4 佐竹雄大
小学校の頃、好きな子がいた。
その子は大人しくて、目立って可愛い子、というワケではなかったが、とても愛嬌のある子だった。
その子の笑顔が好きだった。
俺は口下手で、友達も少なかったが、勇気を出してその子に話しかけていた。
そんな俺にも、その子は笑顔を向けてくれた。
友達と言えるほどの仲ではなかった。
それでも、わずかな時間、俺に向けてくれるあの子の笑顔があるだけで、俺は幸せだった。
しかし小学校6年生のころ、クラスで人気のあった男子がその子の事を好きで、告白した時から日常は崩れ去った。
「ずっと好きだったんだ!俺と付き合って欲しい!」
「……ごめんなさい。まだ私、好きとかよくわからなくて……」
帰り際、教室での告白だったので、皆聞いていた。
その子が断ったことに安堵した俺だったが……。
その日から、クラスの女子からのあの子に対するイジメが始まった。
俺は友達も少なく、度胸もなかったので、助ける事が出来なかった。
そのイジメは、中学に入っても続いた。
その子は何とか学校には来ていたので、人目のないところで何度か俺も話しかけてみたが、小学校の頃のような笑顔は返って来なかった。
そんな時、あの子が学校でも有名なヤンキーと付き合いだした、と聞いた。
そんなバカな、と思ったが、あの子は常にその彼氏と一緒に居るようになった。
イジメていたヤツらもソイツが怖くて、あの子には手を出せなくなった。
俺が勇気を出していれば、あの子の隣には今頃俺が……。
交友関係の無かったあの子にとって、彼氏が全てだったんだろう。
あの子は時間があれば彼氏の傍に居るようになっていった。
そんな時、俺の両親が離婚することになり、俺は他県へと引っ越して行った。
母方の実家に戻ることになった。
苗字も、阿部から佐竹に変わった。
引っ越しから1年が過ぎた頃、どうしても気になってしまって、あの子の家に行ったことがある。
遠くから姿だけでも、と思ったのだが……。
あの子の家の表札が、違う名前になっていた。
どうやら引っ越してしまったらしい。
これで、あの子との接点は切れてしまった。
酷く後悔したのを憶えている。
時は経ち。
俺はとある企業の営業職をしていた。
学生時代、努力して人付き合いも苦手ではなくなったし、自信もついた。
成績も俺の部署内ではトップクラス。
そんな俺が、新人教育を任されることになった。
新卒のなんだかパッとしないヤツ。
まあ、仕事が出来るようになれば、俺も部署のみんなも楽になる。
ちゃんと教えてやるか。
その新人はどうやら婚約者がいるらしく、早く一人前になって結婚するんだ、と言っていた。
羨ましかった。
俺なんかあの子の事を未だに引きずり、恋愛関係においては長続きしたためしがない。
そして、その新人は成果をあげ続け、その婚約者との結婚式が行われることになった。
会社の先輩として出席したその結婚式で、まさかあの子と会えるとは思わなかった。
北山あゆみ。
俺の初恋であり、ずっと引きずっていたあの子。
まさか、こんなところで再会するとは。
そして。
……何でこんなヤツと。
こんな奴より、俺の方が……。
考え出したら止まらなかった。
諦めようとも思わなかった。
もうあんな後悔は御免だった。
あの子は依存心が高かったはずだ。
どんな手を使ってでも、俺に依存させてやる。
あの新人と同じ会社に勤めていては、俺があの子を手に入れた後、厄介だ。
なら、今辞めるか。
別にアイツが主任に抜擢されたことはどうでも良かった。
俺は俺の仕事をするだけだし、と思っていた。
だが、今なら余計な引き留めも無く辞められるだろう。
貯金もあるし、あの子を手に入れてから仕事を探しても余裕がある。
手段は何だっていい。
アイツとあの子を別れさせることが出来るなら。
汚い手を使って、あの子を脅しながら、徐々に俺に依存する様に仕向けた。
アイツにもまだ心が残っているのはわかっていた。
しかし、別れさえすれば俺にしか依存出来なくなる。
頃合いだ。
俺は動画をアイツに送り付けた。
あの子はアイツと別れることになったらしい。
良かった。
これでやっと俺のものに。
『会いたいです。雄大さん』
あの子から連絡があった。
予想通り。
俺しか依存できる相手がいないからな。
あゆみには俺が小学校、中学校の同級生だとは打ち明けていない。
このあと付き合いを続け、プロポーズする時に打ち明けよう。
そして、今までの想いをちゃんと伝えよう。
「よく来たな、入れよ」
そう言って部屋のドアを開けた。
あゆみはずっと俯いている。
まあ、離婚したばかりだからな。
この後、目一杯俺に依存させてやる。
あゆみに背を向け部屋に向かう途中。
ドンッ!!!
後ろから衝撃が。
あゆみがぶつかって来た。
と、同時に背中に鋭い痛みが。
「アンタのせいで!!!!アンタのせいで隼人と別れる事に!!!!」
続けて背中に痛みが。
「アンタさえいなかったら!!!アンタがあんな事しなければ!!!!!」
背中の痛みは増え続けている。
「返してよ!!!隼人との生活を返してよ!!!!!」
背中の痛みがやむことは無い。
「〇ね!!!〇んじゃえ!!!!!」
意識が遠くなってくる。
ザクッ!!!ザクッ!!!!!
「じ……つは……お……れ、小……中学校……で、い……しょ……だった……阿……部……雄大……な……んだ……ぜ……ずっ……と……お前……の……事……好き……だ……った……んだ」
ザクッ!!!ザクッ!!!!!
何とか……
最後に……
伝えられた
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