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日伊の島攻防戦

作者: 仲村千夏

 我が国は危急存亡の秋にたっている。

 三国同盟の一角が崩れ、ドイツと帝国のみとなった。全世界との戦争は流れが完全に逆転してしまったのだ。

 イタリアが連合国に対して無条件降伏。独裁者のムッソリーニは市民によって殺されたと聞く。

 太平洋でもアメリカが攻勢に出てきており今や防衛主体だ。

 この状況を打開するため、かつてはイタリアにも参加要請していたとある作戦が再浮上する。

 作戦はビルマ戦線の拡大及び敵の補給線断絶のためインド洋のとある島を占領し飛行場を建設するというものだった。

 飛行場からは戦闘機、爆撃機を出撃させ、ビルマ戦線の後方を脅かすものとして期待されていた。

 だが、インパール作戦実施のため実現しなかった作戦。

 インパール作戦後の状況で占領維持できるのか疑問だが、攻略大隊の指揮官となったからには全力をもって任に当たろうと思っている。

 さて、時間はないが少しでも作戦を詰めておこう。現在われわれは潜水艦に乗艦して作戦目標の島に向かって海の中を移動中だ。

 現在地はインド洋のどこかということで位置はよくわからない。艦長いわく航海は間違いなく順調とのこと。

 まぁ、順調ならよいのだが……。

 海に関しては全くの素人。口出しする必要もないと考え上陸してからの作戦を考えている所。

 そこに情報収集に無線に張り付けていた兵が入ってくる。


「大隊長殿! 情報です」

「ご苦労」


 小さなメモ紙を見てみる。そこに書かれていたものはとてつもない情報だった。


「イタリアが宣戦布告、だと!?」

「はい、恐らく今回の敵はイタリアということになります。事実、スエズを移動するイタリア船籍がインド洋に入ったという情報もあります」

「なんだと!? ということはこの作戦自体が筒抜けということではないか!」


 どこから漏れた。と考える以前にイギリス、アメリカでもなくイタリアの参戦という事実が受け入れがたいものであった。

 それにしても、地中海の奥にある国がわざわざインド洋まで進出してきたということは勝ち組に一枚かませろ、と言っているようなものではないかと思ってしまう。

 ドイツには敵わないと踏んで、我が帝国に刃を向けたか。


「どちらにせよ。戦うことは先刻承知だ。作戦変更をしておくから全員には副官から周知させておくように伝えてくれ」

「はっ! 失礼します!」


 さてさて、イタリアの軍備はどこまで整っているかだな。

 こちらも相応に対応させてもらうとしよう。

 まずは、特二式内火挺で上陸地点の確保をして、歩兵による浸透戦術で海岸を確保。援護できる範囲まで潜水艦による砲撃。その後は歩兵火力で押し切るか、内火挺があれば火力に余裕が出てくる。

 戦闘によってどれだけ失われるかがわからない所だが、基本は全部破壊され歩兵のみとなった場合で考えて変更をかければよいか。

 大砲というのも山砲が数十門、戦車砲はなく対戦車銃が数十丁、擲弾筒が程々の数がある。他は重機とかもなく軽機のみ。短機関銃を装備できたことはありがたい。

 火力では負けてはいないと思う。

 足らない部分も多いが。

 無いものを求めることはできない。

 

「はぁ、イタリアか……」


 戦力は我が軍と同等かそれ以上。

 ドイツとの距離も近かったから、技術は一つ上と考えてもいいだろう。

 作戦の大部分は上陸戦だ。島内侵攻は次で橋頭保を気づくことが一番の目標で変わらない。


「大隊長殿! 島が見えたとのことです!」

「よし、作戦は当初の上陸戦想定。総員戦闘配置! 用意しろ!」


 潜水艦五隻が浮上し上陸用舟艇に乗り込んでいく。

 その間、潜水艦からの事前砲撃が開始される。

 たったの五門でもないよりはマシか。


「よし、強襲上陸開始!」


 時間は航空機も飛ばない夜中。

 暗い潜水艦生活で目が慣れていたのか、島影と月で照らされている所は良く見えた。

 砲撃を開始しても敵からの攻撃はまだない。

 まだ上陸していないか、待ち構えているか……。

 その間にも舟艇がどんどん海岸に近づいていく。

 

「全員、上陸したら一気に浜を上がれ、銃弾をかわせるところまで前進して擲弾筒を発射する」

「了解!」


 結局、舟艇を狙った砲撃やら銃撃はなかった。

 浜に上陸しても撃たれない。

 走って銃弾が来ない場所に行って伏せて様子をうかがうも、何もない。

 こうなると、擲弾筒の弾がもったい。


「ちょっと、おかしいな」

「偵察に行きましょうか?」

「……わかった。二名連れていけ軍曹」

「はっ」

「ただし、敵を発見しても撃ったりするな。敵の陣形、戦力を把握したら報告に戻れよ」

「わかりました」


 そう言って軍曹含めて三人がジャングルの中に入って行った。


「よし、報告が来るまで全員、周辺の防衛戦を構築、物資の上陸を手伝ってやれ。機材、戦車は早めに荷揚げしろ!」


 偵察隊が戻るまでの間も敵襲に警戒していたが、結局、敵襲はなく物資の上陸もすべて無事に終了。

 潜水艦隊もやることが無くなったので、島の周囲を警戒し戦果を持って帰還するという。

 敵艦の脅威がなくなればこちらも助かる。

 

「さて、兵士たちは警戒を一部に立たせてあとは休息をさせておけ。襲撃が無い分不気味だが休めるときには休まないとな」

「はっ」

「大隊長殿、偵察隊が戻ってきました」

「ずいぶん遅かったな。報告を聞こう」

「はい、敵の姿はどこを探しても見つかりませんでした」

「なに?」

「島の反対側まで偵察して時計回りに周回して帰ってきたのですが、船も足跡もなくまだ上陸していないと思い帰ってきました」

「なるほど、敵の姿が無ければ撃っても来ないのもわかる。ご苦労、しばらく休め」

「はっ」


 さて、そうなると日が開けてから大々的に島内の探索、占拠といこう。

 数時間後には夜明けだからな。

 

「夜明けと同時に内部侵攻を開始する。一部には準備させておけ」


 数時間後の夜明け。

 内火挺のエンジンが響き、ジャングルへ入って行く。

 命令通り島内の探索、占拠を開始した。


 結果的にはイタリア軍は今だに来ておらず無欠占領できた。

 さらに、要塞化をするため天然の洞窟を改造、トンネルをつくる工事も実施。

 大砲とかはないため銃眼を設置、内火挺も砲台としての活用ができるように配置。

 万全の態勢で整えることができた。が、実際に工事にかかったのは四日だけ。

 中途半端が否めないが、防衛は手段を選ばないつもりでしている。


「大隊長殿、見えました。イタリア船籍です」

「ついに来たか」


 敵の船団は数十隻。重装備は満載な感じでやってきた様子だった。

 海が船で埋まっていった。

 ここで待っていましたと攻撃をかけたのは俺達を運んできてくれた潜水艦五隻。

 雷撃を行って船に次々と水柱が上がっていく。

 この様子は島からも良く見えた。

 全弾撃ち尽くすような感じで次々に船が傾いていく。

 目視だけでも三隻は確実。他は傾斜のみとなっていた。

 一番派手に爆沈したのが一隻あった。おそらく火薬、弾薬を積んだ船だったのだろう。


 それでもイタリアは退くことが無く体勢を立て直して島上陸に向けて準備を始めた。

 こちらも装備・物資は上陸し終えているし、準備は整っている。

 特にイタリアが上陸しようとしている地点には地雷を大量に集中的に埋めてある。

 一斉に爆破できるように細工もしてある。

 十字砲火もできる様に軽機を配置、砲撃支援には山砲と内火挺の砲撃。

 十分な火力だと思っている。

 それを知らずに、イタリアの舟艇が浜に近づき始めた。

 上陸して地雷の爆破までは攻撃しないように徹底的に命令しておく。

 とりあえず、敵が浜を埋め尽くすまで待つんだ。

 そう通信で言って命令を飛ばす。


「戦車、兵士、砲。強そうだが、戦車はあれってなんだ?」

「あれは、イタリアの豆戦車、VC.33カルロベローチェという快走戦車ですね。武装は八ミリ機関銃が二門です」

「でも、装甲車両は脅威だな」

「はい」


 浜に兵が上陸して、戦車も動き始め八割が浜を埋め尽くした。


「よし、攻撃開始ッ!」


 地雷が爆発するのは一瞬で兵士を宙に舞わせて、戦車を巻き込んだ。

 半数の兵士が倒れた。

 そこに砲撃、銃撃が浴びせられる。

 敵はもちろん大混乱。

 こうなるとほぼ一方的だ。

 アメリカよりも指揮統一がなっていないな……。

 中には泳いで船まで戻ろうとするものまで出た。

 浜は確かに地獄絵図になっている。

 

 この戦闘はわずか数時間で日本側の勝利となった。他にも準備していたのだが、中途半端すぎて役に立つかもわからなかった。

 また、最初の防衛戦闘で勝てるとも思っていなかった。

 戦死も覚悟はしていたが、数十名重軽傷を負ったのみで戦死者はいなかった。


 イタリアとはこのようなものなのか?

 そう思いながら数か月は防衛につき、そのまま終戦となった。

 そこまで表で語る作戦でもない。

 イタリアも大敗したことは公表すらしていない。


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