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16.再会

 その日リルは、窓を叩く音で目を覚ました。窓の方を見ると銀狼が居た。

 リルは何か緊急事態だろうかと窓を開ける。すると銀狼が言った。

『この者がリルを探していたのでな。連れて来たぞ』

 見るとそこには小さなネズミがいた。

『やっと見つけた!お嬢さん!』

「マロン!?」

 それはリルが捨てられる前、御屋敷の地下でずっとリルの話し相手になってくれていたネズミだった。リルは涙が溢れてきた。

「マロン、会いたかった!元気にしてた?」

『もちろん、お嬢さんに会うまでは死ねないからね』

 リルはマロンを抱き上げると頬ずりした。まだここに来て十日程度しか経っていないのに、懐かしくて堪らなかった。

『お嬢さんを探して森の入口に行ったら、銀狼さんが連れてきてくれたんだよ』

 リルは銀狼にお礼を言った。

「大切な友達なの、連れてきてくれてありがとう!」

『なに、その者の足ではここまで辿り着けそうもなかったからな。気にするな』

 そう言って銀狼は去ってゆく。

 

「そうだマロン、私お父さんができたんだよ!とってもカッコよくて優しいの、それでね、リルって名前を貰ったのリル・ウィルソンって言うんだよ」

『じゃあこれからはリルと呼ぶよ。素敵な名前じゃないか!よかったね、リル』

 リルはマロンとお話ししていて涙が止まらなかった。それでも、ここに来てどれほど幸せだったか語り続ける。本当はマロンに誰より一番聞いて欲しかったのだ。


 マロンは出会った当初は単語くらいしか話せなかった。それでも一人ぼっちのリルのために一生懸命言葉を勉強してくれたのだ。

 ずっとずっと、リルが直接お話し出来るのはマロンだけだった。

 マロンは目を潤ませながらリルの話を聞いていた。本当に幸せそうで、我がことのように嬉しかった。マロンはずっと祈っていたのだ。この傷だらけの小さな少女が、いつか幸せになれますようにと。

 

「この子はね、琥珀って言うんだよ。銀狼族の族長が守役としてつけてくれたの」

 琥珀はマロンに挨拶した。

『リルの守役としてはマロンの方が先輩ね。仲良くしてちょうだいね』

『僕はリルを守れなかった弱いネズミさ、強そうな守役がいて安心したよ。これからよろしくね』

 そんな事ないとリルは言った。

「マロンはずっと私を守ってくれてたよ!あの暗い地下で唯一私に優しくしてくれた恩人だもん。マロンがいたから私は笑って暮らせたの。マロンは世界一かっこいい私の親友だよ」

 

 そう言うと、マロンは涙を流してリルが捨てられた日のことを語った。

『僕は間に合わなかったんだ。リルを森に捨てると聞いて、慌てて馬車に乗ろうとしたのに。一歩遅かった。それから必死に探したよ。でも、森までは僕の小さな体では中々たどり着けなかったんだ。やっとの思いで森についてリルのことを聞いて回っていたら、銀狼さんに助けられたのさ。……こんな情けない僕でも、親友と言ってくれるのかい?』

「もちろん!ずっと一緒にいてくれるって約束してくれたでしょう?私はマロンとずっと一緒にいたいよ!」

 二人は暫く抱き合って泣いた。手のひらに伝わるマロンの体温が懐かしくて再会できたことが嬉しくてしょうがない。

 嬉しくても涙は出るんだなと、リルは思った。

 

 

 

 一頻り泣いて、リルはマロンをみんなに紹介したくなった。走ってまずはイアンのところに行く。

「お父さん、あのね、紹介したい子がいるの」

 いきなり扉を開けて部屋に入ってきたリルに、イアンは目を白黒させた。リルの目には明らかに泣いたあとがある。

 イアンはリルを抱き上げると続きを促した。

「あのね、この子はマロンっていうの。私の親友だよ。私の事探しに来てくれたんだ!マロン!この人は私のお父さんだよ!」

 興奮しきったリルの言葉は要領を得なかったが、マロンという名に聞き覚えがあった。ここに来る前地下で仲の良かったというネズミのことだろう。

「また会えて良かったな、リル。よろしくマロン。マロンはリルと一緒にここに住むのか?」

 リルはマロンを見つめる。マロンは可能なら一緒に住みたいと訴える。

「ここで一緒に暮らしたいって!いいでしょ、お父さん!」

「もちろんいいぞ。あとで皆に紹介しような……ところで、マロンは神獣だったんだな。普通のネズミだと思っていたから驚いたよ」

「私もここに来てから初めて知ったの、ネズミはみんなお話しできると思ってた」

『僕は人間の領土に住んでる変わり者だったからね。神獣と気づかないのも無理はないよ』

 マロンの言葉を通訳したら、イアンが疑問を投げかける。

「どうしてわざわざ人間の領土に?」

『冒険がしたかったのさ!世界中のあらゆる事を知りたかった。リルに出会って、目標は変わってしまったけどね』

 イアンは笑ってしまった。色々な神獣が居るものだと思う。リルが来てから、イアンは神獣をより身近に感じるようになった。神獣も人間も考えることはそう変わらないのかもしれない。


 

 

 リルは朝食の席でマロンを紹介した。みんな温かくマロンを受け入れてくれて安心する。

 

 ロザリンは朝食後にリルを呼び止めると、マロン用にとクッションをくれた。追加でリボンも作ってくれるそうだ。マロンともお揃いにできるのが嬉しくてリルはロザリンに感謝した。

 

 リルはマロンをお風呂場につれてきた。ずっと街や森を駆けてきていたマロンの体は汚れてしまっている。

 温泉に着いて、桶に温泉を汲むとマロンを入れる。マロンは温泉がとても気に入ったようで満足気だ。

『これはいいね……リル、ここはとってもいい場所だね。リルが保護されたのがここで良かったよ』

「うん、ここは最高の場所だよ」

 マロンは桶の中で洗われながら、リルに聞いた。

『リルは今幸せかい?』

「もちろん、きっと世界一幸せだよ!」

『リルの幸せが僕の幸せだ。僕は世界一幸せなネズミって事だね』

 マロンは戯けたように言った。二人で笑い合う。

 地下にいた時と変わらないやりとりだが、あの時とは違って二人は本当に幸せだった。

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