学園に帰還
窓がなく散歩もできないような窮屈な拘置所生活を終え、学園の寮に戻って来た。学校も規則が多く時間を拘束される窮屈な場所だが、自室からは緑の芝生が見え、門限を超えない限り学園内の往来を事由に行くことが出来る。食べ物にナイフを入られて検閲を受けたり、他人との交流を妨げられたりすることもない。普通の日常を送るために、都度賄賂を送るような拘置所生活とは雲泥の差だ。学園の寮に滞在するのは爵位持ちの貴族の子弟である。相部屋なんてありえない。
帰還してしばらく、私は自室で思いっきり寛いだ。キティの出してくれた芋菓子をバリバリと食べた。コーラが飲みたいところだが、この世界には気の利いた炭酸清涼飲料がない。
寛いでいたら、部屋にノックが来た。私は貴族にあるまじき部屋着だった。
訪問したのは寮母のクロックワイズ子爵夫人だった。彼女は下位貴族の未亡人で、ぎすぎすに痩せた女である。その立ち姿は、数学で使うコンパスみたいだ。言っちゃ悪いが、色気ゼロ。未亡人ってもっと色っぽいものだと思っていた。
「呼び鈴を押してから、ずいぶん待たされたざますが……」
夫人は三角形のメガネを頻繁にずり上げている。イライラしているようだ。私が起こした不祥事に腹を立てているか、待たされたことに腹を立てているのか?
「失礼しました。入浴していたもので」
「入浴時間はまだざます」
「規則を破ってごめんなさい」
そこから小うるさい訓示が続いた。
「淑女たるもの、規則を守り、身だしなみを整え――。そうでなくては、――。ようござんすか、王国を支えるためには――ざます」
この話はいつまで続くのだろう?
「ええと、クロックワイズ子爵夫人はご用件があって訪問なさったのですよね」
「学長が今回の事件のあらましを通達したざます。よって、生徒たちに混乱はございません。裁判で明らかになるまでは、騒ぎ立てないことを全生徒に約束させたざます。騒乱を起こした者は罰則を適用するざます」
私は一生徒として保護されていることに、胸をなでおろした。
「このようなご配慮を頂き、学園にもクロックワイズ子爵夫人にも感謝に堪えません」
ここで良い話だけで終わらせないのが、我らが寮監である。小言で締めくくられた。
「裁判で無罪が証明されない限り、貴方に対する疑惑の目を完全に反らすことが出来ないざます。学園の規則をきちんと守り模範的な生徒となることが、貴方の生活を守ることにつながるざます」と言われ、学則を復唱させられた。
一、学生の本文を忘れず、自己研鑽に励むこと
一、身分をわきまえ、節度を持って人と接すること
一、学園職員の指示に従うこと。職員の指示に納得できない場合は、学長に申し出ること
一、時間を順守し、規則正しい生活を送ること
門限より遅い時間の外出は、国家の要請と家族からの請求にのみ許可される
一、国法を順守すること
一、以上の学則を違反した者は、退学に処する
さて、これからは私に降りかかった疑惑を晴らすことにしよう。与えられたのはたった二十日間しかない。期間内で真犯人を証拠と共に挙げることができれば、目的を達成することが出来る。
期間が短いため、ヤマを張ることにした。私と悪役令嬢を繋ぐのは、ゲームのシナリオである。どのシナリオでも悪役令嬢は出て来た。よって、シナリオの目的である攻略対象キャラこそ、事件の鍵を握っているのではないか。
攻略対象は四人いる。私はゲームのメインシナリオの攻略対象である、ダイアモンド王家の王子シャフルに近づくことにした。シャフルはメイフォローと婚約していたのだ。最も疑わしいキャラといえる。