お引越し
今日は神獣達のお引越しの日だ。旧レイズ王国の森に神獣達が移住するのだ。ハルキが車の後ろに大きなトレーラーを繋いでいる。目立つだろうなとリルは少し不安になった。
昨日の内に各森から移住予定の神獣達を拠点に連れてきている。魔物を倒せる強くて大きい子が多いのでトレーラーは一杯になりそうだった。暫くは何回かに分けてこの移動を繰り返すことになるだろう。
移動に同行するのはハルキとリルとリアで、アナスタシアはお留守番だ。護衛としてジャスティンも同行する。リルは初めての遠出に不安だったがワクワクもしていた。お弁当を用意してもらって遠足気分で出かける支度をする。
ハルキが車にお菓子を沢山つみ込んでいた。ハルキは車の中で物を食べてもあまり気にしないらしい。
トレーラーはマジックミラーになっているので神獣達も退屈しないで移動出来るだろう。神獣用のおやつもつみ込んで、準備万端移動を開始する。
一応もう一台の車で騎士達が先導してくれる事になっているので道に迷う心配もない。
運転席にはハルキが、助手席には琥珀とマロンとナツ、そして後部座席にはジャスティンとリルとリアとたぬたぬが乗り込んだ。
たぬたぬがリアの膝の上でお菓子を貰って寛いでいる。
まさか移動の間ずっと食べさせるつもりだろうかと心配になったリルは、いざとなったらアナスタシアの代わりに止めようと決意する。
動けるおデブになったと言っても、食べ過ぎは良くない。
リル達もお菓子をつまみながら、のんびりとドライブを楽しむ。
ナツが運転しているハルキの口元にせっせとお菓子を運んであげている。
ナツの健気さにみんな笑ってしまった。
たぬたぬが真似してリアにお菓子をあげようとするが、たぬたぬは後ろ足だけで立つのが苦手だった。
結局できなくて項垂れてしまった。リアはそんなたぬたぬを微笑ましげに見ている。
ナツはたぬたぬに向かってドヤ顔していた。たぬたぬは悔しそうだ。それを見てまたみんな笑った。
琥珀とマロンは景色を楽しんでいる。
旧レイズ王国の領土に入ると、マロンが懐かしそうに昔語りを始めた。
リル達にとってはここは故郷だ。見れば何か郷愁が込み上げて来るのではと思っていたが、ハルキもリアもリルもそんなことは無かった。故郷にいい思い出など少しも無かったのだ。きっとアナスタシアも同じだろう。
マロンが言うにはレイズ王国の王城に住んでいた時期もあったらしい。装飾が金ピカで品がなかったので住まいを変えたそうだ。
リル経由でそれを聞いたハルキとリアは頷いていた。リルはすこし王城を見てみたくなった。
「元レイズ王国の領土に入るのは初めてだけど、かなり街並みが違うんだな」
ジャスティンが不思議そうに街並みを見回している。
「外交をほとんどしなかった上に貴族が技術を独占してたから、建築技術も昔のままあまり発達していないんだよ。これからは変わっていくだろうけどね」
ハルキの言葉にジャスティンは納得したようだ。
街の人達は突如現れた謎の走行する金属の塊に混乱している。一応トレーラーと車の一部に目立つように国旗を付けているので、進行を邪魔してくるような人はいない。
ウィルス王国では王族のパレードがある度に車が使われてきたから知名度があるが、ここの住民たちにとっては本当に未知の乗り物だろう。まるで化け物でも見るような目で見られて居心地が悪かった。
一つ目の拠点に着くと、拠点を守る騎士達が出迎えてくれる。
トレーラーの扉を開け、リルが通訳しながら顔合わせを済ませた。
騎士達は銀狼や熊達と挨拶をかわし、森の中の寝ぐらに丁度よさそうな場所を教えてくれる。事前に神獣達にどんな場所なら過ごしやすいかを聞いて、騎士達に探してもらっていたのだ。
よく聞くと、その場所に簡易小屋を作り、絨毯を敷いてくれたり毛布を運び込んでくれたりしたようだった。神獣達は雨風を避けられると喜んでいた。
リルは嬉しかった。ここの拠点の騎士達は神獣達と上手くやっていけそうだ。
旧レイズ王国に森はあと二箇所ある。他もこうだといいなとリルは思った。