少女のための前奏曲
────
一次創作小説
もしよかったら読んでほしいな。
一応どこでも読めるような感じにしてあるんだ。
文字数も少くしてあるからちょっとだけ覗いてほしいな。
The doll is mine.
今から一年前、姉は亡くなった。
原因は彼女にあった。
オレの一つ上の姉、小野寺宇流はApolloと呼ばれるマフィアの構成員だった。
彼女は人より早く死んだ。
それだけだ。
オレはそんな姉の唯一の肉親だった。
それだけだ。
青磁色の長い髪に湯をかける。
みるみるうちに艶がで始めた糸にオレの心はうるさくなる。
「ぼくかみあらえ、ないんです」
可愛らしく首を傾げる姉にそっくりな少女。
あーもうホント似てる、ヤヤコシイヤー。
「洗ってほしいの? 」
「あなたにあらって、ほしいの」
少女は潤んだ瞳で向いてくる。
控えめに言って天使ィ。
シャンプーのキャップをプッシュし、彼女の髪を洗おうとするとふと気付く。
「何故、何故、何故こうなったァ!!何故オレは今、実の姉そっくりの少女の身体を洗ってるんだよォ!!!」
何故思春期真っ只中なオレら男女が同じ浴室の中に居ることが先ずアウト!!
「オっ、オレ先に出るから」
扉を勢いよく開け閉めしたせいで少女は怯えていた。
すまない、オレもこの異空間から出たいんだ。
「ひとりにしないでひとりにしないで」
少女は扉を叩き懇願する。
一つ扉をまたいだ先がこんなホラー要素になるなんて…。現代社会の歪みだな。
あー、どうしよう。
とりま話しかけてみると
「えと、落ち着いてほしいんだけどさ。大丈夫、オレは君のことを絶対に独りにさせないよ」
「ほんと?」
扉を叩くホラー要素はそこで終わった。
「嗚呼、ホントだよ」
慈悲深きオレの言葉少女は大人しくなった。
「風呂、もうイイから。今ふく用意するね、待っててよ」
そーいや家に女物の服在ったっけ?イツカのショートパンツは一応女物だけどアイツの勝手に借りていいのかよ。
…、一大事だしな。
てか下は在るけど上が無いのは悲しいよな。てか悲しいとかの次元じゃねェよ。オレのシャツ貸すかね。
「きみー」
と声をかけると浴室の扉から白いタオルケットに包まれた少女が出てきた。
あれ、いつの間に?
そういえばまず彼女に着させる下着が無い。てかその下着を買うときに行く服すらない。
あっれー?おっかしーなー???
このままだとオレが彼女の服、下着、生活用品その他諸々買わなきゃいけないの?
何それ罰ゲーム。
にしてもとうの彼女は随分と平然としたお顔で。
絶対大物だ。
それに比べてオレは超小物。
「なんのようですか」
「名前なに?」
バッカオレぇ!!!なに名前訊いてんだよ。確かに大切だけど今な必要なくねェ。
「なまえ?ないとおもいます…」
と少女はタオルをギュッと握り俯いてしまった。
ガッデム!
なに墓穴を掘ってるんだよ。
「じゃあ…」
姉である宇流とそっくりな君は、
「ソラ、でイイかな?」
我ながら単純だ。
オレの星流と似たような名前。宇流が気に入っていた。
ソラが片仮名ならオレもそうしよう。
「ぃ、」
い?
嫌だったかな。それはちょっと悲しいな。
「いいの、こんなぼくで」
震える肩を抱き締めているソラ。
ズキリ。
酷く心が傷んだ。
それ以上に少女の心は傷まみれだということ。
おそらく名前で呼ばれたことがないのだろう、だからこんなに狼狽していた。
「ソラ、オレ悲しいよ」
「どうしてもあなたが?」
「いや、なんでもないさ」
「ん」
さっきは誤魔化したが何時かは言わなければ。
さて、ソラのために服を買わねば。
やはり買うんだったら通販だ。間違っても店だったらお巡りさんこいつですになってしまう。
正直いって職業柄外に出るのが憂鬱なのだ。
Amazonで頼もう。オレはプライム会員だから注文したら数秒で届く。
ぴったりだ。
「ソラー、好きな服選んで。あとコップとか箸とかもね」
「服?買っていいの」
前まで拙い喋り方だったが大分スラスラ言えている。
記憶喪失か…、それとも。
オレがうんぬん悩んでる間にソラは服を選んでいた。
青と赤、それに白を基調とした服や小物が欲しいと。
よかろう。
オレが注文してやろう!!!
左人差し指が注文釦を押す。
さて、玄関に行こう。
________________ピンポーン。
呼び鈴の音。
その音に導かれるようにオレは玄関に向かった。
「ソラー、届いたよー」
「有難う、セラ」
薔薇が舞う。
少女は笑う。
んんん。ソラ今笑ってたぞ。そして花が見えたぞ?病気か。
箱を開け服を見てみる。
紅、藍、白。
どうやらソラはその色が好きらしい。
「似合ってるかい?」
にしてもどんどん喋るのが上手くなってんな。出逢ってばかりはたどたどしかったのに…。
成長を感じたよ。
「嗚呼、とてもとても似合ってる」
「ホント!?嘘は駄目だぞ!」
とクルクル回る彼女はどこか可愛らしい。
ドール、ドールだ。
ぐぅうぅうぅうぅうぅうううぅう。
「うんにゃ?」
腹の音。
しかも特大の。
「お腹すいてるのかい」
ソラはオレに近寄る。
「あー、わりーわりー。そいや飯食ってねーわ」
全く、これでも十八歳、食べ盛りなんだから確り(しっか)せねば。
「ソラは何が食べたい、昨日買い物行ったから大抵のやつはあるよ」
黙考。
「スティック」
スティック、即ち棒!?まさか、オレの棒を望んでいたのか。やれやれ、少女だと思ってたのに、悪いオンナだったぜ。
「さァ、オレのを存分にシャブリな」
社会の窓、オープン。
「…ナニシテンノ」
ヒェ、上目遣いで睨まれてる!しかもすごく怒ってる。
震える手、縮れる髪、ゴゴゴっとマンガ的フォントをリアルで使ってるかのような様子だ。
「ボクが言いたかったのは野菜スティックだよ、理解った?」
黙考。
正座。
拳骨。
ヤダな、オレ拾ったのに。
「ボクが食べたいのは野菜スティックだから、セラみたいな唐突なで自意識過剰な下ネタなんて、読んでる人を不快にしてるだけ」
ビシッと指を刺された。
反省タイム。
野菜スティックにホットミルク。それと輪切りのフランスパンとハンバーグステーキ。
白いテーブルクロス、ナイフとフォークで食べる本格派。
「じゃん、どうよ!これがオレの本気さ」
ドヤ顔の少年が一人。
「うぅ、御免なさい」
そこにひれ伏す少女が一人。少女は涙目で唸る。
「ハハハ、料理上手こそ正義さ」
ドヤ顔の少年、それこそオレだった。
オレだった。
「もういいよ、ご飯食べよっか」
なんか床に座らせるのも悪くなる。
「いいの、ボクなんかが?」
「勿論、あったかいご飯もあるからね」
「ご飯?ご飯ね!?何日ぶりだろう」
何日ぶり…か。
オレはこの時なにも返さなかった。
否。
返せなかったのかもしれない。
少女の幸福そうな顔を自分の歪んだ言葉で濁られてしまってはいけないと心の中で感じていたのだ。
────