番外編 ハロウィン
「収穫祭のイベントですか?」
今日、リル達はミレナの洗濯を手伝っていた。桶に入れたシーツを足で踏みながら洗っている。
「そうなの、何か面白いものは無いかしら?子供達が豊穣の精霊様の格好をするだけじゃ、ちょっとつまらないかなと思っているの」
この国の収穫祭では、子供達が白い服にキラキラの飾りをつけて収穫物の周りで踊る。そうすることで豊穣を司る精霊が喜ぶらしい。豊穣の精霊は子供の笑顔が好きなのだそうだ。だからその日は子供達が夜まで遊んでいても許される。
「収穫祭といったらあれじゃない?ジャック・オー・ランタン!この辺かぼちゃが採れるでしょ!」
アナスタシアが騎士服の泥を落としながら言う。確かにこの辺りはかぼちゃが良く育つ。
「確かに夜には幻想的でいいかもね」
リアが洗ったシーツをすすぎながら、考え込んだ。
「ハロウィンだよ!トリック・オア・トリート!」
リルがバシャバシャとシーツを踏んで訴える。ハロウィンは前世でみちるが大好きな行事だった。とはいっても、病院内で開催される小さなイベントしか経験が無いのだが。
「それは何?」
ミレナが不思議そうに聞くと、リアが、かぼちゃの飾りを作って、子供達が大人にお菓子をもらうイベントだと説明する。
「それは楽しそうね。リアちゃん協力してくれる?次の街の会議で議題にしたいから」
リアは活動期の時から雑事を引き受けていたため、街の自治会から信頼されていた。とても頭のいい子だと可愛がられている。
そうしてリル達の住む街でもハロウィンに似た収穫祭が開催されることになったのだった。
「ハルキさん、メイナードさん!相談に乗ってください!」
アナスタシアはかぼちゃを持って、ハルキとメイナードにジャック・オー・ランタンの作り方を相談していた 作ったことがないから作り方を知らなかったのだ。
「あれって底くりぬいて中身取り出して、顔くりぬくだけだぞ?」
ハルキがすぐに作れると言ってナイフでかぼちゃを突き刺す。その光景をメイナードがじっと見ている。実に器用に、ジャック・オー・ランタンを完成させていた。
メイナードも作り出すが、実に簡単そうに作っていた。
アナスタシアはこれなら自分でもできると思った。ナイフを手にかぼちゃに突き刺す。しかしかぼちゃが固くて刺したナイフが抜けない。アナスタシアは雑にかぼちゃをガンガン振り回してナイフを抜こうとする。
「ストーップ!なにやってんの!?かぼちゃ虐めんなよ」
ハルキに止められたアナスタシアは、だってナイフがとふくれっ面だ。アナスタシアは少々大雑把というか、はっきり言って不器用な部類だ。こういった作業にはとことん向かなかった。
「アナスタシアちゃんはキャンドル作ろう。俺教えるから!」
これ以上ナイフを持たせるのは危ないと判断したハルキは、危なくないものを作らせることにした。
市販の蝋を溶かして色を付けて固めるだけの、簡単なキャンドル作りを教えた。
「アナスタシア、それ、私も作りたい!」
途中でリルとリアも合流して女の子三人で可愛いキャンドル作りが始まる。ハルキはホッとした。街の人にジャック・オー・ランタンの作り方を教えるのは自分が行こうと決める。
ハルキとメイナードが作ったジャック・オー・ランタンと、アナスタシア達が作った色とりどりのキャンドルで拠点を飾り付けると、神獣達の為の収穫祭が開始される。
街の収穫祭には神獣達は行けないので、拠点で別に開催することにしたのだ。
みんなで真っ白い服に色とりどりのキラキラとした装飾品をたくさん付けて、人間の準備は完了だ。
今日は日付が変わるまでみんなで食べて、踊りあかすのだ。
なんだか不思議な祭りになったが、リルは満足だった。
途中、神獣達にお菓子が配られる。リルがこう言うんだよと神獣達に説明する。
『お菓子か、いたずらか!』
神獣達が騎士達にお菓子をもらって嬉しそうに跳ね回る。
人気なのはハルキがその場で作っている綿菓子のようなお菓子だ。この日のために魔道具を作ったらしい。後で街の収穫祭にも貸し出してほしいとお願いしようとリアは思った。
リル達が躍っていると、一匹のキツネがジャスティンを見つめているのに気が付いた。
どうしたんだろうと見守っていると、キツネはおもむろにジャスティンに近づいて言った。
『お菓子か、いたずらか!』
リルが通訳するとジャスティンは困った顔をした。護衛任務に徹していたため、ジャスティンだけはお菓子を持っていなかったのだ。
『お菓子を持っていないならいたずらだね!』
キツネはジャスティンに飛び掛かる。それを見ていた他の神獣達もジャスティンに飛び掛かった。
『わーい、いたずらだ!』
信仰対象である神獣を引きはがすわけにもいかず、黙って遊ばれているジャスティンにみんなは笑った。
地面に座り込んでボロボロである。結んでいた長い髪は解かれてボサボサになっていた。
ジャスティンは普段から神獣によく遊ばれるのである。真面目に付き合ってあげるから、からかわれるのだろう。
リルがそろそろやめてあげてとお願いすると、満足した神獣達はジャスティンから離れてゆく。
日付が変わるまで神獣達と踊りあかす。時々お菓子を食べながら過ごす夜はとても楽しかった。
リルは今日も、生まれ変わって良かったと実感していた。
楽しい仲間と神獣達みんなの笑顔が、リルにとって一番のトリートだ。
更新が遅くなって申し訳ありません。
書籍版も遅れておりますが、ちゃんと進んでいますのでどうか気長にお待ち下さい。