合流
「わー!爽快です!頑張った甲斐があった!」
アナスタシアは多くの貴族が拘束されてゆく光景を見て歓声を上げた。
「リルとリアもいればよかったのに」
アナスタシアの言葉にハルキは笑う。
「リルは怖がると思うけど。リアは……参加したがりそうだ」
確かにとアナスタシアは笑う。ジャスティンは今度こそ周りを見回して警戒していた。
そこにキンバリーがやってくる。
「リル様とリア様がお三方をお迎えに参りました」
どうやらわざわざ迎えに来てくれたらしい。三人は慌ただしい王宮の中を歩くと案内された馬車に乗った。ジャスティンだけは馬に乗って、拠点に帰ることにする。
「アナスタシア、ハルキさん、大丈夫でしたか!?」
リルが酷く心配していて、アナスタシアはなんだか心が温かくなった。
「イヤリングの片方、どうしたの?まさか何かあった?」
リアの指摘をアナスタシアは大したことないと笑い飛ばす。そして舞踏会であったことを面白おかしく語って聞かせた。
「それで酔っ払いに絡まれてね、しつこいからイヤリング投げたら吹っ飛んでったの!あんまりきれいに飛ぶからびっくりしちゃった!」
リルとリアは無言でハルキをみる。ハルキは何か問題でも?と言いたげな顔をしていた。
「でも疲れたし、もう二度と舞踏会には参加したくないよ」
アナスタシアが溜息をついてドレスの裾をバタバタと揺らす。よほど疲れたらしい。
『証拠集めに時間がかかってすまなかったね』
リルの肩に乗っていたマロンがアナスタシアの様子を見て謝罪する。
通訳されたアナスタシアは慌ててそんなことないと否定した。
「むしろマロン達のおかげで教団に協力している貴族を捕まえられたんだから!今回一番の功労者なんだから、そんなこと言わないで!」
それにみんなも同意する。
「今回のことはマロン達のおかげだよ。これで沢山の神獣達が怪我をせずに済むはずだもん。帰ったらお疲れ様会しようね!」
リルが提案すると早速みんなでどんな会にしようか盛り上がる。
ネズミ部隊の働きで内通者を一網打尽にすることができたのだ。お祝いしなければ。
みんなで拠点に戻ると、留守番組が出迎えてくれた。
「ただいま、お父さん!」
とても心配されていたらしい、みんな拠点の前庭にテーブルを置いて星を眺めながら待っていた。
「ハルキ、アナスタシアのイヤリングが片方ないのだけど、どういうことかしら?」
グロリアの冷たい視線を浴びて、ハルキは必死に弁解している。出発前に必ず守るように言いつけられていたのだ。
ハルキも奥さんには頭が上がらないのだなと、みんなで笑った。
心配して待ってくれていた神獣に、明日は朝からお疲れ様会だよと言うとみんな喜んだ。一足先に戻って来ていたネズミ部隊達に何がいいか聞くと、焼き肉がいいとのことだったので明日は朝からバーベキューだ。
今日はもう遅いので、みんなでお風呂に入って寝ることにする。
温泉に浸かると、一日の疲れが溶けてゆくようだ。
「あー!すごい解放感!温泉最高!」
アナスタシアが叫ぶと男湯からも笑いが聞こえてきた。
足の古傷があるためヒールの低い靴を履いていたが、足がパンパンになっていた。足を気にするアナスタシアを見たリアが男湯に向かって叫ぶ。
「お父さん!後でアナスタシアの足に治癒魔法かけてあげて!」
「わかった!」
男湯と女湯で会話ができるのはなんだかおもしろいなと思いながら、アナスタシアは今日の功労者であるマロンの入る風呂桶にバラの花びらを浮かべてやった。
先ほどまでドレスについていたバラである。
『バラ風呂とは贅沢でいいね。いい香りがするよ』
リルの通訳にアナスタシアは嬉しそうに笑う。今日はみんな頑張った。この平和な日常が、先日の様に脅かされることがないといいなとみんな思っていた。
でもきっと教団の連中はまだあきらめないだろう。これからどうなってしまうのか、少しの不安を抱えながら今日はひとまず眠りにつくのだった。




