20.魔法のクッション
その日のリルは、本を片手に勉強をしていた。内容は魔法についてである。
「ねえ、神獣はみんな魔法が使えるって本当?」
『ええ本当よ、前にクマさんが使ってたでしょう』
琥珀の言う通り、確かにアスレチックを作る時に使っていた。
「神獣も精霊にお願いするの?」
『もちろんそうさ!魔法を司るのは精霊だからね』
マロン曰く、魔法を管理するのは精霊のお役目らしかった。世界中で魔法は使われているはずなのに、働き者だなとリルは思った。
リルは魔力制御ができるようになって、ようやくひとりで魔法を使う許可が下りたばかりだ。何か色々な魔法を使ってみたかった。
リルは本に載っている魔法を見る。
みんな攻撃魔法ばかりだった。こんなの練習したってつまらない。
「よし、今日は魔法で遊ぼう!」
宣言したリルは外に向う。外に出るとアスレチックで遊んでいた神獣達が集まってきた。
「今日は魔法の練習するんだよ!」
『なんの魔法?』
ウサギが首を傾げる。
リルは一番危なくない魔法は何か考えた。やはり水の魔法だろうか。
「水の魔法の練習だよ」
リルは先日作った水場に向かった。ここでなら失敗しても水浸しにならないだろう。
まず最初はみんなで遊べる水のボールを作ることにした。
水の周りに膜を張るイメージで、精霊にお願いする。
見事水浴び場の中に水のボールが浮かんでいた。
水浴びしていたタヌキがボールに触れる。するとボールは弾けて消えてしまった。
『壊れちゃった!ごめんなさい』
タヌキが慌てて謝る。リルは練習だからいいのだと笑った。
しかし、これでは遊べない。もっと強度を上げて触っても壊れないようにしなくてはとリルは思った。
『みちるちゃん』の記憶を参考にして、なにか無いかと考える。
思いついたのは理科の実験で作ったスライムだった。
リルはもう一度、スライムみたいになった水をイメージする。
すると今度は水浴び場の水全体がスライムのようになってしまった。
タヌキが溺れそうになっている。
リルは慌ててタヌキを救出した。
しかし、みんなスライムのようになってしまった水に興味津々だった。みんな前足を突っ込んではキャッキャと騒いでいる。
トラが口の中に入れて食べてみていた。リルが美味しいかと聞くと、ただの水だと言われた。当たり前である。
リルは遊べるボールが作りたかったのだ。いくら楽しくてもこれは違う。
リルはもう一度、今度はスライムを水饅頭のように固めるイメージをした。
水場に何かの塊が浮かんでいる。
リルはそれを持ち上げてみた。なんだか素敵な触り心地だった。
これは成功だ。リルの作りたかった柔らかい水のボールだった。
リルはそのボールを投げてみる。琥珀が走ってボールを追いかけた。
ボールに飛びついた琥珀が言う。
『これ、すごく気持ちいい!』
追いついた他の子達も触ってみて口々に言った。
『本当だ』
『寝床に欲しいね』
みんなじっとリルを見つめた。
『もっと作って』
『お願い』
リルはその可愛さに逆らえなかった。
次々に魔法を使い。スライムボールを量産する。トラ達まで欲しがるので大変だった。
作り終わる頃にはみんな、スライムボールをベッドに寝る体勢に入っていた。
仕方がないのでリルも寝てみる。魅惑の寝心地だった。沢山スライムボールを作って疲れたリルはそのまま寝てしまった。
「団長……あれ、なんですかね?」
見回りから戻った騎士たちは不可思議な光景に首を傾げた。
神獣達とリルが眠っているのはわかるが、何を下敷きにしているのかわからない。
イアンが今日の留守番のマーティンに問いかけてみると、わからないと返ってきた。
外で魔法の練習をすると出ていってから様子を見ていなかったようだ。
ルイスが匂いを嗅いで確かめて、首を傾げている。
イアンが意を決して触ってみると、なんとも気持ちいい触り心地だった。しかし、こんな素材は見た事がなかった。
「魔法の練習をすると言っていたのですよね。魔法で作ったのではないでしょうか?」
グロリアがスライムボールに触れて言う。
「恐らく素材は水だと思います。水の形を変えて、まとめたのかと……」
リルは天才なのではないだろうかと、イアンは思った。
完全に新しい魔法を生み出すのは難しいことだ。それを魔法を習ってすぐにやってのけたのだから凄い。
イアンは娘の才能に感動した。
グロリアも、弟子の能力に感激している。思えばリルは初めからとても優秀だった。
そうしている内にリルが目を覚ました。周りに集まっている騎士たちに驚く。
「みんなどうしたの?」
不思議そうにリルが聞いた。
「リル達が何の上に乗ってるのか気になったんだ」
「あ、これ魔法で作ったんだよ!すごいでしょ!」
リルは無邪気に笑っている。イアンはリルの頭を撫でて褒めてやった。
このスライムボールはその後神獣達に大人気になり、リルは何度も作ることになるのだった。
みんなが住処で気持ちよく眠れるならいくらでも作ろうと、リルは思った。
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