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22.sideミレイユ

リルの双子の姉の話です。

鬱展開が嫌いな方は読み飛ばして下さい。

読み飛ばしても繋がるようになっています。

 物心ついた時から、私には前世の記憶があった。私の前世は日本の警察官だった。そしてここは魔法の存在する、地球とは全く異なる世界である事に早々に気づいてしまった。

 しかも私は恐らく嘘を見分けることが出来た。齢三歳でその事実に気づいた私は絶望したのだ。

 しかも実家は侯爵家で、母は父ととても仲が悪かった。いや違う。母だけは父を愛していたが、相手にされていないのだ。

 

 私が天才と呼ばれるようになった頃から、母はよく私に言った。

「貴女は私のたった一人の娘よ。お父様に認められるように努力しなさい」

 私はその言葉が嘘であることに気づいてしまった。酷く混乱したのを覚えている。


 私は推測した。恐らく母は一人目を流産しているのだろう。だからたった一人の娘という言葉が嘘になった。そして二人目も男の子ではなかったから、父に見放された。母は私を産んだ時に子供を産めない体になったそうだ。母は父の関心を取り戻したかったのだろう。だから私に優秀であることを求めたのだ。

 私は母に同情した。父はまるで透明人間であるかのように私たちに無関心だった。父にとって母は、離婚すると外聞が悪くなるから仕方なく家に置いている人間なのだ。

 真実はもっと残酷だと、その頃の私はまだ知らなかったのだ。

 

 

 

 六歳になった頃、ついに私のスキルがバレてしまった。

 母はすぐに私を国王陛下に報告して、私は聖女の役職が与えられるようになった。ただ国王の傍で、嘘つきを報告するだけの仕事だ。


 私は父に生まれて初めて呼び出された。そしてこう言われた。

「お前は忌むべき双子の片割れだ。聖女などとおこがましい。今日まで育ててやった事に感謝しろ。そしてこれからは家のために尽くせ」

 その言葉には、何一つ嘘はなかった。私は大きな勘違いをしていたのだ。

 

 母の言葉が嘘だったのは、実際にもう一人娘がいたから。

 父に母が見捨てられたのは、男の子を産めなかったからではない。忌むべき双子を産んだから。

 

 私は母を問い詰めた。妹は何処にいるのかと。

「大丈夫よ、ミレイユ、あの悪魔付きは処分したから安心してちょうだい。これからも貴方は私のたった一人の娘よ」

 その言葉には何一つ嘘が含まれていなかった。すべてが手遅れだったのだ。私は思わず呟いた。

「人殺し……」

 そう言った瞬間の母の顔は忘れられない。母は狂ったように叫び続けた。

「あの子は悪魔よ、人じゃない、私は誰も殺してない!」

 その言葉が嘘だったことはせめてもの救いだろう。この女は自分が人を殺したと認識しているということだ。

 

 私はもう居ない妹にどう償ったらいいのだろう。妹は今までどんな暮らしをしていたのか、考えるだけで胸が痛い。私はおかしさに気づいていながら、何も知ろうとしなかった。もっとちゃんと調べていたら、妹を救えたかもしれないのに。

 

 私はもう、目の前の女を母だと思えなくなった。父も同様だ。

 私は妹がどんな暮らしをしていたのか調べた。それは悲惨の一言だった。

 妹が監禁されていた地下牢を見た時、涙が止まらなくなった。

 妹は地下牢でそれでも笑って暮らしていたらしい。悪魔付きだと言われていたが、私は普通の子供だと思った。私は警察官として、虐待された子供を保護したことがある。妹の言動は彼らと何ら変わらなかった。

 

 

 

 その日から、私は『ミレイユ』を殺すための計画を立て始めた。

 顔を隠せるローブを用意し、実行の機会を待った。

 正直勝算の少ない賭けではあったが、それでも良かった。早く逃げ出してしまいたかった。

 そして機会は、案外早く訪れた。

 国王の仕事に付き合って、海沿いの屋敷に宿泊した時。私はひとりで海が見たいと使用人を下がらせた。私はテーブルに遺書を置いた。そして長い髪をナイフで切り取った。遺髪として残していきますと遺書に書いていたからだ。

 そしてドレスの裾を切り裂くとバルコニーの柵に引っ掛ける。

 これで海に飛び込んだように見えるだろう。

 私は着ていたドレスを海に投げ捨て、隠しておいた男の子用の服に着替える。そして外壁を伝い外に出た。前世趣味でやっていたボルダリングがこんな所で役に立つとは思わなかった。

 あとは逃げるだけだ。そう思った時、誰かに腕を引かれた。

 

 彼は国王の旅に随行する侍従だった。私は舌打ちする。

「私はリヴィアン・ウィルソン第二王子殿下に、貴方の保護を命じられています」

 侍従は予想外のことを言った。その言葉に嘘はなかった。

 確保ではなく保護とは一体どういうことだろう。私は前に会った王子を思い浮かべた。

 彼は恐らく私のスキルを知っている。そう思っていた。大した調査力だと感心したものだ。私を試すように一つだけ嘘をついた、侮れない男だ。

 彼は何らかの理由で私が欲しいらしい。どうせ行くところも無い。あの家とこの国から逃れられるなら何でも良かった。私は誘いに乗ることにした。

 男たちに連れられ隣国――ウィルス王国に入る。

 

 王子との面会前に髪を整えられた。前世と同じくらい短いショートカットになった。こちらの方が軽くていい。

 

 面会室に入ると、王子が座って待っていた。

「やあ、ミレイユ嬢。いや、今はただのミレイユか」

「ええ、ミレイユ・アダムスは死にました」

 私は礼儀など無視して椅子に腰掛ける。

「それで、何をお望みですか?」

「君は逞しいな。実は我が国で君の妹を保護しててね」

 私は驚愕して王子を見る。その言葉に嘘はなかった。

「妹は、あの子は生きてるんですか!?」

 思わず王子に詰め寄った。

「ああ、僕の弟の養子になって幸せに暮らしているよ」

 何故王族の養子になったのか意味がわからなかったが、彼は本当のことを言っている。

 私は涙が溢れて止まらなかった。私が助けられなかったあの子は、幸せに暮らしているのだ。

 私の様子を見た王子が、妹のことを語り出す。まるでシンデレラのような奇跡的な話だったが、その言葉に嘘はなかった。

 私は安堵した。

 

「それで君の話だが……」

「理解出来ました。私がそのまま聖女として隣国にいると『通訳者』である妹が一生自由に動けないから、私を攫ったのですね。成長して少し容姿が変わってしまえばいくらでも言い訳ができますし、将来的に妹を表に出すなら必要な措置でしょう」

 私の言葉に王子は苦いものを噛んだような顔をする。

「いやそれもそうなんだけどね……」

 私はなにか間違ったことを言っただろうか。

「ああ、私は隠れて暮らします。妹の邪魔にはなりたくないですし、万が一見つかったら国際問題でしょうから指示には従いますよ」


「君は妹に会いたくないのかい?」

 王子が聞いてきた。会いたくないと言ったら嘘になる。けれど……

「妹は今幸せなのでしょう?会った事もない姉が現れてかき乱すより、そのまま過去のことは忘れて欲しいのです。何より、私はあの子に合わせる顔がありません」

 王子は眉間に皺を寄せて何か考えている。

「……君はリルが虐待されていることを知っていたのかい?」

「いいえ、知りませんでした。でも私は違和感を覚えながらも何も知ろうとしなかったのです。全てを知ったのは、妹が捨てられた後でした。それは罪だと、私は思います」

 王子はまた深く考え込んでしまった。

「とりあえず、君を保護するよ。他のことはもう少し時間を置いてから考えよう。暫くは屋敷から出られない生活になるけど、我慢してね」

 王子はそう言うと、屋敷を案内してくれた。

 彼は本当に私に何も求めないつもりだろうか。


「そうだ、君の名前を決めよう。リアはどうだい?リルとお揃いだよ」

 

 そしてその日から私はリアになった。妹とお揃いなのが少し嬉しかった。

転生前の人格を完全に他人の物と捉えている妹と、転生前の人格が主人格だと捉えている姉で精神の成熟度合いが違います。



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