麻薬
翌朝アナスタシアとジュリアナが帰ろうとすると、お偉いさん方に呼び止められる。
「実は明けの光明の人間から違法薬物……依存性の高い麻薬の反応がありまして、その麻薬を貰う代わりに教団に協力していたようなのです。連中はその教義よりも麻薬をばらまくことで教徒を増やしているようで……お二方も周囲の人間にご注意ください。様子のおかしい者が居たらすぐに検査をする事をお勧めします」
最悪である。道理で魔物崇拝なんていう教義の集団に人が集まるわけだ。薬物で逆らえないようにしているのか。アナスタシアとジュリアナは顔を顰めて互いを見合った。
シドーに乗ってアナスタシアが帰ってくると、リルとリアは歓声を上げた。可愛らしいパンダが五匹、一緒に乗っていたからである。
「パンダさんだ!いったいどうしたの?」
「友好の証に連れて行って良いって!裏の竹林で暮らしてもらおうと思って」
拠点の裏手には管理された竹林がある。きちんと管理しないと森を侵食するので管理できる分しかないのだが、少数のパンダの餌の確保には十分だろう。元々パンダは雑食だし、餌には困らない。
見慣れない白黒の生き物の登場に、神獣達も集まってくる。
『君、なにー?クマ?』
『白黒クマだー』
パンダの方は拠点の様子に興味津々だった。
『面白そうなものがいっぱいだ』
パンダを神獣の皆に紹介すると、神獣達は早速パンダに拠点を紹介し出した。とても微笑ましい光景だ。
「あー、やっぱり平和な拠点が一番だよ。帰り際に嫌な話を聞いちゃってさ」
アナスタシアは出迎えてくれた皆に麻薬のことを伝えた。
イアンは難しそうな顔をして言う。
「恐らくマリオン王国から外交官達が戻ったら、軍や国の上層部で薬物検査が行われるだろう。いや、通信機で状況を聞いているだろうから、もしかしたらすぐにでも行われるかもしれないな。軍は入隊の時に薬物検査はするが、それ以降は何か無ければ検査なんてしないからな」
それならその麻薬常習者から情報を得られるだろうか。早く解決して欲しいとリル達は思っていた。
話が一段落すると、リルとアナスタシアはパンダの元に駆けてゆく。神獣達と共にアスレチックをパンダに紹介しだした。
「そう言えば……ここへの配属が決まった時、様子のおかしな人に声をかけられました」
キンバリーが思い出したように言う。イアンが続きを促すと、キンバリーは考えながら話し出す。
「元々ここへの配属が決まってから、これまで話したこともない人に声を掛けられることが多くなっていたのですが、その人は様子が違いました。騎士の一人なんですけど、やたらと食事に誘ってくるんです。断り続けると逆上して暴言を浴びせられました。今思えば、薬物常習者の様子に似ていたような気がします」
イアンはその騎士の名前を聞き出すと、早速上に報告しに行った。
リアは嫌な予感がしていた。愛し子の護衛に近づいて味方に引き入れようとしたという事は、自分達も狙われている可能性が高いということだ。リアは当分リルから離れないようにしようと誓う。
殺気立ったリアを腕の中のたぬたぬが心配そうに見ていた。リアがそれに気づいてたぬたぬを撫でる。
たぬたぬは安心したのか、リアの腕から抜け出してパンダに挨拶しに行った。
リアの心配を他所に、リルはパンダに夢中だった。よくテレビでタイヤにぶら下がるパンダを見ていたので、メイナードに頼んで似たような、ぶら下がれるものを作って貰おうと思っていた。
「お、パンダじゃん!なになにめちゃくちゃ可愛いな!」
ハルキが身重のグロリアを連れて歩いてきた。
「出迎えが遅れてごめんなさい、アナスタシア」
アナスタシアは大丈夫だと笑う。大きなお腹で無理をされても困る。
ハルキは子パンダに話しかけて抱き上げるとグロリアの元に連れていった。
「見てこのパンダ、可愛くない?」
『この人どうしてお腹が大きいの?』
パンダは不思議そうだ。リルがお腹に赤ちゃんが居るのだと言うと、パンダはグロリアのお腹をじっと見ていた。
グロリアはパンダの可愛さに感動していた。
「クマのように見えますが、可愛いですね。ぬいぐるみみたいです」
グロリアがハルキの腕の中のパンダを優しくなでる。
『赤ちゃんはいつ産まれるの?僕一緒に遊んであげるね』
子パンダは人間の赤ちゃんに興味があるらしい。でも人間の赤ちゃんは動物に比べて成長が遅いから、一緒に遊べるようになるのはずっと先だろう。リルはもう暫くかかると苦笑した。
「そうだ、ぶら下がる玩具作らなきゃな。メイナードと相談してくるわ」
リルとアナスタシアは同じことを考えたハルキに笑ってしまった。転生組はこういうことが多い。リル達にグロリアを任せると、ハルキはメイナードのところに走っていった。
リアは少し離れたところからその光景を見て、絶対にこの平和を守ってみせると誓っていた。イアンがそんなリアの様子を少し心配そうに見ていた。
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