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舞踏会当日

 舞踏会当日は朝から大騒ぎだった。拠点でロザリン渾身のアナスタシアとジャスティンの衣装を合わせると、みんな拍手で褒め称える。

 アナスタシアのメイクも完璧だ。とても小さな村の出身には見えない。リルとリアは着飾ったアナスタシアを見て大はしゃぎしていた。


 舞踏会へはリヴィアンにゴネにゴネた結果、ハルキが付き添いとして参加してくれることになった。社交が苦手なアナスタシアとジャスティンをサポートしてくれるつもりらしい。

 着飾ったハルキはいつもの無精さが嘘のようにしっかりしているように見えた。肩に乗ったナツも蝶ネクタイをつけて得意げだ。

「変なのが近づいてきたら俺が相手するから、伊達に公爵令嬢と結婚してないからまかせて」

 ハルキが言うとグロリアが頷く。

「何かあれば私の実家も黙ってないですし、ハルキに任せておいてください」

 それを言われてアナスタシアは安心した。後ろ盾が最強なジャスティンとハルキがそばに居れば、権力を振りかざしてどうこうしてくるやつも居ないだろう。

 愛し子の中では一番貴族に舐められてる感のあるアナスタシアは、ほっと息をついた。

 

 

 

 準備が終わると、先にリルとリアがマロン達ネズミ軍団を連れて出発する。

 先遣部隊と合流して証拠確保に乗り出すためだ。

『先遣部隊が有力な情報を入手してくれているといいんだけどね』

 マロンはネズミ達を指揮しながらため息をつく。拘束できるだけの証拠を見つけられなかったら今回の努力は水の泡だ。上手くいくかは先遣部隊の活躍に掛かっている。

 やがてリル達の乗った馬車は問題の貴族の家のそばに着いた。

『それじゃあ行ってくるよ、リル』

 マロンが言うと琥珀が言う。

『リルの護衛は任せてちょうだい。気をつけて』

「マロン、無理はしちゃダメだからね」

 リルはまだ心配そうだ。マロンは敬礼するとネズミ部隊を連れて屋敷に侵入した。

 ちなみに他の屋敷には既に他のネズミ達が騎士に連れられ向かっている。

 今回調べる貴族は四家だ。どこも不正の証拠を見つけられていたらいいなとマロンは思った。

 

 屋根裏には先遣部隊のネズミが待機していた。

 マロンを見るなり報告する。

『奴は、人に見られたらまずい書類を自室の金庫の中にしまっているみたいです。番号は確認済みです』

 このネズミはマロンに憧れて流暢に喋れるように練習した頭の良いネズミだ。いい仕事をしてくれた様だ。

『ならここは簡単だな、屋敷の主が出かけ次第書類を回収するぞ』

 マロン達は主が外出するのを屋根裏で息を殺して待った。

 やがて主は舞踏会へ出かけてゆく。

 マロン達は主の寝室に忍び込んだ。ネズミの手で金庫のダイヤルを回すのは大変だったが、何とか金庫を開けたマロンは書類を物色する。なるべく麻薬、もしくは神獣に関わる書類がいい。悩んだ末に複数枚の書類と誰かと交わしたと思われる手紙を持ち帰ることにした。

 その時、見張りをしていたネズミからメイドがこちらに向かっているとの知らせを受けた。

 急いで金庫を閉じて丸めた書類を体に括り付けたネズミ達は屋敷から退却する。間一髪バレなかったようだ。天井裏から先遣部隊が作ってくれていた通路を使って脱出した。

 先遣部隊も撤収してミッションコンプリートだ。

 リルの乗った馬車に戻ったマロンはホッとした。リルは活躍した皆を労ってくれる。

 

 リアはマロンが持ち帰った書類を確認していた。

「これは確実に黒だね。リヴィ叔父さんも喜ぶと思うよ」

 馬車は一旦リヴィアンの待つ屋敷へと向かった。

 そこで他のネズミ部隊が戻ってくるのを待つ。リヴィアンは真剣な表情で書類を確認していた。

「アナスタシアとマロン達が協力してくれて助かったよ。そうじゃなきゃこんなに上手くいかなかった。普段表に出てこない愛し子が舞踏会に参加するとなれば、興味を持たない家は無いからね。確実に各家の当主を誘い出せるし、ネズミなら屋敷にいても警戒されない。報酬をはずまないといけないな」

 やがて他の家に行っていたネズミ部隊も戻ってきて、それぞれ証拠を持ち帰る。これから先は神獣達の出番は無い。騎士達による大捕物だ。

 

 リヴィアンは協力してくれたネズミ達に最高級のチーズを出すようメイドにいいつけると、捕縛と家宅捜査の準備を始めるのだった。

 リルは大喜びでチーズを食べるネズミ達を見ながらアナスタシアを心配していた。

 何事もなく舞踏会が終わって欲しいと思う。しかし、そう上手くはいかないのだった。舞踏会会場では、別の事件が勃発していた。

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