表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/118

臭い餌

 イタチ達が持って来てくれた、森に大量にばら撒かれていたという臭い餌をシドーは眺めた。

『これを食べた魔物は凶暴化するという事であろうな』

 肉の中にたくさんのすり潰した薬草のようなものが詰まったそれは、人間にはただ草の匂いにしか感じられなかった。

 肉の表面には何かの焼印が押してある。その焼印を見たマリオン王国の代表達は顔色を変えた。

「これは『明けの光明』のトレードマークです」

 聞くところによると、明けの光明とは魔物崇拝のカルト宗教らしい。魔物の活動期を神による人間や生き物の選別ととらえ、選ばれた者のみが生き残れると本気で信じている団体だそうだ。

 だから活動期に人間は抗うべきではないと主張しているらしい。

 そんな団体が魔物を凶暴化させる薬を作ったとなれば、何をしでかすかわかったものでは無い。

 

 各国の代表達はアナスタシアに頭を下げた。

「ありがとうございます。愛し子様。ドラゴン様。お陰で異常な魔物の対策ができそうです」

 アナスタシアは慌てた。自分は何もしていない。シドーが神獣達の言葉を通訳してくれた結果であった。

 なんだかシドーの手柄を横取りしたようで、罪悪感に駆られたアナスタシアは、魔物によって怪我をした神獣達の治療を申し出た。今回の騒動で怪我をしたのは人間ばかりではない、今ここにいる神獣達も怪我をしているものが多くいた。無事許可を貰えたアナスタシアは、その場に絨毯を敷いてもらって神獣達の治療を開始した。

 ジュリアナはこの後の各国合同の緊急会議に参加するという。


 護衛に囲まれて、怪我をした神獣達をスキルで癒し終わった後、アナスタシアは映像通信機でリル達に連絡をとった。

 きっと心配しているだろう。案の定、数コールで映像が繋がってリルとリアが画面に大映しになった。

「大丈夫?アナスタシア。魔物に襲われなかった?」

 アナスタシアはリルの言葉に大丈夫だと笑う。そして二人に事の真相を話した。リアが話を聞いて難しい顔をしている。

「薬物だけで魔物を凶暴化させられるなら、対応は難しいね。森を巡回してその餌を探すしか無いよ。あとは森に入れないように警備を厳重にする事だけど、森は広いからね。監視を行き届かせるのは難しいと思うよ」

 リアの言葉にアナスタシアも肩を落とす。

「だよねー、やっぱり大本を断つしかないか。それは国が何とかしてくれるかな」

「任せるしかないね。私達にできることは神獣に協力を要請するくらいだよ」

 アナスタシアは元気な神獣達にばら撒かれた餌をもっと探せるか聞いてみた。神獣達は臭いからすぐにわかるという。急いで竹林や森に入って探してくれた。

 

 アナスタシアは雑談しながら神獣達の帰りを待つ。

「見て、パンダさんが居るんだよ。しかも子供の!可愛いよね!」

 リル達はアナスタシアの膝の上に抱かれたパンダを見て歓声をあげる。

「かわいい!お持ち帰り出来ないかな?」

 リルが冗談を言うと、パンダはついて行っても良いよと小首を傾げていた。

「本当?拠点に来る?歓迎するよ!」

 リルはパンダの返答に大喜びだ。

 パンダがいいなら後でマリオン王国に交渉してみようかとアナスタシアは思った。

 マリオン王国の神獣達をリルとリアに紹介していると、突然ウサギが駆け込んできた。

 

『助けて!魔物がいっぱい出たの!』

 シドーが小さいまま魔物とウサギの間に滑り込むと、一撃で狼のような魔物の首を飛ばした。ジャスティンや他の騎士も出遅れながらも次々魔物を討伐してゆく。アナスタシアの目には明らかに魔物が正気を失っているように見えた。それこそ活動期の魔物のそれに近い。


 不意にシドーが森を睨むと、森の中に飛んで行った。まだ残党がいるのかと思っていると、シドーは気絶した一人の人間を連れて戻ってきた。

 その服には「明けの光明」のシンボルが刻まれていた。シドーは一緒に肉の詰まった箱を持ってくる。

『コイツが森に餌を巻いた犯人だな』

 シドーはそう言うと、騎士のひとりにその男を渡した。騎士が慌てて男を拘束する。建物の中で会議をしていた各国の代表者たちが、異変に気づいて外に出てきた。

 

「アナスタシア!怪我は無い?」

 ジュリアナがアナスタシアの元へ駆けてきて心配してくれる。アナスタシアは平気だと言うと、拘束された男と肉の入った箱をみる。

 ジュリアナは顔を顰めて男を見ていた。

 ふとアナスタシアは肉の中に白い何かが見えた気がした。素手だったが仕方ないと薬の挟まった肉を開いてみた。するとそこには助けてと書かれた紙が挟まっていた。

 他の肉も調べると、間に紙が挟まっているものがいくつもあった。それぞれが助けを求めるもので、一枚一枚に違った情報が書かれている。どうやら監禁され薬を作らされているらしい。マリオン王国の代表は、難しい顔でそれらに目を通していた。

ブックマークや評価をして下さると励みになります。

お気に召しましたらよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ