表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おかあさんやすめ

作者: 郁章


トオルとカケルの兄弟は、熱を出してしばらく小学校を休みました。二人がすっかり元気になった土曜日のことです。いつもなら、朝だれよりも早くいちばんに起きるママが、いつまでたっても起きてきません。様子を見に行ったパパが、あわてて体温計を取って来ました。ピピッと体温計が鳴って、体温を確認してみると、なんと三十八度五分もあります。

「大変だ!ママが熱を出したぞ。」

パパが驚いています。

「朝ごはん、まだ?お腹すいたよ。」

と、そうとは知らないカケルは、のんきに言いました。

「ママの調子が悪いんだ。パパが作るよ。」


パパが作ってくれた料理はトーストに目玉焼きでした。黄みがとろっとして、白身のはしっこがかりっとしていて、おいしかったのです。

「こんなにおいしいのに、ママは目玉焼き、ぜんぜん作らないね。」

トオルが言うと、

「ママは『おかあさんやすめ』の料理は作らないようにしてるからね。」

と、パパが言いました。

「『おかあさんやすめ』って、何?」

トオルが聞きました。

「『お』はオムライス、『か』はカレーライス、『あ』はアイスクリーム、『さん』はサンドイッチ、『や』は焼きそば、『す』はスパゲティ、『め』は目玉焼きで、『おかあさんやすめ』さ。」

「そういえば、カレーライスも焼きそばも、学校では食べるけど、家では食べたことがほとんどないよ。」

「どれもおいしいのにね。」

「ママは『やわらかすぎてかまなかったり、栄養が片寄るから』って言うんだけど、どうなんだろう。パパは本当は作ってもらいたいんだけどね。」

「ぼくも食べたい。」

と、カケルが言いました。

「そういえば、カレーの作り方は家庭科の教科書にのってたよ。サンドイッチも。よく考えたら『おかあさんやすめ』の料理はどれも、ぼくにだって作れそうだね。」

トオルが言うと、

「ぼくもやりたい。」

と、カケルがはしゃいで言いました。

「よし、それなら今日はママには休んでもらって、三人でご飯を作ろう。」


そんなわけで、三人は買い出しに行って、お昼にはカレーライスを作ることにしました。

お店に行く前に、みんなで何を買うか相談しました。三人は、ママが料理するときの口ぐせになっている『まごわやさしい』の食材をなるだけ使うように話し合いました。『ま』はマメ、『ご』はゴマ、『わ』はワカメなどの海藻、『や』は野菜、『さ』は魚、『し』はシイタケなどのキノコ、『い』はイモのことです。全部食べると栄養のバランスが良くて、体にも良いのだそうです。

「カレーライスには何をいれる?」

「ジャガイモ、ニンジン、タマネギかな。」

「ママがいつも気にしてる『まごわやさしい』の材料がほとんど使えないなあ。『や』のやさいと『い』のいもだけか。」

パパが言いました。

「それなら、付け合わせに海藻サラダをつくったらどう?ワカメとレタス、それに枝豆もまぜて、ごまドレッシングをかけたら、まめ、ごま、わかめ、やさいで、『まごわや』まで使えるよ。」

トオルが提案すると、パパが手を打って言いました。

「それなら、カレーはシメジを入れたらどうだい。『し』のしいたけの仲間のきのこだ。」

「いい考えだね。やってみよう。」

トオルはニコニコして言いました。

そんなわけで、買い物へ行って三人で作ったカレーをお昼ごはんに食べることになりました。ママはまだ熱があって食欲がないので、パパが作ったネギと卵入りのおかゆを食べました。


 夜ご飯は、オムライスです。シーチキンと、タマネギ、ニンジン、ピーマン、シイタケのみじん切りを胡麻油でいためて、ごはんを加えます。ケチャップで味付けしてお皿に盛ったら、今度はときほぐした卵をフライパンに流して、薄く焼きます。全体が固まったら、お皿に盛ったケチャップごはんの上にのせて出来上がり。ワカメと缶詰のコーンと枝豆の残りでコンソメ味のスープも作りました。

トオルもカケルも、大満足でした。

ママは、ごはんとスープだけ口にして、またすぐに眠ってしまいました。

トオルもカケルも心配でした。

パパは、

「大丈夫だよ。しっかり寝て、明日になれば熱も下がってくるさ。」

と、自分に言い聞かせるように言ったのでした。


 次の日の朝は、サンドイッチを作りました。食パンにハムとレタスをはさんだもの、マヨネーズであえたシーチキンとゴマをはさんだものです。粉末のコーンスープのもとに乾燥ワカメをひとつまみ入れて、お湯をじゃぼじゃぼ注いだら、ワカメとコーンのスープの出来上がり。

「『き』のキノコと『ま』のマメがないよ。」

トオルが言うと、

「『まごわやさしい』を全部そろえるのは、大変だね。」

と、トオルも言いました。

ママの熱は、まだ三十七度八分もあったけど、コーンスープとサンドイッチをおいしそうに食べてくれました。

「トオルとカケルとパパがこんなにお料理をがんばってくれて、本当に嬉しいわ。ありがとう。」

ママはなんだかなみだ目です。まだ熱が高いからかもしれないと、トオルは思いました。そこで、トオルとカケル、パパとで相談して、ママには今日もゆっくり休んでもらうことにしました。ママは何度も「ありがとう」を繰り返しました。


 昼ごはんは焼きそばにしました。ホットプレートを出して、食卓の上で作ります。トオルがピーマンとキャベツとニンジン、シイタケを切って、カケルがごま油でいためました。それから、モヤシと牛肉もいっしょにいためました。火が通ったらめんもいためます。調味料は塩とこしょうで、塩焼きそばにします。お皿に盛り付けて、小さくちぎったノリとかつおぶしをふりかけて、さあ、いただきます。今日はママの食欲ももどってきて、焼きそばを食べることができました。


 3時のおやつには、バニラアイスクリームを食べました。なかなか食べられない特別なお菓子です。トオルもカケルも、パパもママも、ペロリと食べました。

「夕ごはんはどうする?」

「『おかあさんやすめ』のスパゲティはまだ作ってないね。」

「じゃあ、スパゲティにしよう。」

ミートソーススパゲティを作ることにしました。まず、スパゲティのパスタを熱湯でゆでておきます。パパがタマネギをみじん切りにしました。そのようすをのぞいていたら、トオルもカケルも、みるみる涙があふれてきて、大変でした。それから、タマネギのみじん切りをいためて、あめ色になったらひき肉もいっしょにいためました。お肉の色がかわったら、トマトの缶詰を入れます。ケチャップと塩で味付けして、トマトソースを作ります。ゆでたパスタをお皿に盛り付けて、トマトソースをかけたら、出来上がり。付け合わせに、レタスとキュウリでサラダを作って、ごまドレッシングをかけました。

四人とも、お腹いっぱい食べました。

「ぼくたち、けっこう料理ができるね!」

トオルもカケルも、すっかり料理が得意になった気分です。パパが後片付けしながら言いました。

「ふたりとも、りっぱな料理人だな。片付けも手伝ってくれよ。」


 その夜、寝る前のことです。

「朝もお昼も夜もお米を食べてないよ。ぼく、明日はお米を食べたいよ。」

カケルがまゆ毛を八の字にして言いました。実は、トオルも同じ事を考えていたのです。

「ぼくもだよ。」

その夜トオルは、おちゃわんに山盛りのごはんを、お腹いっぱい食べる夢を見ました。


 次の朝、ママはすっかり元気になっていました。

「みんなのおかげで、熱も下がって元気になったわ。お腹がすいて、ペコペコよ。さあ、朝ごはんにしましょう。」

テーブルには、おにぎりにみそ汁、サケの塩焼きにダイコンのつけものがならんでいました。

「これが食べたかったんだよ。ママ、ありがとう!」

カケルが食卓に並んだ朝ごはんを見て言いました。

「『おかあさんやすめ』た?」

トオルが聞くと、ママは、

しばらく目をパチパチさせていましたが、

「しっかり休めたわ。ありがとう。また、休ませてね。」

と、ウィンクして言いました。

トオルとカケルとパパは、勝利のハイタッチをしました。


お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ