第三章〜戦争〜ナビビスとギリテゥ
クネ、クネ。
「いやだわあもう!! まさかアマオウ様がこおおんな美少年ショタになっちゃうなんてアタシ感激よお!!」
クネ、クネ、クネ。
「あ、けど昔のアマオウ様が嫌だったわけじゃないのよお? あの頃はほら、好々爺然としてたからちょおおっと守備範囲外だっただけで、もう! 乙女に何言わせるのよマセた子供ね!! 好き!!!!」
クネクネクネクネクネクネクネクネーーーー
「……頼む、ナビビス。そのクネクネしておる動きを止めてはくれぬか。ジュジュ、前世も合わせて今が一番気持ち悪いのじゃ……」
「あらやだ大変! んもう具合悪いのなら言ってよねアマオウ様!! 私の腰つきに酔っちゃったのかしらーーなんてね!! しかも自分の事を名前呼びだなんでゾクゾクしちゃう……ささ、アタシが手取り足取り介抱してあげますからねえ、ぐふ、ぐふふふふふ」
「待った、来るな、怖い怖い。ちょ!? ーーしょしょ召喚!!!!?」
「ーー私のアマオウ様に何しようとしてるんですのこんのオカマ風情がああ!!!!!!」
一歩ごとに謎のポージングを決めながら(どこのヒトコロくんじゃ!?)近づくガチムチのおっさんに恐怖を覚え、とにかく誰か喚ぼうと召喚魔法を発動させる。
すると召喚魔法陣が半分ほど出来上がると矢のようにヴィーが飛び出してきて、綺麗な飛び膝蹴りをおっさんの顔面に突き刺しおった。
「ヴィー!!」
「ああ! アマオウ様おいたわしや……セバスチャン様から〝嫌な予感がするので召喚に備えていてください〟と連絡があり、こうして自らの魔力で無理やり魔法陣を繋いでやって参りましたの。本当に、本当に無事でなによりですわ!!」
見ればヴィーは、戦闘用衣装である世界蛇乃鱗鎧と三又乃槍、魔法具たる装飾品を装備しておった。神族との戦争でも出来そうな装いじゃが、うむ……セバスチャンもヴィーもさすがじゃ。本当に感謝しかないの。
「今回は生命の危機を覚えたぞい……それで、伸びてしまっておるこやつはナビビスで間違いないんじゃよの?」
ヴィーの膝蹴りで鼻血を出し伸びておるガチムチのおっさんを、そこらで拾った小枝で突いてみる。が、見た目や感じる魔力の通り人族そのものであり、喚びだした幽体魔人族のナビビスとは似ても似つかぬ性質を持っておった。
それにあやつ、ナビビスは綺麗な女性の身体を好んで使っておったからの……趣味が全然違うはずじゃ。
「私も認めたくはありませんが……はい、これが今のナビビスですわ」
「なんと。いくらジュジュでも中々に衝撃的すぎるぞいこれは」
いっそナビビスの名を騙るどこぞの人族と言われたほうがまだ信じられるわい。
彫刻のように彫りの深い顔、髭が濃すぎて剃り跡が青髭となっておりモミアゲが異様に長い。
香水も匂いのきついものを使っておるようで、ここら一帯の臭さと相まって気分が悪くなるほど。
えぇ、ほんとどうしたんじゃおぬし?
「何があったかまでは分かりませんけれど、アマオウ様が亡くなられて百年ほど経ったくらいからこんな感じになりましたの。幽体魔人族で構成された装甲兵団もガンダダンが倒され、兵長補佐のナビビスもこの有様。瓦解するのにそう時間はかかりませんでしたわ」
「まさか睡眠と食事も、死すら恐れぬ無敵の装甲兵団がトップがおかしくなっただけで無くなってしまうとは」
「いえ……それが、その。ナビビスに付いていくものが多くて……瓦解してしまったんですの」
「…………なんという事じゃ」
いくら幽体魔人族には性別が無いからと言っても親しんだ身体もあるじゃろうに。い、いや! 趣味は人それぞれじゃからの。あまり否定ばかりしてもダメじゃろうて。
「さっきのを見る限り、起こすのに腰が引けてしまうのじゃが……ヴィー、頼めるかの?」
「お任せください! 例え襲ってきても全身串刺しにしてでも止めてみせますわ!!」
そう言って勇み足でナビビスに近づくと、足を大きく振り上げーー狙うは、股間。
振り下ろされた足はズガァァン!! と地面を砕く音を生じさせ、下半身の何とは言わぬが縮み上がったジュジュは目を背けた。
男なら本能的に見ることの出来ぬ凄惨な場面を目の当たりにしたのじゃが、なぜかヴィーの上げた声は震えておった。
「潰した感覚が……ありませんわ!!?」
「いやいや怖い、その表現は怖い」
などと言っておったらナビビスがむくりと起き上がり、ヴィーを見て目を輝かせた。
「んっまああああインヴィルゲルトじゃないの!! んもう、お久しぶりじゃないのあなた! お元気にしてた? ってその格好懐かしいわねええ、ぐふふ、アタシもあの頃はまだ若かったわ……」
「くっ、まさかノーダメージとは。ですが三又乃槍の貫通力を持ってすれば地を裂き海を割れます。今こそ私の全身全霊の力でもってーー」
「そこまでせんでよいからの!? 分かった分かった、ジュジュが出張れば一番良い話じゃよのこれ……ナビビスよ、とりあえず話を聞くのは後にする。というか全然進まんしの。ここら一帯に充満しとる臭いをどうにかしたいからおぬしを喚んだんじゃが、お願いできるかの?」
今まで以上にクネクネしながら一人過去の記憶に想いを馳せておったナビビスじゃが、ジュジュの言葉を聞いて顔つきを変えた。
おぉ、一気に頼れる漢感が出てきたの。ピンクのタンクトップ姿じゃが。
「そういう事ならお任せしちゃって大丈夫よアマオウ様ああ。アタシの腕力でこの芳しい臭いを綺麗にしてあ・げ・る」
「うむーーうむ? いや、ジュジュが頼みたいのは腕力ではなく掃除道具に憑依してほしいだけなのじゃが」
「あ、それは無理なのうう。だってアタシこの素敵な身体に永久憑依しちゃってるから」
「……うむ?」
▲▲▲▲▲
「つまりアレか、おぬし、その身体と魂レベルでくっついておるから憑依を解くのは無理という事じゃな?」
あの後ナビビスが上半身裸になって(なぜ脱ぐ)魔界牛らしきモノ達を洗い、ジュジュはヴィーと協力してここら一帯の空気を全て入れ替えた。
入れ替えた空気はマグィネ霊山山頂付近と転移魔法で大量に入れ替えたからの、ホロアとか臭いで死んでなければよいが。
まぁ生き返れるから良いか。うむ。
吐き気を催す臭いもだいぶ緩和され、今は不浄なものを払う聖水を空から雨として振らせておる。これで完全にこの土地は臭くない普通の土地になるじゃろう。
元魔王が聖水とか使うなと思わなくもないが、じゃってアレ……消臭効果すごいんじゃよの。固めてそこらに置ける消臭剤として売れば絶対売れるぞい、これ。人族だと不敬とかいって絶対しないじゃろうが。
「ぐふふふうう。そうなのよアマオウ様〜。ほら、アマオウ様が勇者に首チョンパされた後に人族の軍隊がやって来たでしょう? その時にちょうどこの身体の持ち主と運命の出会いをしちゃって……ほら、アタシって女体ばかりに憑依してたじゃなああい? けれど常々思ってたのよね、この世には筋肉も大事だなって!!」
「お、おう」
「それでなんやかんや死闘を繰り広げた後仲良くなっちゃってええ、そのまま結婚しちゃったの。やだ! 恥ずかしいわねもうううう!!」
「そ、そうか。それはまぁ、良かったの? で、今は亡き夫の身体を使っておるという事なのじゃな。納得したようなしてないような……そういえばおぬしと共に抜けた他の幽体魔人族達はどうしておるのじゃ?」
「これは旦那の身体を素体にした人造人間だけど、確かに旦那の身体を使ってるとも言えるわねえ。あなた! 死んで何百年も経つのにアタシに尽くしてくれるなんて何て良い旦那なの! もう好き!!」
「自分の身体を抱きしめるでない見るに耐えん。あとジュジュの質問をさらっと流したのおぬし、まぁ良いわい。とにかく臭いも取れた事じゃし、こやつらを連れてミノタウロスとやらが居るところまで行くとしようかの」
ミノタウロスの願いであった臭いは無くしたので、あとはセバスチャンが上手く話を付けていればスムーズに話は進むじゃろう。と、その前に。
「何だかんだで助かったわい、ナビビス。まぁ、魔王軍は存在しておらんから生き方は様々じゃが、あまり人様に迷惑をかけないようにするんじゃよ」
「んっもううううアマオウ様ったらお母さんみたいねえ!! でもありがと! それよりこれ、アタシがやってるお店だから近くに寄ったらぜひ訪ねてきてね? サービスするわよっ」
ナビビスが取り出した紙はヴィーが間に入って受け取ったので、ジュジュは苦笑いを浮かべながらナビビスを送還した。
ヴィーから紙を見せてもらうと、一軒の小劇場酒場の宣伝がされておる。『堕天使の雫』……ナビビスはたしかに堕天したようなものじゃな。うむ。
「アマオウ様、そのミノタウロスがいる場所というのは分かるんですの?」
「セバスチャンが挨拶に行っておるからの。とりあえず通信魔法で呼びかけてみるとしよう」
ほどなく呼びかけたセバスチャンから返事があり場所を聞くと、ジュジュとヴィーは言われた場所へ向かったーー
▲▲▲▲▲
「すげえ! ほんとに臭くねえ!!」
たどり着いた場所は森の奥深く、巨大な樹の下に作られた簡素な村であった。
どちらかといえば風棲魔人族の住まいに似ておるが、乱雑に建てられた草藁の家や道端に避けられた糞などこちらのほうが粗野で不衛生じゃの。
村の入り口と思われる柵の切れ間にセバスチャンは立っており、どうやら村の中には入らずミノタウロスと話をしていた模様。
……ジュジュも入りたくないんじゃが。というかこの場所も微妙に臭いぞい。
そして、先ほどから綺麗になった魔界牛らしきモノ達の匂いを嗅いで興奮しておるのが牛頭人体のミノタウロスじゃ。
灰色の肌に筋骨隆々の身体、腰には申し訳程度の布が巻かれ、首から胸にかけて灰色の毛がフッサフサじゃ。
頭は牛じゃが、手や足は五本指になっておる。木や骨で作った装飾品を頭の角や尻尾にこれでもかと付けておるの。
うぅむ。突然変異でミノタウロスに成ったらしいが、世代を何代か重ねて今の姿になったのじゃろうの。ほぼ獣体魔人族として完成しておるわい。
「あぁ〜、そこの。名前は何じゃったかの?」
「へい魔王様! 俺はこの村の長ギリテゥって言うますです!!」
「言葉遣いが変じゃが、まぁ今まで自分が一番じゃったろうし目上に対する態度は仕方なしか。しかしよくセバスチャンは話が出来たの? こういった手合いは腕力じゃないと上下関係が分からぬのに、どうやら怪我などしておらなんだし」
「ポラプラの余りがありましたのでそれを渡した後、巨大樹に巣食っていた害虫を駆除しましたらスムーズに話が進みました」
「害虫ってあれかの?」
村の奥は巨大樹の根とぶつかる行き止まりなのじゃが、そこには積み重なった巨大な芋虫の死骸がある。
身体中から体液を流したり潰れた果実のように地面に叩きつけられておるのもいて、グロテスクじゃからあんま見ないようにしておった。
「上手くいったなら何よりじゃが……この臭いと衛生状況、どうにかならんかの?」
「私はアマオウ様のお世話を一手に担うモノ。汚れ仕事をした手でアマオウ様のお世話など出来るはずもございません」
「汚れ作業をジュジュにさせるのは良いのか」
「てへぺろ」
「なぜじゃろう意味は分からんがぶん殴りたい!」
じゃがナビビスはもう喚びたくないしの。ヴィーにさせるのもなんか罪悪感があるし……仕方ない。
「ギリテゥよ、おぬしと〝契約〟をしてやろう。これによりおぬしは魔界牛らしきモノ……いい加減面倒じゃからタウロス牛とでも名付けるか。そのタウロス牛の種族長に認められる事となる。ジュジュと契約したモノは召喚魔法に応じる義務が生じるが、その代わりジュジュの魔力によって魂の格が上がるのじゃ。まぁ分かりやすく言えばパワーアップじゃな」
「マジですかい! 魔王様と契約なんて夢のようだ、ぜ、ぜひお願いするします!!」
「前世の時は功績や人柄、魔王軍幹部と話し合って契約するモノは決めていたんじゃがの。今は魔王軍も無いし……おぬし程度ならパワーアップしても大丈夫じゃろ。では始まるぞい!」
最後のほうは小声で聞こえぬように呟いて、ジュジュは手のひらに魔力を集中させた。
空や大地、自然、目には見えない微小な精霊からも魔力を借りて地面には巨大な召喚魔法陣が形成され、青白い燐光を放つ。
「タウロス牛の種族長たるミノタウロス、ギリテゥよ。おぬしはジュジュの喚び声に応じ、召喚に応じる意思はあるか?」
「ありますぜ!!」
「それでは己が血を陣へと垂らし、契約の証とせよ」
ギリテゥが装飾品を使って指を切り、赤い血が数滴、召喚魔法陣へと吸い込まれる。と、青白い燐光はみるみる血の色に染まり、うねっていた魔力の流れがギリテゥを中心に渦巻いていく。
「では改めてギリテゥ・ミノタウロス。この契約が未来永劫、ジュジュとおぬしの命終わろうとも続く事を願うーー〝契約〟!」
赤い光と魔力が溢れ出しギリテゥを包み込む。あまりの眩しさに目を閉じ数秒、再び開けた時目の前にはーー
「契約、見事に成功です魔王様、いえーーアマオウ様。このギリテゥ粉骨砕身の思いで御身のために尽くします」
片膝をついてジュジュを見上げる、灰色髪の美青年がそこにはおった。
頭の角と格好からしてギリテゥじゃと分かるが、ここまで外見も変わるとは。むしろ別人、いや別牛じゃよのこれ。
「魔力などステータス諸々が上がっておるようじゃし、使える魔法も増えたじゃろ? とりあえずこの村の改善を種族長のおぬしに命じるぞい!」
「はい!!」
その後数時間かけて、ようやっとギリテゥの治めるタウロス村(面倒じゃからそのまま名前を使った)は綺麗で衛生環境の良い村になり、ジュジュ達は魔王城跡地に戻ったのじゃった。
「……あれ!? ミノタウロス乳は!!?」
色々とインパクトが強すぎて忘れておったが、大事なものを忘れるところじゃった!!
▲▲▲▲▲
最近自分の書いている小説が楽しくなく、それでも無理して書いていましたが中々納得のいく仕上がりにはなりませんでした。
楽しみにしてくださる読者様には申し訳ないのですが、一度こちらの小説はお休みして新作を書きたいと思います。
新作を上げ、また自分の書いたものを楽しいと思えるようになったら、また更新再開したいと思います。
申し訳ございません。




