とある冒険者は冒険者であることを決意する。
数話で完結予定です。
冒険者になったきっかけは割と単純で、一代限りの名誉貴族だった父が遺跡調査中に行方不明となった為だ。
元より子に爵位は受け継がれない。
戦働きで騎士叙勲などされれば話は別だが、何の因果か王族子女子弟の小間使いとして搾取されていた自分には表沙汰にできる功績など存在しない訳で。父の扱いが行方不明から死亡認定となった日、貴族籍返還に伴い自分は祖国より放逐された。
口封じされなかっただけ御の字である。
直属の上司からは「君、スジがいいから国に残って暗部に雇いたいくらいなんだけどさ。下手に国に残してたら【身内に不幸あればワンチャンあるよ継承権持ちの女子複数】が【おらおら素直に権力寄越せば血は流さないしテメーらも幸せな老後を約束してやんよ】を実行しかねないというか。もー、自業自得なんだけど君ってばどんだけロイヤル女子の脳味噌破壊しまくったんだか」という謎の評価を下されたため、国内での再就職は勘弁してほしいというか事実上不可能らしい。
よろしい、ならば冒険者である。
幸いにも冒険者ギルドとは幾度か仕事で御縁があったので、登録時に課せられる講習の幾つかは筆記試験という形で突破できた。
父が爵位を押し付けられる前は自分も遺跡探査に巻き込まれていたので、当時の護衛だった冒険者チームに野営の基礎を叩きこまれていたのも大きい。王宮で小間使いをやっていた時期も彼らとは連絡を取り合っていたし、行方不明になった父の捜索に力を貸してくれたのも彼らだ。
「国を出ていくのか。なら丁度いい、実はな」
迷宮都市ミノスの探索。
それは冒険者にとってひとつの到達点らしい。
大陸有数の巨大な迷宮を複数擁する彼の地は、様々な意味で冒険者憧れの場所らしい。定期的に国軍主導で間引きが行われるのである程度の安全性は確立されているが、最深部の探索は達成されておらず迷宮の全容は明らかになっていない。
そのため都市を挙げて冒険者の支援体制が整っており、現役の最後を締めくくる標的としてミノス迷宮探査を掲げる冒険者も少なくないそうだ。
「俺達の最後の冒険が、君の門出の冒険となる。これほどの名誉はない」
厳つい顔のため誤解されがちだが、面倒見の良い彼らを慕う冒険者は多い。自分もその一人だ。
「収納技能はあの頃より鍛えてあります。兵站は任せてください」
「ああ。竜族の姫君の水浴びを目撃し、三日三晩の追撃を見事に逃げ切った君の危機察知能力と体術に期待している」
「……え、そっちですか」
「物資管理にも当然信頼しているから、な?」
竜族の遺跡を調査するためと称し、かつて父は遺跡の守護者である姫君の前に自分を放り込んだ。よりによって姫君の沐浴の最中に。
逃げたよ。
そら逃げたさ。
問答無用だったしね、お互いに。
そうだね。父は死んでも仕方がない屑だった。遺跡調査のために実の息子を生贄にした訳だし。逃げ切ったけど。
読んでくれてありがとうございます。