、不思議な幾何学模様になっていた。イアンは初めて見るクッキーに困惑した。

「ボックスクッキーだ!」

 リルが手を叩いて喜ぶ。その喜びようにリヴィアンは困惑した。

「食べたことがあるのかい?」

リヴィアンが聞くとリルは首を横に振る。

「『みちるちゃん』のお姉ちゃんがよく作ってたの」

 

 リヴィアンはまさかと思った。自分の推測は当たっていたのかもしれない。リルの守護霊とリアの守護霊は、二人と同じように姉妹だったのではないか?リアは守護霊の存在を否定していたが、彼女は用心深い。出会ったばかりの自分にやすやす秘密を明かしたりしないだろう。

 リヴィアンは帰る前にこの推測をイアンに話すことにした。

 

 リルは大喜びでクッキーを食べている。また持ってきてやろうとリヴィアンは思った。

 

 

 

 イアンに推測を話してからリアの元に戻る。

 リルにクッキーをあげて来たと言ったら困惑した顔をされた。

「リルがね『みちるちゃん』のお姉ちゃんがよく作ってたクッキーだっていうんだ」

 その瞬間、リアの顔色が変わった。

「『みちるちゃん』っていうのはリルの守護霊ね」

 リアはそうですか、というと何も話さなくなってしまった。

 彼女の悲痛に満ちた表情にリヴィアンはこれ以上の詮索をやめた。

 

「ねえ、リア。本当にリルと会う気は無いのかい?」

 リヴィアンはリアに会う度、毎回この質問をしていた。

 今回初めて、リアから返事が返ってくることは無かった。

 これが良い兆候なのか悪い兆候なのかは分からないが、確かにリアの心は揺れ動いただろう。

 

「そうだ、リルがボックスクッキーを気に入っててね。また作ってよ」

 それだけ言い残して、リアの元を去った。

 

 それから、リアの住む屋敷ではボックスクッキーが常備されるようになったのだった。

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