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開廷

昨日は二重に同じ内容を投稿したみたいです。

申し訳ございません。

 裁判所は傍聴者が詰めかけていた。被害者の家族であるハンド公爵や公爵夫人がいる。だが、それだけではない。ハンド公爵家という名門の令嬢が殺害されたということから、記者や物見高い野次馬もいた。


 がやがやする裁判所に判事が木槌を打ち黙らせ、検事の冒頭陳述が始まった。


「被告人ワイルドカード男爵家ヒマリは、六月六日にクイーンランド公爵家令嬢メイフォローを、学院の中庭にて鈍器で殴り殺害した。被害者の頭部には七か所の陥没があり、そのうちの一つが致命傷となったと見ている。凶器は被告人宅の倉庫にあった工具で間違いない。殺害動機は被告人から被害者への嫉妬である。被害者の婚約者であるダイアモンド王家のシャフル王子に、被告人は懸想した。そのことによって、被告人と被害者は対立していた。公爵令嬢殺害の下手人として、被告人の死刑を求刑する」


 エース・リボークの反論が始まった。


「確かに被告人は実行犯です。ですが、被告人は公爵令嬢殺害時に魔法をかけられていました。それによる発光は多数の目撃者がいました。故に、被告人を殺害犯とするのは無効です。殺人に使われた凶器自身に罪がないように、ヒマリ嬢にも罪がありません。魔法をかけた者こそ真犯人です」


 検事は弁護に反論した。


「弁護人が言っていることは全て空想の域を出ない。証拠があるとでも言うのか」

「証拠はあります」


 エース・リボークは、三つの事実を挙げた。ワイルドカード男爵家が襲撃された事実、その中の盗品に魔法媒体「臍の緒」があった事実、私が発光したという目撃証言があった。これらは証拠や供述書として、裁判官に提出されている。


「禁術をかけられたものは、魔法光を帯び発光します。被告人は事件当時に発光していましたから、何かしらの魔法をかけられた事は明らかです。証拠で提出したように、事件が起こるかなり前に魔法媒体になりうる臍の緒が盗難されています。被告人の臍の緒を盗んだ人物か、それを買ったり譲渡されたりした人物が私に魔法をかけたのは明らかです」


 検事が再反論した。


「盗難事件という偶発的な事件を利用した可能性がある。被告人が自作自演した可能性さえ消えていないのだ。ヒマリ嬢が犯人ではないという証拠にはならない」

「盗難事件は誰が起こしたか知っています。それを明らかにしたら、私が自作自演していないという証拠になります」


「その犯人は誰かね」


「全て仕組んだのは被告人の異母妹です」


 新しい、聞き覚えのない名前が挙がったところで、裁判所は再びガヤガヤとした。裁判官が「静粛に! 静粛に!」と声をはり上げた。静まったところで、エース・リボークは続きを述べた。


 検察は思わず、という体でつぶやいた。


「そんな人物がいるのか」


「私生児ですから、記録にはありません」


 裁判官が割って入った。


「記録がないなら、どうして異母妹だと分かったのですか?」


「彼女は盗難事件のどさくさに紛れ、被告人の臍の緒を奪って禁術を使いました。臍の緒は平民の盗賊からしたら意味がない物です。保管場所も被告人の私室にありました。女の子の小物でごちゃごちゃした部屋からわざわざ探し出して、見つけるような代物とも思えません。ワイルドカード男爵家に詳しく、なおかつ更に魔法に通じていないと盗まないものです」


 検察が反論した。


「平民では、魔法が使えないだろう」


「いいえ、彼女はヒマリ嬢の侍女をしていますが、れっきとした爵位持ちの貴族、ワイルドカード男爵の血を引いています。それを証明したく存じます。証人として、異母妹を召喚します」

 証人席には誰も来なかった。リボークはキティを指さした。


「キティ・ジョーカー。君がヒマリ嬢の異母妹だ。知っているだろう?」

 キティはいたずらを見つかった子どものように、舌をぺろっと出した。可愛くはない。なんとなく、昭和のオタクか、ピン芸人のような所作だ。


「秘密なのになぜ、ばれたのでしょうね」


 キティは傍聴席から出て、証人席へやって来た。裁判官はキティを促した。

「証人、名前を言いなさい。そして、真実を喋ることを誓いなさい」

 キティは胸に手を当てて、つらつらと宣誓した。


「私の名前はキティ・ジョーカーです。良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」


 私はリボークに促され、キティの横に並んだ。


「裁判官、見てください。彼女たちは髪の毛こそ違いますが――」


 ここでキティの赤い髪の毛を帽子の中に入れた。私も自分の髪を手持ちのスカーフで隠した。

「被告人と証人は同じ色の、深緑色の瞳、顔立ちも似ている。そうは思いませんか」

 検事がぼそっと呟いた。


「似ているから、数いる使用人から侍女に付けられたのだろうよ」


「このキティは被告人の父マークの腹心の部下、ビッド・ジョーカーの一人娘です。ビッド・ジョーカーは黒髪黒目でキティとは似ていません。むしろ、被告人の父マーク・ワイルドカード男爵に似ています。ビッド、そしてキティとヒマリ嬢は同じ深緑色の瞳をしています」


「ヒマリ嬢とキティ嬢では髪の色が違う」


「母親の形質もあるでしょう。ただ、父親の腹心の部下の娘がこれだけ似ていることを、偶然と片付けるのはもう少し検証した後にした方が良いです。被告人の父マーク・ワイルドカード男爵は慈善事業で孤児院を経営していますが、その目的は娼館の働き手を確保するためです。娼婦を見定め、『研修』を受けさせることはマーク・ワイルドカード男爵の仕事であるばかりではなく、趣味でもあります」


「裁判官、異議を申し立てます。キティがマーク・ワイルドカード男爵の子どもというのは推論に過ぎません」


 検事の言を裁判官は遮った。


「私には重要なことに思える。異議を却下する」


「マーク・ワイルドカード男爵は娼婦に自分の子供を産ませましたが、処置に困っていました。そこで、彼の腹心の部下ビッド・ジョーカーに預けました。当時の出生証明書に父親は空欄になっています。産婆の証言では、母親が娼婦だったことを証言しています。出生証明書と供述は証拠として提出します。裁判長、キティが貴族の血を引いていて、魔法が使える可能性があることを気に留めておいてください」


 検事が再反論した。


「だとしても、証人キティ嬢と被害者のメイフォロー嬢とは接点が殆どない。動機が不明ではないか」


「メイフォロー様を害する動機ではなくて、被告人やワイルドカード男爵家を害する動機なら説明できます。キティ嬢は被告人と同じ父親を持ちながら、片方は棄てられたと同然の境遇です。恨みを向けられても仕方ありません。したがって、動機はありえますし、その件はキティ嬢が起訴されたときに明らかにすべきでしょう」


 エース・リボークはキティに向かい合った。


「キティ嬢、あなたは被告人に『脱獄するな』と言ったという」


「はい、言いましたよ」


「そのとき、脱獄の方法を私にレクチャーしませんでしたか」


「レクチャーというより、そういうことをしないようにと注意しました」


「具体的に何をしないかを思い出して言ってください」


「淑女として恥ずかしくない行動を、と」


「淑女として恥ずかしい行動は具体的にどういう行動ですか」


「脱獄です」


「貴方は脱獄の方法を詳しく知っていました。身体に石鹸を塗りたくって格子からで出る方法など詳細に……」


「聞きかじった知識です」


「確か本で読んだとか」


「……そんなこと言ったような」


「他にも、貴方は知っていることがありました」


「スペード家に隠されたお嬢様がいることも知っていました」


「あれは、一緒に修道院に言ったから知ったことでは?」


「いいえ、インデクス・スペード様に紹介されるよりも前に貴方は被告人に耳打ちしていました。また、知っていたことをインデクス・スペード様にうっかり喋り、インデクス様の不興を買っていました」


「それは使用人仲間では有名な話ですから」


「使用人の中で有名な話でも、貴方は知りえないのですよ」


 キティはさも意外という体で反論した。


「そんな訳はないでしょう? 私も使用人ですよ。知っていて当たり前ではないですか」

「貴方は使用人仲間に疎まれていました。貴方が通るだけで、使用人同士のお喋りが止んでシーンとしてしまうところを、被告人は何度も自邸で見かけました。他の使用人から供述も取ってあります。だから、あなたに噂が伝わることは考えられません」


 キティは無言でいる。


「また、先ほどの脱獄についてのレクチャーも貴方は知りえないことです。貴方は本で読んだと言っていましたが、貴方の家は多額の借金があり節約に励んでいました。だからこそ郷紳階級でありながら、能力的にも問題がありながら、侍女として働いていたのですね。私はジョーカー家の借用書も控えてあります。これは証拠として提出するものです。そんな貴方に小説などという贅沢な娯楽を購入できたとは考えられません。使用人仲間にも疎まれていた貴方に本を貸してくれる人はいないでしょうしね」


 検事は裁判官に向かって制止を要請した。


「裁判官、被告人は関係ないことを推測だけで言おうとしています」


「裁判官、待ってください。すぐに確認が済みます」


「異議を却下します。弁護人は速やかに確認をして下さい」


「つまり、被告人は知りえない事実を知る能力を持っているということです」


「被告人がこうしたことを知りえているのは、魔法によるものです」


「常々、魔法を使っているということの証明に他なりません」


「仮に証人が魔法を使えるとしても、『使える』という能力と『使った』という実績は別だ。必要なのは、被告人が自分自身に禁術をかけていないという証拠か、キティ嬢が魔法を行使したという証拠だ」


「誰かが何かをしていないという証明はとても難しく、悪魔の証明とも言われています。ですから、私はキティ嬢が魔法を行使できる証明を行いたい。最後の証人に、シャフル・ダイアモンド王子に来ていただきましょう」


あと数話で終わる予定です。

下の☆☆☆☆☆より評価を頂けると励みになります。

差し支えなければ宜しくお願い致します。

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