とある冒険者は地元の味が恋しくなったので一時帰郷を決意した。
さて。
亡父は先史文明の遺産を好んで発掘していた、この世界では極めて珍しいアマチュアの考古学者だった。遺跡荒らしとか盗掘屋と言われると笑顔でブチ切れて竜種相手でもガチ殴り合いを始めるような人だったので、果たして純粋なヒューマンだったのかは今でも疑問だが。
亡父は発掘と検証は大好きだが、その後の管理は非常に杜撰だった。
興味を失くした物はまともに保管されることもなく倉庫に詰め込まれるのが常だったので、商会を興した母は金になりそうなものを売り払って財を成すと商会員の若い男と逃げた。その頃には父も母に対して興味を失くしていたので、彼的には在庫処分できたと本気で考えていそうだ。
祖国に献上した三体の人造巨兵も、要するに亡父が「どうでもいいや」と手放した品である。
設計図を解読し、適合しそうな部品を発見し、組み立てた。
亡父の興味は其処で尽きたので、出力調整やバランスとりに実地試験は自分の担当となった。竜種との殴り合いに勝利したのを国に目撃され、献上(穏当表現)と共に亡父が名誉貴族となったのは流石に想定外だったが。
あくまで個人的な趣味だが、人型にこだわる理由はない。
闘気を用いた武技とか身体強化系魔法などを駆使する搭乗者が能力を発揮するためには人型が最適というだけで、工作機械に人型要素はそこまで求められていない……というのが個人的な見解。ミノスの迷宮探査で組み立てた多脚重機は、その検証も兼ねて趣味全開でやらせていただいた。
人造巨兵と多脚重機にも欠点はある。
それは長距離移動が苦手ということ。自分が同行してこまめに修理すれば回避できる問題ではあるが、そこまで付き合う義理はない。多脚重機に火薬詰めてボンバーしないだけ有情ですらある。そもそも蟹や蜘蛛を連想させる多脚重機で大陸間移動とかしようものなら、どう考えても途中で冒険者や魔物に襲られるだろう。ついでに言えば訓練された冒険者でもなければ三半規管が耐えられるとは思えない。
ではどうするか。
多脚重機は収納技能で持ち運べばよい。交換部品にメンテナンス指示書も用意した。
ただし第一王子達に同行するのは自分ではない。
『ちーっす! 御指名あざーっす、古代機械のメンテから御主人サマへの前立腺☆パーンチまで手広く御奉仕サービスゥ事務所の自動人形NoBと愉快な【TS転☆生したんだから尻を掘られても超☆兵器。むしろサービス二倍増☆な元戦国舞将ども】でーっす☆』
「チェンジで」
『たはー☆』
日焼けで褐色肌をこれでもかと露出させたエルフっぽい美少女と、かろうじて侍女服に見えなくもないが目のやり場に困る衣装を身に着けたこれまた見目麗しい個性的な美女達――自動人形である。
先史文明においてドワーフの地下王国が開発した動物型人形を祖とするそれは、魔女の島で技術復興するまでは遺跡発掘で入手するしかない希少な魔道具だった。いや現在でも希少性は高いし、自動人形は所有者を己の意思で決めるという特性を持つ。この辺の情報は冒険者や一国の貴族階級に所属する者ならば基礎教養の範疇である。
彼女達に強烈なダメ出しをしたアーデルハイト公爵令嬢もまた、分かっているはずだ。
『えー、待ってほしいでござるよ☆奥方様。無事に送り届けたら独自に☆ご主人様☆を探してウチら幸せを捕まえるから、奥方様は安心してハメハメハ大王イエーイ!』
「何ひとつとして納得も安心も理解もできません」
『超☆塩対応!』
いや残念だけど当然かな。
ちなみに初手ディープキスを喰らった第一王子殿下はアーデルハイト様に頬を貼り倒された後、簀巻きにされて転がされている。
「……トロイア騎士爵子息、この人選には納得できません」
「自分も紹介所には『護衛。ただし契約者の世話の他に行政関係の実務能力あれば長期雇用可。腹心としての採用もあるので男性型が望ましい』と要望を伝えたんですけどね」
『前世の人格モデルは男性ダ☆YO☆』
「いまはド助平ボディなんだよなあ、君ら」
真なる巨人の国と交易が始まったことで、この街には自動人形達が数多く訪れるようになった。
それ以前は魔女の島固有種族と思われていたのだが、真なる巨人の国にて修復可能な自動人形が多数発見されたのだ。錬金術師や人造巨兵の技術者が国の要請を受けて頑張った結果、冒険者ギルドとはまた別の斡旋組織を設立して様々な仕事を請け負っている。
カタログスペック通りならば人造巨兵と互角に戦える、見目麗しい人形達。
それが本当の機能を発揮するには、彼女達の基準で主と認めるに相応しい相手と契約する必要がある。そういう制御機構が設計段階で組み込まれているのだ。
『ご安心だYO☆奥方様。このNoB。NTR趣味ないから。純☆愛サイコー。要求されない限りは☆複数プレイはノーサンキューだからねっ』
「出会い頭に殿下の唇を奪っておきながら、何をいけしゃあしゃあと」
『はっはっは。リップサービスは初回ログイン特典?』
「視線逸らして言うことではありませんね」
駄目かもしれんなあ、これ。
「アーデルハイト様。斡旋組織に連絡入れて動物型の自動人形を紹介してもらうよう再度要請しますね」
「頼みますトロイア騎士爵子息」
『ま、待って! 心を入れ替えるから! パンツは純白だから! 心の白さが現れるような真っ白☆で!』
駄目ですわ、これ。
その後、大型犬モデルの自動人形と無事に契約を結ぶに至ったアーデルハイト公爵令嬢は、NOB以外の自動人形を護衛という形で仮雇用して故郷へと帰還した。第一王子殿下は相変わらず簀巻きのままだったが、NOBのディープキスで股間を膨らませていたのだから弁護の余地もない。
持ち帰るのは多脚重機三両と人造巨兵が一輌。
祖国にて二人を待つ結末がいかなるものか、自分にはわからない。
別れの際に第一王子は公爵家の婿入りかなーと小さく呟いていたが、祖国の政変次第としか言いようがない。異母弟の第二王子は為政者として真っ当な感覚を持っていた。周辺国含めて余計な陰謀を張り巡らせるような事態にもなっていないはず。
聖女。
その二文字がどうにも引っ掛かる。
神々が実在し、場所によっては顕現しているこの世界。神と奇跡の実在は宗教という概念を道徳思想の範疇に留まらせ、過剰な信仰はむしろ神の側が抑制する傾向にある。神々は造物主でもなければ世界の支配者でもない。
聖女というのは狂信の末に至るものか、あるいは度を過ぎた寵愛の形だ。
与太話の類でも無視できるものではない。
「……そういうところなんですよ、殿下」
万が一にも聖女が本物であれば。
それが異母弟や家族臣民を惑わし誑かし害する者であれば。
あの方は一切合切の汚名悪名を背負い、刺し違えてでも王族としての責務を果たすだろう。王宮勤めの頃、そうやって自分や暗部の人が何度も何度も巻き込まれたのだから。もちろん何事もなければ笑って誤魔化して、アーデルハイト様との婚姻を望まれるのだろうけれど。
はあ。
必要な機材の類は収納技能で確保済み。
冒険者ギルドには長期離脱の手続き済み。
知り合いの薬師工房を訪ねて薬を買い込んだら、情報の裏が取れてしまって鬱さ倍増。故郷の大陸に渡る外洋船の伝手を紹介してもらえたのは、不幸中の幸いか。少々痛い出費だが、竜脚鳥を買ったので向こうの大陸でも移動手段には困らないだろう。
いざ海を越えて。
たまには帰郷も悪くない。
【登場人物・用語説明】
・主人公
名称不明。公的にはトロイア騎士爵家の息子と呼ばれることが多かった。遺跡発掘キチの父親に幼少期から振り回された。オーパーツを組み立ててすうぱあろぼっとを完成させたため父が貴族に、自身が王家の小間使いにされる。成人前にそこそこ良い貴族家の養子となった後で王家の娘と結婚する予定だったが、その前に父が行方不明になって速攻で死亡認定。国を追い出された。
収納系スキルや古代知識に機械系の知識と技術が豊富。ロボットや重機や船舶などをスクラップから再構築できる。祖国を出た後は迷宮都市ミノス→魔女の島(セップ島)→門前都市ブリストン(薬師ジェイムズの舞台)と渡り歩いた。実績評価がつくまえにその場を離れてしまうので冒険者としての等級は年相応。
無自覚に数多の女性相手にフラグ構築しては餌も与えず放置している点では父親以上の屑。
・主人公の父親
トロイア騎士爵。元は商家でアマチュア考古学者。遺跡のためなら実の息子を竜族の姫様の入浴中に放り込んでT●LOVEる間に調査するのも辞さない。ろぼっと三機を国に巻き上げられる代わりに貴族になったが敵が多い。発掘調査中に殺されかけたが行方不明という扱いで姿を消した。ムスッコならしぶとく生きてるだろうと確信している。屑。
・冒険者チーム「アルゴナウタイ」
迷宮都市ミノスで最長不倒距離を更新したベテラン冒険者。主人公とは昔からの付き合いで、身内同然にかわいがっていた。主人公父の被害者同盟でもある。主人公を仲間にしなかったら精々五十層程度で全滅してただろーなあと分かっている。引退後は権力と距離を置いて楽隠居の予定だったが、たぶん主人公のピンチを知ってうきうきしながら助太刀に出るだろう。
バックアップおよびベースキャンプの要員は迷宮都市で知り合ったビジネスパートナーのようなものだが、今でも仲が良い。
・竜族の姫
竜族の聖域を守護管理していた。男性への免疫がなく、裸体を目撃された上に抹殺に失敗した主人公を憎んで憎んで憎んで、ある日感情が裏返った。花嫁修業の末に行方を捜し迷宮都市から魔女の島へと移動し、世の中には敵に廻してはいけない物の存在を知るに至る。現在再修業中。
・蛋白石竜
オパール化した仔竜の化石。が半ば精霊化したもの。
どんだけ厄いかといえば、竜族の急進派がこれを知ったら大陸制覇の旗印に掲げて魔女の島と総力戦を辞さないくらい。主人公が竜族の里で穏健派に話を通した上で魔女の島へと連れて行き、穏やか(?)に暮らしている。人化を覚えたら主人公の寝込みを襲う気満々である。
・第一王子
祖国の次期王と目された人。乱世であれば大陸統一くらいできた人。それを自覚した上で平和の大切さを理解していたので窮屈な毎日に心が腐りかけていた人。主人公がいなかったら乙女ゲームで氷の貴公子()とか異名背負って後年悶え苦しんでいた。侍女のアーデルハイトと結婚したくて冒険者になるかなーとか考えていた頃に主人公探してクレメンスと王家と暗部の依頼で、主人公が塩対応しなさそうな人材として派遣される。一服盛られて逆レされた後は公爵家婿入りを真剣に考える。
なお祖国の異変については全ての責を己が背負うことで弟妹含めて王族と民を守る覚悟を決めていた模様。
・アーデルハイト公爵令嬢(侍女)
第一王子の婚約者だったけど初手メイド服で接したため、ずっと第一王子の側近という扱いで周囲がもやもやしていた。逆レする前から尻に敷いていたようなものだが結婚の障害が無いと分かった第一王子の第一王子が立った勃ったオウジの王子が立ったと大変な目に遭った。しかしNoBは許しません。
・第二王子ほか王家の皆様
第一王子の婚姻とか後継者問題をどーすんべーと悩んでいた時に迷宮都市の話を知る。旧友()と会えば連中の意識改革もあるだろうと送り込んだら聖女()の御蔭でやべーことになった。手遅れにはなっていない。
・聖女
おもいこみがはげしいひと。
・自動人形
真なる巨人の国で発掘レストアされたエルフ型人形シリーズ。下着はマイクロビキニが基本で肌は褐色、オタク君に対して妙に理解があって言動ビッチの癖に初心で奥手という謎仕様をインストールされている。そのため異種婚姻目的の多種族女性から「あれはルール違反では」と物言いが出ている。
制御頭脳には異国の武将系イケメンも相当数あったのだが、修復工程でJKビッチダークエルフな身体しか用意されておらず性自認の混乱と肉体欲求の桶狭間で悩むことが多く、その姿が独特の色気を(以下略)
・人造巨兵
本作のそれは、いわゆるパワードスーツ。魔法の力で動く。普及しているモデルは力はあっても機動性は低く、単機ではトロウル相手に善戦できる程度。主人公が組み立てたものはドラゴンと殴り合いできるくらいのブッ壊れ性能だった。三輌製造されて国に献上された。主人公が物語の最後に第一王子に贈った一輌は、それら三輌よりも性能が向上している。
・多脚重機
主人公が迷宮の奥で擱座していた人造巨兵の部品から組み立てた。大型キャンピングカーに巨大な蟹の足が沢山生えたようなコンセプト。搭乗最大15名。それが三輌。地形適正は陸A海B空Cくらい。ごく短時間なら飛べる。迷宮内はほぼ無限に動けるが屋外では燃費がクッソ悪い。
・NoB
真なる巨人の国で発掘された自動人形の一体。外見はむちむちばいんばいんのダークエルフなJKだが、これは本来の姿より大きく逸脱している物の中身の知性体の要望に従って修復された結果。オタクに優しいギャルを装っている。甘党。ブリストンの街で自動人形達の斡旋組織【安土JOY】を営む。自動人形達の顔役。
秘密結社ユニオンプロジェクトが組み上げた人類統治用管理AIが仮装人格の一つとして組み上げた人工知能。数々の経験を積むことで文字通りの人格を取得するに至り、大切な者達との出会いと喪失を経て魂を形成した。その魂は時空を隔てた同位体に共鳴現象を起こし、秘密結社が送り込んだ偽りの自動人形達の人格プログラムを書き換え機能不全に陥らせることで休眠状態にさせた。神々との闘争に乗じて人類種以外の知性体を殲滅する使命を帯びていたはずの殺戮人形達は、ぽんこつ処女ビッチJKダークエルフ風慰安人形として再構築され新しい世界を謳歌する。