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カードゲーム

 インデクスのヒントを元に、私はミゼールについて調べることにした。表面的なプロフィールは直ぐに出て来た。ミゼール・ハート、十五歳。宰相であるミゼール侯爵家の長男。姉が四人いる。長女のマイティは、国内の上位貴族に嫁いでいる。次女のトラポラも同様に嫁いでいたが、夫を亡くして寡婦になっている。三女のアリュエットは、遠い外国の王族に嫁いでいる。四女のトレセッテは未婚でまだ学園にいて、私たちの上級生をしている。


 表面的なプロフィールからは、ミゼールがメイフォロー殺人事件の関係者かは全く分からない。そこでインデックスに頼ることにした。


「俺とミゼールは、カードゲームの同好の士だ。定例といって決まった時間に二人っきりでゲームをする。ゲームをしていれば、人となりが分かるってもんだし、ヒマリは見学するか」


「お願い致しますわ。ところで、インデクス様はゲームをしていて、ミゼール様が犯人か分かりますか」


「分からん」


 二人の深遠なゲームの世界に素人の私がお邪魔させてもらった。ミゼールはゲームについて何も知らない闖入者(私)を見て眉をひそめた。


「なぜ、男爵令嬢がここにいる?」


「ヒマリはカードゲームに興味があるのだとよ。一度見学したいって言っていたから、呼んだ」


 私が興味あるのはゲームではなく、ミゼールなのだ。ミゼールは秘密を抱えている。その秘密はメイフォロー殺人事件のカギになっているのかもしれない。そのことを知るために、インデクスに同席できるようにお願いしていた


「僕たちのレベルの戦いを素人が見たって分かるものか」


「見るだけなら、こちらに損はないだろう」


 インデクスは洗練された手つきでカードを切った。ミゼールは不満そうな顔をしていたものの、カードを配られたらおとなしくなった。二人は手札を並べて、サイコロを振る。時々考え込んで止まることはあるが、すごいスピードでカードがやりとりされている。


 インデクスとミゼールはシンメトリーだった。私はインデクスの左側に座っている。私が座っている側の手で二人ともカードを持ち、逆側の手でサイコロを振ったり、カードを動かしたりしていた。


 インデクスがカードを再び切ろうとしたときだ。


「いてっ」


 インデクスの指から血がしたたり落ちだ。


「このカード、欠けているや」


 コーティングされた紙で手を切ってしまったのだろうか? その割にはざっくりと深い。ミゼールは左手でハンカチを差し出した。


「カードが汚れるから、早く止血するんだ。僕のタオルを使え。血が止まったら続きをやるぞ」


 インデクスは、貴族らしい優美なタオルで手を拭った。


「素敵なタオルですわね。刺繍を見せて下さる?」


 男が女にキスしている影絵調の図柄。絵画的な陰影があり、独特の雰囲気を醸し出している。男が女に吸い付くようで妙に生々しいが、それでいて芸術的。額縁にいれて飾ってもおかしくはない程だ。刺繍の男女を取り巻く、左から右へ走るステッチとミゼール・ハートのイニシアルが独特の味を出していた。


 インデクスは私に耳打ちした。


「それはお前が洗濯して返せよ、ヒマリ。お前の調べていることの役に立つのではないのか?」


 ミゼールはゲームに夢中で、私がタオルをハンドバッグに入れるのを見てはいなかった。



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