襲撃
それは四回目の引越しの時に起こった。
この時には引越し作業にもだいぶ慣れていて、車の中で皆で歌ったり、ジャスティンに運転の仕方を教えたりする余裕すらあった。
四箇所目の拠点に神獣を移送したあとの帰り道、前を走って先導していた車が突然止まる。
ハルキが慌てて車を止めると、何やら武装した人に囲まれているようだった。ジャスティンが警戒してハルキに車の防御機能を発動させるように言う。
この車は過去の転生者が作った、無駄に高性能な機能が大量に搭載されているため、車でありながら戦車のような性能を持っているらしいとリル達は聴いていた。
それでも大勢の武装した人間に囲まれるのは恐ろしかった。
リアがリルを抱き寄せて周りが見えないようにする。
ハルキは車の防護機能を発動させて、扉を開けられないようにロックした。
前の車に乗っていた騎士が車から降りて、武装した人達を相手に戦い出す。
守りに特化したスキルを持つ騎士達が多かったようで、危なげなく戦っていた。
騎士達を無視してリル達が乗る車を目指してきた襲撃者も居たが、車の開け方がわからなくて悪戦苦闘していた。
ハルキが車に内蔵されたマシンガンを起動すると、周りに居た襲撃者が次々と撃ち抜かれていく。ジャスティンがあまりに残酷な機能にうわっと声を上げた。
リアはリルの目を塞いでいてよかったとため息をついた。
結局襲撃者達は数名を残して倒された。残った数名も騎士によって拘束され、戻り次第尋問されることになった。
神獣を入れていたトレーラーに襲撃者達を押し込むと、急いで拠点に戻る。
「犯人は明けの光明だろうね。薬物中毒者らしい人がいた」
リアは車内からずっと冷静に周りを観察していたので、挙動がおかしい者がいることに気づいていた。
「どうして私達が狙われるの?」
未だ震えが止まらないリルが、後部座席に移ってきた琥珀を抱きしめながら言う。
「きっと私達が邪魔なんだろうね……それよりも問題は、私達の移動ルートがバレていたことだよ」
リアが言うと、ジャスティンとハルキが頷いた。
「俺達の移動ルートは国でも上層部しか知らないはずだ。行きと帰りでルートも違うのに、ここまでピンポイントで待ち伏せできたってことは、上層部の中に明けの光明と繋がっている人間が居るのかもしれない」
ジャスティンが深刻そうに考え込んだ。
「薬物検査の時に怪しいヤツとか居なかったのか?」
ハルキが言うと、ジャスティンはちょっと困ったような顔をした。
「怪しい挙動をした者が居るには居たんだけど、証拠が無い。現在調査中だ」
相手はそれなりに影響力のある高位貴族だった。確たる証拠がなければ迂闊に手を出せない。
ジャスティンの父であるリヴィアンも頭を抱えていたのだ。しかし証拠がないから手を出せないなど言っていられないだろう。実際に愛し子たちが狙われたのだ。早く収拾をつけなくてはならない。
ジャスティンは拠点に居るアナスタシアは無事だろうかと心配になった。
拠点に戻ると、ジャスティンの心配をよそにアナスタシアはピンピンしていた。こちらに襲撃は無かったらしい。
「おかえり、皆どうしたの?難しい顔して、なにかあった?」
襲撃されたと聞いてアナスタシアは目を見開いた。琥珀を抱いて離さないリルの元へ行き怪我がないか確かめる。
「大丈夫だよ、車の中にいたから怪我は無いよ」
リアが言うとアナスタシアは安心したようだ。
神獣達がリルの元へ行きリルを慰める。リルはようやく落ち着いたようだった。
トレーラーに積まれていた襲撃者達は国に連れていかれた。これから尋問して首謀者を特定するようだ。
事態が落ち着くまでの間、神獣の移送は中止になった。
元気の無いリルの様子を見て、アナスタシアとリアは憤っていた。
拠点の神獣達もリルを怖がらせた奴らにご立腹だ。
犯人を見つけたら突進して行きかねない。ジャスティンは頭を抱えた。
「そうだ、ジャスティン、怪しい貴族って誰なの?」
リアがジャスティンに問うた。ジャスティンは車の中で口を滑らせたことを後悔した。
「まさかこの期に及んで機密事項だとか言わないよね?」
リアとアナスタシアに詰め寄られ、ジャスティンは観念した。
絶対にひとりで突っ走るなよと念を押して話し出す。
それはリアの予想していた通りの人物像だった。