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第10話:意図せぬ山道  作者: 吉野貴博
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上中下の上

 今まで投稿した話には私なりにクライマックスありのカタルシスありの、込めるものをいれていましたけど、今回はそういうのはありません。ただひたすらに歩く、それだけの話です。

 本島から離島まで飛行時間の三十分、何ごともなく到着した。聞いた話では強い風が吹くだけで欠航になることがあるとのことだが、CAさんに聞いたら

「昔は三十人乗りの飛行機でしたのでそういうこともありましたが、今は五十人乗りの大きな機体になりましたので大丈夫になりました」だそうだ。

 観光旅行にはオフシーズンであり、機内は島に帰る人が多いようだ、上の荷物入れから降ろされるものも華やかさとは無縁なものが目に付く。

 CAさんから島内案内のチラシをもらい、タラップを降り建物に歩く。

 青空が鮮やかで見ると目に染みるのだが、暑さもなかなかのものである。本土はもう涼しくなってきているが、南のこの島ではまだまだ夏は終わっていないようだ。

 のたのた歩いて建物に入り、預けていたリュックが回転ベルトから出るのを待ち、ロビーに出るといくつかのホテルが予約客と談笑していて、どんどん出発していく。

 私が予約した宿の人が来ていないか見渡すが、やはり来ていない。

 本当なら昨日到着するはずだったのだが鉄道事故で飛行機に乗れず、航空会社、旅行代理店に電話をしまくり、乗れないことが確定して宿に当日不着の連絡をし、

「明日は行きます!」

「わかりました。何時頃の飛行機ですか?」

「お昼の便です」

「わかりました」

 とやりとりをしたのだが、その電話で「来てください」とは頼んでなかったから来ないだろうなと思っていたが、やはり来ないわけだ。

 今日は無事到着したことを連絡する。

「今着きました」

「わかりました。迎えに行きましょうか?」

「いえ、これから東崎の灯台に行こうと思ってます。門限までには頑張ってそちらに着きます」

「わかりました。お待ちしています」

 電話を切る。

 空港は島の北にある。宿は西の崎にあり、迎えを頼むと来るまで十分、乗って行って十分の距離なのだが、歩くとかなりの距離になる。

 先に宿に行けば大きな荷物を置いて身軽になれるメリットはあるが、そこから空港まで歩き、空港から東崎灯台まで歩くと、合計一時間くらいのロスが起こるのだ。もうここから東崎灯台に歩くほうが門限に間に合う確率が高くなる。

 そう考えて迎えを断り、さぁ出発だと出口を見ると、少年が立っていた。

「島へようこそ!言葉使いさん!」

 誰?

 ぱっと見、ええとこのボンのようだ。身なりは小綺麗だけど、歳は十歳くらいか?

 知らん。

 それに「言葉使い」ってなんだよ。聞いたことねぇし名乗ったことねぇよ。

 返事もせず固まっているのに少年は言葉を続ける。

「今日お見えになると母が言っていたんですが、本当にいらっしゃったんですね!奇妙な事件が起こってるんです、是非とも解決をお願いします!」

「いや、人違いです」

 少年の左を通ろうと足を出したが、行く手を阻まれる。

「いえ、あなたでしょう。もう誰もいませんし」

 後ろを振り返ると、建物の中は搭乗者全員が外に出てしまったようだし、空港の人も売店の人も、誰もいなくなっている。明かりも落とされているし、外を見ると送迎の車も人もみな出発しており誰もいない。

 外の明るさはともかく、建物の薄暗さは、そこだけ見ると怪談の某駅のようなうらぶれさはこんな感じかと思わせるものがある。このままここにいたら誰もいない世界に閉じ込められるのか、と空想するのだが、外の明るさと少年の声が現実である。

「さぁ行きましょう!あいにく車でご案内というわけにはいきませんが」

 少年は外に出て、左に歩き始める。空港の出口は南を向いているいるので、東崎灯台に行くには私も左に行かないといけない。しかたがない、途中で撒くしかないだろうな。

 この少年とどこまで一緒に歩くかは解らないが、用心にICレコーダーのスイッチを入れ、胸ポケットに入れる。今の時代、いい歳をしたおっさんが未成年者と一緒に歩いたら怪しまれること確実であり、離島も本島も本土も警戒の度合いは変わらないだろう。

 少年は私が後ろにいることを確認するとここら辺について話し出す。少年も生まれてそんなに年月が経ってないだろうに、道が整備され空港が新しくなる前を覚えているようでいろいろ話しているのだが、飛行機が三十人乗りだった苦労を覚えているのだろうか。

 話の端々に、私は「言葉使い」なる者ではないしそんな人は知らないしただの観光客であることを主張しICレコーダーにしっかりと吹き込むのだが、少年はその度に

「またまたぁ」「隠さないでくださいよ」「ご活躍は伺っています」などまともに取り合ってくれず、とうとうこのことについては返事もしなくなってしまった。

 よし、これだけ言えば、警察や島の人に怪しまれても

「私は人違いされているんです」と言い切れるだろう、少年の続ける話を聞きながらずっと道を歩く。

 ちなみに少年の話を聞くに、「言葉使い」とは、何ごとか起こって事態が行き詰まったとき、構成要件を意図的に誤読したり誤解したり、また連想や記憶の近似など、別の角度から見たり第三者の視点を採ったり、単に頭を冷やしたりして解決法を探る人なんだそうな。

 知らんがな。


 とはいえ、私たちの他に道を歩いている人なんて全くいない。車は時折通り過ぎるが、誰もいない道を少年一人が歩くのも、危ないといえば危ないのではないだろうか。

 まぁ歩いて、島をぐるっと廻る道路を歩いているのだが、進行方向に向かって左側が海側なのだが、なかなか海が見えないのが意外だった。

 防風林や農地、建物などがあって、海が見えるのはときどきだし、海岸は全く見えない。地図を見ると海沿いの道なのだが、人のスケールになるとそれなりに奥に道が作られている。

 さらに意外だったのは、右手側にはかなりの高さの山があり、観光案内でも山に触れた情報は目に付かなかったのと、工場がかなりある。石や鉱物の採掘施設なんだろう、農産物の加工場もあるけどそちらは高さがないのだが、鉱工業は煙突が迫力を持っている。案外第一次産業だけでなく第二次産業でもこの島は経済が廻っているようだ。

 さすがに少年も工場については触れないが、山のことを話し出して耳をそばだててしまう。

「…というわけで海側には人が大勢いるので何か起きても見ている人はいるわけですが、山に入ると滅多に人がいないので、いったい何が起こったのか誰にも解らないんですよ」

 思わず何があったかと口に出そうになったのだが、そこを聞いたら用件を聞くことになる。グッと歯を食いしばって返事を堪えた。

「言葉使いさんに先入観を持たせてはいけないので言わないように母から言われていますので、詳細は母から聞いて欲しいんですけど、いやー、本当に山で何が起こっているんでしょうかねー」

 山ねぇ、と思いながらも、空港を出てから三十分を超えただろうか、歩きながらずっと喋りっぱなしの少年にちょっと感心してしまう。歩くのは私もずいぶんと歩くけど、喋りっぱなしで歩くのはかなり体力使うぞ。まぁ私は話す相手がいないのだけど。

 ずっと話され歩き続け、川が見えてきた。

 今まではまぁ一本道だったが、海沿いに歩いて集落に出て、こっちにある宿に向かう人は真っ直ぐに、山に用事がある人は川沿いの道を歩くため右に曲がるのだが、少年はそこで右の道に行った。

 私はここで真っ直ぐ行ってもいいのだが、実は東崎灯台の他に、山に昆虫館があり、それもこの島の名所になっているというか、虫好きの人ならこの島のこの昆虫館に行くのが目的となるほどなのである。私も虫好きというわけではないが、この昆虫館も行ってみたいところの一つである。

 少年の依頼を受けるつもりは毛頭無いが、昆虫館と、山で何があったのかに興味が向いてしまったことは確かなので、私も右の道を選んだ。

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