番外編 猫の日
二月二十二日は猫の日ということで、つい書いてしまいました。
今日はリアの剣術指導の日だ。リルはこの日を楽しみにしていた。何故リルがリアの指導日を楽しみにするのか、それはリアの師匠であるエルヴィスが毎回沢山の素敵なお土産を持ってきてくれるからである。
エルヴィスは愛し子達を可愛がっていた。元々辛い境遇におかれていた事もあり、同情していた。だから幸せになって欲しいと思っている。
馬車が拠点に到着すると、エルヴィスが顔を出す。リルとアナスタシアは嬉々としてエルヴィスを出迎えた。エルヴィスの猫可愛がりを警戒しているリアは少し引いた場所でエルヴィスを出迎えた。
エルヴィスは駆け寄ってきたリルとアナスタシアに、王都でしか買えないお菓子を渡す。しかし今日のお土産はそれだけではなかった。
「猫は好きかい?」
エルヴィスの質問にリルとアナスタシアは頷いた。すると可愛らしい籠を手渡される。その中には可愛い仔猫が五匹ほど入っていた。
「先日うちの猫が産んだんだ。可愛いから見せてあげようと思って連れてきたんだ」
二人はその可愛さに悶絶していた。リアも駆けてきて子猫に見入っている。
「リアに指導をしてる間見ていてくれるかい?」
そう言われたリルは全力で頷いた。
リアはエルヴィスに今日は杖術を教わっている。最初は軽いレイピアから教わっていたのだが、大きくなって筋力も付いてきたので色々な武器の使い方を習っているのだ。今では最初に使っていた剣も手が痺れること無く扱えるようになっている。
リルはいつもリアの稽古を見学しているのだが、今日はそっちのけで子猫に夢中だった。エルヴィスの家には現在四十六匹の保護猫がいるらしい。なんて羨ましい環境なんだろうとリルは思っていた。
ジャスティンは兄の拾いぐせに呆れ返っていた。兄は可哀想な小動物に弱すぎるのだ。
アナスタシアが子猫たちの健康診断をしていると、拠点の皆や神獣達も集まってくる。
『その子何ー?』
『新しい仲間?』
神獣達は珍しげに籠の中を覗き込んでいた。中の仔猫が興味深そうに神獣に顔を近づけている。そう言えば、動物はあまり神獣に怯えないのだ。神獣は魔物以外を狩ることがほとんど無いので、動物は敵ではないとわかるのかもしれない。
『可愛いねー』
『小さいねー』
籠を覗き込んでは可愛いという神獣達に、リルはカメラのシャッターを押し続けた。可愛い×可愛いは正義である。
人間の事は少し怖がっている様子だったので、騎士達は少し離れて様子を見ていた。猫はリルとアナスタシアには警戒していなかった。もしかしたら愛し子は動物にも警戒されないのかもしれないと、新たな発見に驚いていた。
籠から全員出して少し遊ばせると、仔猫は神獣たちの所へ行った。神獣達は仔猫と遊んでやっている。好奇心旺盛な子が少し遠くへ行こうとすると、琥珀に首の後ろを噛まれて運ばれて戻ってきた。リルとアナスタシアは夢中で写真を撮った。
リアの稽古が終わると、エルヴィスが言った。
「そんなに気に入ったなら何匹か拠点で飼うかい?」
エルヴィスは仔猫の様子を見て大丈夫そうだと判断したらしい。稽古が終わるなり仔猫の元に駆け出していったリアに微笑ましげな視線を向けると、リル達に提案した。リルとアナスタシアは喜んだ。一番拠点の人間達に興味を持っていた二匹を引き取る事にした。
仔猫はすぐに拠点の人間達にも馴染んだ。一番人気はマーティンだ。昔から何故か猫に好かれるのだと笑っていた。ヘイデンやロザリンは構いすぎて逃げられていた。猫は気まぐれだ。
神獣達も率先して仔猫の面倒を見てくれている。何故かネコ科の神獣よりもキツネやタヌキの方が面倒を見てくれるのだが、それがまた可愛かった。
拠点に増えた新しい可愛い仲間に、皆夢中になって写真の枚数が増えてゆくのだった。
本編の時間軸の少し前の出来事です。




