ミゼールの弁明
仕方ない。秘密を話すから、これで納得してくれ。言っておくけど、僕はメイフォローを殺してなんていない。
パック・パンターという奴が学園にいるだろう? そうそう、一つ年上の次男坊。あいつは、メイフォローに虐められていた。僕たち上位貴族の子どもは同年代だと、小さい時から顔見知りだった。幼馴染ってやつさ。パック・パンターは小さいころから、女の子よりも華奢な奴だった。メイフォローはパックを「おかまちゃん」と呼んで目の敵にしていた。すれ違うと取り巻きと嫌な感じのうわさ話をして大声で嘲笑したりしていた。メイフォローは昔からやりたい放題だった。自分よりも可愛らしいパックに嫉妬していたんだろうな。
僕も同じ様に、いじられていた。学園に入る前になると、それがたまらなく嫌になった。お前みたいな下位貴族たちの前で、メイフォローのパシリをしたり侮蔑されたりすることを想像したのだ。そんなことになれば、僕の学園生活は暗いことになる。我が家の威光は傷つき、トレセッテお姉さまの縁談にも差し障るかもしれない。だから、勇気を振り絞ってメイフォローに談判した。ああ、言われてみれば、僕には談判なんて威勢のいいことはできない。泣き落としがせいぜいだった。学園では見逃してほしいって懇願した。そうしたら、どうしたと思う? メイフォローのやつは、交換条件を持ちかけて来た。
「学園に入ったら、無視してほしいと? お望みどおりにしてほしいなら、そうね……。大切なお願いですもの。でも、只で引き受けるのは、いやね」
最初は幼馴染のよしみでお願いした。それではメイフォローは納得しなかった。宿題をやるとか代替案を提案したのだ。僕は座学トップだから。でも、結局は全部断られた。
「座学は私、得意なのよ。必要ないわ。侯爵家のあなたの持ち物で、私が欲しいものなんてないし、学園でも今までと同じように私の便宜を図ったり、耳目を楽しませたりしてくれれば良いのではなくて?」
僕は目の前が真っ暗になった。いつもならそこで諦めた。だけど、僕だけではなく家族のことを思うと、もう少しだけ足掻くことにした。僕の刺繍を見せた。ヒントはメイフォローと僕は同じイニシャルだから、僕の私物を自分の作品にして良いと言ったんだ。メイフォローは食いついたよ。彼女が不器用で飽きっぽいことから、彼女は手芸がダメダメなのは察しがついていたからね。あの技術であの性格では、学園が求める水準の緻密な刺繍を最後までできないだろうって。
メイフォローが死んだと聞いたときは、驚いたよ。彼女は憎たらしくて、殺しても死なないと思っていたもの。死んでほしいとまでは思っていなかった。一応、幼馴染だ。好きではなかったけど。刺繍のことは、癪だったけど恨みには届かなかったよ。だって、結果的に僕の作品が高く評価されたのは気持ちが良かったからね。
これで、僕が抱えていた秘密がメイフォローの死と関係ないことが分かっただろう? 僕が殺害したという根拠はこれでないはずだ。これ以上僕に付きまとうなら、何か証拠でも持ってきておくれ。
そもそも、お前にはメイフォローを殺す動機がある。目をつけられて、執拗にいびられていたからな。僕と違って。今回の手並みを見ていると、的外れな結果に行きつくのではないか? 僕みたいな善人の隙をついて、冤罪を押し付けることになるのではないか。
自分自身に暗示魔法をかけてメイフォローを殺させて、忘却魔法を自分の脳にかけた可能姓もある。まずは自分自身を疑ってから、他者を疑うのだな。事件があった日に、寮にある君の部屋が光ったのを僕は見た。君自身が犯人であると僕は思っている。