3 泣き寝入りする理由なんてない
あゆみの気持ちはわかった。
最初は脅されたんだろうが、今はそうじゃない。
ほぼ自分の意志で、佐竹に抱かれに行っていた、という事だろう。
なら。
「別れよう、あゆみ」
「え?ど、どうして?」
「お前が最近は自分の意志で佐竹に抱かれに行っていたのがわかったからだよ」
「そ、そんな事ない!」
「じゃあ、警察行こう」
「そ、それは……ほら、私も初め警戒心が足りなかったから」
「だから、佐竹を許す、と?」
「許すわけじゃなくて……私にも落ち度があったっていうか……」
「露出の多い服装をしていたから、痴漢は許そうってか?」
「そ、そういう事じゃなくて」
「そういう事だよ。薬盛って襲ったヤツが悪いに決まってんだろ」
「それはそう……だけど」
「最近は自分からおねだりしてたみたいだしな。それじゃただの不倫だよ」
「ち、違うよ!そんな、おねだりなんて……」
「動画に残ってるけど?」
「あ、あれは…‥脅されてたって言ってるでしょ?」
「だったら俺に知られた今は、その脅しは効果ないよな?だから警察に行こうって言ったんだよ」
「で、でも……それはやり過ぎじゃ……」
「もういい。あゆみとは別れる。佐竹を警察に突き出す代わりに、お前と佐竹に慰謝料を請求させてもらう」
「え?!な、何言ってるの?私、隼人と別れたくないよ!」
「無理。今日は近場のホテルに泊まる。近々このマンションも引き払う。荷造りしておいてくれ」
「や、やだ!やだよ!!私別れない!!」
「離婚の事は俺の両親には俺が話す。あゆみの両親には自分で話しておいてくれ」
「待って!待ってよ!」
「じゃあな」
「待ってってば!!!警察!警察行くから!!!」
「遅えよ」
「待って!隼人!!!!待って!!!!」
俺は家を出た。
はあ……何でこうなる……。
あゆみが即答で警察に行くと言っていたら、まだ考える余地はあった。
例え佐竹との関係を今は楽しんでいたとしても、だ。
それでも迷うこと無く俺との関係を選ぶなら、と考えていたんだ。
けど、そうじゃなかった。
一緒に過ごすうちに情でも湧いたか。
それならそれは、脅されて仕方なくした行為ではなく、ただの不倫だ。
俺にも落ち度はあったのかもしれない。
注意深く自分の妻の様子を見ていたら、何かしら気付いたかもしれない。
妻が俺にべったりで無くなった頃、何か気付けたかもしれない。
でも、あゆみのあの返答はない。
信頼とは最もかけ離れた回答だった。
それにしても……。
佐竹は何を考えてるんだ?
何故動画を送り付けた?
わざわざ不倫と脅していた自分の証拠を、な。
それほどまでに俺に嫌がらせをしたかったのだろうか?
当たり前だが、佐竹には痛い目を見てもらう。
慰謝料として、無職の佐竹にはキツイであろう金額を。
ごねる様ならあゆみを脅していた事をチラつかせて、必ず払ってもらう。
後は二度と俺に関わらないように、だな。
こうなる事を考えなかったのか?
俺が動画を観てしまえば、脅しの材料としての価値がなくなる。
俺がこの動画を観て、涙を流しながらそれでも興奮して、自分を慰めるとでも思っていたのか?
そうだとしたら、エロ漫画の読み過ぎだっつーの。
俺にそんな趣味なんかねえよ、クソが