上司を殴ったら家が燃えたのでケモ耳幼女と暮らすことにしました
おねロリのイチャラブライフを寒い日に読んで暖まりたかった( ˘ω˘ )
『和モノ冬恋企画』の参加作品です。
暗くなり始めた空を明るい炎が照らしている。
まるでクリスマスケーキのロウソクみたいに真っ赤に燃えるアパートを、人間やエルフや獣人の大勢が取り囲む。
その中で、スーツ姿でダウンコートを羽織っている女性が呟く。
「ハハ……早めのメリークリスマス、なんちゃって」
不謹慎な冗談を言っている彼女は、奇しくもここの住人であった。
12月を迎え、更に厳しくなる寒さのように酷さを増す上司のパワハラに耐えかねて、先ほど退職届をたたきつけて来たばかりだ。
タイツ越しに伝わる北風に凍えながらアパートに帰って、冷蔵庫にあったはずの食材で好物である鍋を作り、炬燵で暖を取りながら心身共に温まろうと思っていた矢先のことだった。
目の前にはメラメラとすべてを焼き尽くす炎。
《きっと私の秘蔵コレクションであるジュニアアイドルの玉木ちゃんとカズサちゃんの写真集は、とっくに灰と化しているんだろうなぁ……》
そう考える彼女から、乾いた笑みが零れた。
「クリスマスまでもう直ぐって所でこれかぁ…………ハァ、可愛い幼女が欲しい」
《今日は嫌な予感を感じて、通帳や最低限の大事な物を持ち出しといてよかった……。はぁ……とりあえず寝床を確保しなくちゃ》
早くも立ち直った彼女は、現実逃避もそこそこに騒然としている人達をかき分けてトボトボと歩き出す。
その際、チラリと辺りを見渡せば、
《あ、あそこに居るのはお隣に住んでいた犬獣人のゴンさん。
私の趣味を知っても似た者同士だと笑い飛ばしてくれた優しいおじさん。
でも哀愁漂う遠吠えをしている。きっと彼もお宝が燃えたに違いない》
彼女が目線を動かすと他にも、ここの住人がチラホラと見える。
《この惨状の中で数少ない救いは、お宝以外の貴重品は全て手元にあり、ここの住人に幼女が居らず寒さに震える子が居ないということかな、フフッ》
心の中で少しニヤヒルに決めてみた彼女だけれど、それで体が暖かくなるはずもなく、重い足取りで新たな宿を求めて彷徨い始めたのであった。
何か運命的なモノを感じ取り、実家を飛び出し、この街の企業に就職した彼女、神凪 ミト。
この街は栄えていた様だが、今ではシャッター街の仲間入りした個人店も数多く、季節の所為かより一層寒々とした雰囲気を醸し出している。
ミトは宛もなく歩いており、商店街が並ぶこの場所にはホテルなど無い。
幼い頃から直感や運が良く順風満帆な人生だったが、勤め先になった会社は高慢ちきな男エルフの上司で珍しくハズレを引いたと落胆していた。
更に、とある一件からパワハラを受けるようになり、無理難題な仕事をどうにかこなして、無性に愛着が湧いたこの土地を離れたくない一心で勤めていたが入社しておおよそ8ヵ月、ついに我慢の限界が訪れた。
「やっぱり、ムカついたからってボディーブローを食らわせた所為で呪われたのかな…………あの上司め、フラれた腹いせにパワハラとか、本当有り得ない」
言葉の通り彼女は上司に言い寄られていた。
優しげな眼にシュッとした鼻は優しそうな美人のお姉さん風、更にプロポーションも良く、程良く育った胸に少しサバサバした性格も相まって学生時代は告白されることが多かった。そして件の上司も例に漏れず。
しかし、なんの因果なのか、彼女は無類のロリコンであった。
誰かの影を追いかけるように幼女の後ろ姿を追っていたら、いつの間にか幼い女の子が異常なまでに大好きになってしまったミトは、子供の頃は保育園か幼稚園の先生に成る夢を抱えていたが、己をセーブできる気がしない為、泣く泣くそれを諦めて別の職業に就いた程。
そして、上司のしつこい誘いを彼女は飲み会の席という周囲の目がある中ですげなく断り、腹いせにパワハラを受けるようになった。
なんとも、色々と残念な美人である。
「ハァ……何処かに宿とかないかなぁ」
白い息を吐きながら、足を動かすミト。
しかし、意外なことに行き止まりにぶつかる事なく、足も快調に進んでいく。これも優れた直感力か強運の成せる技か。
ミトは少し不思議に思いつつも導かれるままに進んでいく。すると、いつしか記憶に無い懐かしさと、それに反するような焦燥感が心の奥でチリチリと燻り始めた。
訳の分からない感情は遂にミトを駆り立てて、気がつけば全速力で駆け出していた。
ハァ……ハァ……と白い息を吐きながら道を右に左に、迷路にすら思える知らない道を足が迷いなく進む。
知らないうちに住宅街を抜け、アスファルトから土の地面に変わってしまったことにも今更気が付く。辺りには草木が目立ち始め、そして冷たい空気で肺が痛くなってきた頃、
進む先にひっそりとそびえる古びた神社が見えてきた。
足を進めて石畳の境内へ踏み入ると、月明かりに照らされた、手入れはされているけれど年季を感じるち っぽけな社の姿が現れた。
ミトは荒く息をつきながら社を眺めていると、突如心中に去来する思いに胸が締め付けられ、ギュッと胸元を握り締める。
「ただ……いま」
不意にミトの口から思わぬ言葉が漏れる。
『え、なんで?』
意図せずに飛び出た己の言葉で動揺し、彼女が思考の海に沈みそうになった時、
ドンッ
突如、ミトの体に衝撃が走った。
まるで腰の正面にタックルを受けたかのよう。と言うよりも、タックルされていた。
目線を下げれば、その正体がはっきりと見える。
それは2つの小さい頭。
新雪のように真っ白な髪からピーンと立った猫耳と垂れた犬耳がそれぞれ飛び出しており、紅白の巫女服が揺れている。だが、顔はお腹に埋められており見ることが叶わない。
今、ミトの心の中では、
《うぉぉおおお! ケモ耳白髪幼女キターーー!》
という叫びと、
《え、ナニコレ天国? 逮捕されない?! もちつけ私!》
の2つ思いが交錯している。
いつまでもこのままで居たいけど、この状況をどうしたら……。
ミトはどうすることも出来ずにただ幼女2人の温もりを甘受していると、不意に彼女らの顔が上を向いた。
猫耳の方は勝気な目をしており、麻呂眉がアクセントとなって大変可愛らしい。
犬耳の方は少し眠たげに目が細められており、こちらも麻呂眉で大変可愛いお顔。
彼女達は嬉しそうに破顔させ、こう言った。
「お帰りなさいっ!」
「お帰りなさい……」
そして、勢い良く手を引っ張る幼女たちに連れられて社の中へ。
《え、いいの?》 という疑問さえ挟めぬまま。
あれよあれよ成すがまま、ミトは暖かい炬燵に入りながらケモ耳幼女に挟まれてこの世の天国を味わって居た。
なんで社の中に炬燵があるの?
なんで外見はボロっちいのに、中は普通なの?
なんで外から見たら狭そうだったのに、こんなに中が広いの?
などとツッコミ所満載なのだが、今の彼女にはそんな事は些細なこと。
重要なのは、見知らぬケモ耳幼女2人が何故か懐いてくれている事だ。
《それも好みドストライクの美幼女!
ジュニアアイドルとしても活躍が出来なそう程に愛らしい。
それこそジュニアアイドルの玉木ちゃんとカズサちゃん以上に可愛らしい!
きっと神様が今日までがんばったご褒美として与えてくれた至福の時に違いない》
そう納得してしまうミト。なんとも単純なヤツである。
「……って、イヤイヤイヤ。確かに幼女が欲しいと願ったけど、流石のロリコンでも簡単に納得できる状況じゃないから!」
突如、首を左右に振り、叫びだすミト。
それを不思議そうに眺める2対の眼差し。
「あるじ……だいじょうぶ?」
右側に座る犬耳幼女が、気遣わしげに尋ねてくる。
それを聞いてミトは思う。
こんな小学生にも満たなそうな幼女に主と呼ばせる高度なプレイをした覚えはない、と。
幼女たちは、ミトを「主」と呼び慕ってくる。
確かにミトは紛う事なき幼女大好きである。
だからといって、幼女に自分を主とか、ご主人様とか、そんなうらやまケシカラン呼び方はさせた覚えはない。
確かに地元に居た時はご近所の幼女たちから「ミトお姉ちゃん」と慕われていたが。
《一体どこの誰だ、こんなうらや……ケシカラン教育をした奴は》
そんなことを思いながらもミトは2人に問いかける。
「ねぇ……その主って私のことかな?」
「何言ってるのあるじは! あるじはあるじで、あるじでしょ!」
と、今度は左の猫耳幼女が主三段活用を唱えてくる。
しかし、いくら主と言われても、ミト自身の身に覚えはなく、名前すら知らない彼女たちとは初対面のはず。
《むしろこんなに可愛い子達に会ったら、絶対に忘れるはずがない》
と、心の中で力強く断言するミト。
「えっとぉ。もしかして、誰かと見間違いとかじゃないかな?」
そう言うと、幼女2人はクンカクンカと顔をミトの胸元に埋めて匂いを嗅いでくる。
《これは何というプレイなのだろう》
嬉しいけど、シュールな絵面に少し現実逃避をするミト。
「やっぱり……この匂いはあるじ。気配も……そう」
「私たちが、あるじを間違える訳ないじゃないっ!」
などと自信満々に言われてしまえば反論する言葉も無くなってしまう。
《一旦呼び名のことは置いておくとして、今は行く宛もないから、このまま勘違いでも良いからここに泊めてもらえないかな》
そんな考えになってきたミト。
もちろん、何となくではない。
この場所は不思議と実家のような安心感があり居心地が良い。なにより、ただ可愛くて好みという理由以外に、無性にこの2人から離れたくないと感じる自分が居る。
そんな自分に驚きながらもミトは、恐る恐る2人に尋ねてみた。
「私、住むところが無くなっちゃって行く場所がないの。だから、ここに住まわせてもらってもいいかな?」
「ん……? なに、当たり前のこと……言ってるの?」
「そうよ、あるじなのだから良いに決まってるじゃない!」
犬耳幼女は不思議そうに、猫耳幼女はさも当然でしょ! と言うように言ってくる。
「えぇっと…………じゃあよろしくね、2人とも」
嬉しそうな返事に少し戸惑ったが、そんなモノはケモ耳美幼女一緒に暮らせる嬉しさで吹き飛んだ。
トントン拍子で決まってしまった新たな住居。
怒涛の展開で、ミトはお互いに自己紹介をしていない事を思い出した。
「ねぇ、2人とも。お互いに自己紹介がまだだったでしょう、先に2人の名前を教えてくれないかな?」
ミトがそう言うと、悲しそうに顔を歪めるケモ耳幼女たち。
しかしそれも一瞬のことで、猫耳幼女はすぐに勝気そうな顔になり自己紹介を始める。
「あたしはミー子! そしてこっちがクー子!」
「ん……クー子」
「ミーコちゃんとクーコちゃんね。それじゃあ、ミーちゃんとクーちゃんって呼ばせてね。私の名前は神凪 ミト。ミトお姉ちゃんでも、ミトねぇでもいいよ!」
そして欲望がダダ漏れであった。
だが、何故か不機嫌そうなミー子とクー子。
《あれ、私スベッた?》
不安になるミト。
「ミー子とクー子って言ったのに……!」
「あるじは、あるじじゃ……ないの?」
2人は違った事で不満を覚えている様子。
ミー子に至ってはムキーッ! と今にも地団駄を踏みそうである。
とても不服そうだ。
「出来れば名前で読んでもらいたいかなぁーって。ダメかな?」
流石のミトでも、人前でこんな幼い2人に主と呼ばれた日には周囲から白い目を向けられてしまうこと間違いなしなので、名前でなくても、せめてお姉ちゃんと読んでもらいたいと願う。
そんな願いが通じたのか、
「仕方ないわね! あるじがそう言うなら、ミトねぇって呼んであげるっ!」
「ん、ミトねぇ……」
「ありがとう!」
呼ばれただけなのに、とても嬉しくなってしまいミー子とクー子を抱きしめる。
2人も突然抱きしめられたのにも関わらず、物凄く嬉しそうに尻尾を振っており、巫女服のスカートから1本のモフモフな尻尾と短い毛並みがサラサラな二又の尻尾が揺れた。
「あれ、ミーちゃんに尻尾が2本?」
自分が人間なので他種族に対して多くの知識があるわけではないが、基本的には1本のはずで、今まで見てきた猫獣人たちも皆そうだったと記憶しているミト。
《病気か、はたまた特異性の何かなのかな?》
と、少し心配になる。
しかし、
「ん~? ミー子はミー子だよ!」
という幼女特有の説明にならない説明に、
「そっか!」
と納得してしまうミト。ロリコン、ここに極まれり。
こうして何も分からないまま、3人の共同生活が始まった。
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良くも悪くも、3人での生活は安定しており心地良い毎日で、再就職先も見つからずズルズルと過ごしてクリスマスとなった。
通帳や印鑑も無事で、遊ぶ暇も殆ど無かったために無駄に増えた蓄えもあり、のんびり過ごしているミトだが、社会人としてこのままでは良くないと思いつつもズルズルと過ごしていた。
なぜなら共同生活を始めて間もない頃、ミトが再就職の事をミー子とクー子に話したところ、
「ダメっ!」
「……私たちと一緒に居るの……いや?」
と涙目と上目遣いのコンボを2人から決められて、あえなく撃沈。
《しょうがないじゃん!
あんな寂しそうな声と潤んだ瞳で言われたら断れないよ!》
と、ミトは嘆いた。
そして今も、
「んんぅ~♡」
「ん……そこぉ♡」
「ここかなぁ?ヨシヨシ」
「んんんぅ~~~♡」
「んん……わふぅ♡」
炬燵に入りながらクー子とミー子が顎を膝に乗せ、頭を撫でながらダラシない表情をしてマッタリと過ごしていた。
ここ最近、よく見られる光景の1つ。
本物の犬猫の様に撫でられるのが大好きなクー子とミー子は、この様にミトに擦り寄り撫でて貰うのが最近の日課となりつつある。
「ミトねぇ、そこぉ♡」
「ん、そこ……♡」
完全にふやけきったダラシナイ表情をさらして、喘ぎ声にも似た声をあげるケモ耳幼女達。
他から見たら完全に事案である。お巡りさんこの人です。
同じくダラシナイ顔をしているミトだが、最近、言いようの無い焦燥感に胸を締め付けられていた。
内側から自分で無い何かが訴えかけるような焦り、その正体も掴めないまま時間が流れていく。
さらに、なぜ2人が私を主と呼び無条件で懐いてくるのか。
ミトは時折訪れる焦燥感や分からない疑問に苛まれていた。
でも、自分好みのケモ耳幼女たちから慕われ甘えられる日々は頭が溶けてしまうようで、悩みも消え去り、そしてまた不意に蘇る。
今もまた、発作のように沸き起こる焦燥感に手を止めてしまうミト。
そんな彼女を不思議そうに、どうしたの? と見つめてくる愛らしい瞳。
「あっ……手を止めちゃってごめんね。そうだ、今日はクリスマスだからパーティーをしよう! その為のお買い物に出かけようか」
ミトは誤魔化す様に買い物を提案する。
ここには料理器具などあまりなく、鍋やガスコンロなどもない。折角のクリスマスなのだから、夕食は自分の好物であるお鍋にする予定だ。
「ミトねぇと買い物! もちろん行くわ!」
「クー子も……行く」
何度も食材の買出しなどで一緒に出かけているのにも関わらず、喜ぶ2人に頬を緩める。
他にも境内の落ち葉掃きや、社の掃除なども一緒に行い、ミトと一緒に居ること自体が嬉しくて堪らない。そんな様子のクー子とミー子に愛おしさが溢れて止まらない。
しかしそれと同時に、胸の中で燻る想いも少しずつ大きくなるのであった。
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その保護欲を唆る容姿に巫女服姿のケモ耳幼女達はご近所では人気者。
眠たげな眼にホンワカした雰囲気、その白髪もゆるーくカールさせた犬耳クー子。
元気ハツラツで少し小生意気、その性格のごとく白髪が跳ねている猫耳ミー子。
麻呂眉と白髪という共通点はあるが種族の違う、しかし、まるで本物の姉妹の様に仲が良く礼儀正しい2人は、子どもが殆どいないこの町内では愛されている存在。
そこにポッと出てきたミトだったが、これが意外とスンナリ受け入れられた。
クー子とミー子が大変懐いており、尚且つ、ミト自身の人当たりが大変良く、見目麗しい女性だったからだろう。
3人で出かける時は、いつも巫女服姿の2人はミトから買って貰った大切な洋服に着替える。もちろん、ミトが2人の為に興奮を滾らせながら吟味したのは想像に難くない。
洋服に着替えてミトの両手を掴みルンルンと機嫌良さそうに歩くケモ耳幼女たち。
可愛く着飾った幼女に挟まれてミトもご機嫌のご様子。
そんな3人が近くの商店街に行けば、
「ミトちゃん今日も美人だね! どうだい、新鮮な野菜は。おまけしとくよ!」
「おじさん、見る目があるわねっ!」
「ん……よく分かってる」
「それじゃあ、八百屋のおじさん。白菜を1つください」
「くぅーーー! ミトちゃんは料理上手って聞いているから、一度ご相伴に与りたいねぇ。よし、おまけにこの立派な椎茸を付けやる!」
「ありがとうございます、おじさん」
「いいって事よ、是非とも鍋の具材にしてくれぇ! そして、それを俺だと思っ」
スパーンッ!
「アンタ! ミトちゃんに何セクハラしてるんだい、このおバカ! ごめんねミトちゃん、コイツのことは後でシメておくから。 もちろんその椎茸はおまけしておくよ」
「ありがとうございます、八百屋のおばさま」
と、似たような光景が先々で起こる。
今では3人揃って、この町内の愛されキャラとして定着していた。
必要な食材が買い終わり、残るは鍋とガスコンロのみ。
手を繋いで前を歩く幼女2人をルンルン気分で眺めるミト。
2人の尻尾は見えないが、見えていたらユラユラと喜びを顕にしてるに違いない。
何故だかは知らないが、2人はミト以外の前では尻尾を出さないようにしているようなのだ。
キュートな尻尾が見えない事を残念に思っていると、目的の金物屋に着いた。
「ミトねぇ、ここで何を買うの?」
目的地しか知らされていないミー子がこちらを向き疑問の声が上げて、隣にいるクー子も不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。
「ジャーン、今日の夕飯はなんとお鍋! だから、鍋とガスコンロを買うんだよ」
先ほど買ってきた食材たちを胸元に抱え、笑顔で高らかに言う。
これには喜んでくれると思っていたミト。
そして、返って来たのは驚きの顔だった。まさかの反応。これには流石のミトも戸惑う。
「2人とも、お鍋は……嫌い?」
まさかと思い、恐る恐る尋ねてみる。
好き嫌いが殆どなく、苦手な食材も入っていないはずなのにこの驚かれよう。
一体何が原因なのか見当もつかない。
「ん~ん……クー子も、ミー子も……好き」
ミトの問いかけに対して、少し顔を俯かせてしまったミー子の代わりにクー子が応えた。
「そう……それじゃあ、買って来ちゃうから待っててね」
少し辛そうに見える2人から逃げるようにお店に入る。
その時、今まで感じてきた心のザワめきが一際大きくなった。
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買い物が終わり、お店から出てきた頃には何時もの様子に戻っていた幼女たち。
ミトもザワめきがある程度収まっており、先程までのことがウソだったかのように思え、またすぐに消えてなくなる、そう思っていた。
しかし、今回ばかりは違った。
好物である鍋の準備は何時も楽しかったはずが、今は焦燥感が募るばかり。
まるで何かが迫っており何とかしなければ、と思ってしまう。
フッと目の前で楽しそうにお手伝いをする猫耳幼女と犬耳幼女の姿を眺めていると、少し和らぐ気がした。
「よーし、準備完了!」
元気な声を上げるミトの目の前には、炬燵の上でガスコンロの火に炙られて湯気を立たせるアツアツのお鍋。
「ミトねぇミトねぇ、早く食べよう!」
「ん、ん……っ!」
はしゃいで急かすミー子とクー子。
クー子までもが、ここまではしゃぐのも珍しい。
《だったら、あの時の反応は一体なんだったのかな》
一瞬頭に過るが、こんなにも幼女たちが嬉しそうにしており、ミトにとってはそんな疑問は些末なことだった。
さっそくミトが真ん中に座ると、右側をクー子が、左側にミー子が陣取っていつものポジションへ。
そこから更に気持ち半歩程、ミトに密着するクー子とミー子。
「それでは、いただきます!」
「いただきますっ!」
「いただきます……!」
こうして、楽しい楽しい夕食の幕が開け、この時ばかりはミトの中にあった焦燥感もなりを潜めていた。
「ん~~~美味しい!」
久しぶりのお鍋。それも冬の炬燵にケモ耳美幼女2人に挟まれた状態。
《これで美味しくないと答える奴は人ではない!》
心の中で豪語するミト。
ミトにとって、この世の全ての幸せを詰め込んだ状態。今にも涙を流しそうな勢いだ。
クイックイッ
すると、心の涙を流しているミトの右袖が引っ張られる。
どうしたのだろう? と思い、右の方へ目線を下げれば、少し目を潤ませたジト目ワン娘の姿。
「あ~~~~」
小さな口を開けてこちらを見つめる姿。
その可愛らしさに、ミトの心はその愛くるしさに打ち抜かれた。
「ッグフ! ク、ククククーちゃん。フーフー、はっはい、あーーーーん」
どうにかクー子の食べさせてを耐え、自分の取り皿に入れてある鶏肉を冷まして食べさせてあげる。
「おいしい?」
「モグモグ、ん……おいひぃ」
ちょっとお行儀悪くモグモグさせながら喋るクー子。言葉に連動するように尻尾がフサフサと揺れる。
餌付けをしている気分になり、ホクホクした気持ちでもう一度与えようと思っていると――――
クイックイッ!
強く左裾を引っ張られた。
そのまま左に目線を向ければ、ふくれっ面のミー子の姿。
ロリコンの彼女からしたら、そんな姿も可愛いと思えてしまう。
「クー子だけずるいっ! ずるいずるいっ! ミトねぇ私にもっ!」
「ごめんね、ミーちゃん。はい、あーーーん」
「フゥフゥもしてっ!」
《あぁもう! なんて可愛らしいオネダリなの!》
と内心身悶えるミト。
ミトからフゥフゥして食べさせて貰っているクー子が羨ましいミー子。ミトが大好きなのだから当たり前だ。
「フゥフゥ、あーーーん」
「あ~~~んっ!」
それはもう嬉しそうに咀嚼するミー子。二又の尻尾はぴーんと立って、先端がクニクニと動いている。
また歓喜に打ち震えていると再び右袖が引かれた。
クー子をみると、もの欲しげな表情。
その表情は、もっと食べさせて? と訴えていた。目は口程の物を言うとはこのこと。
堪らず2度目のフゥフゥあーんをするミト。するとまた左袖が引かれ、ミー子が、もう1回! という表情で見つめていた。
《なに、この天使たちは! 私を萌殺しにでもするつもりなの!?》
とミトは狂喜乱舞するのであった。
その後、何度も同じことを繰り返して満足したクー子とミー子。ミトも大変大満足であった。
しかし、自分が食べることを忘れていた事を思い出す。
するとタイミング良く、ケモ耳幼女達がおもむろに立ち上がったと思えば、イソイソと鍋から具を自分たちの取り皿へ。
次はどうするのだろうと、微笑ましい気持ちで見守っていたら、
「フゥフゥ、はい、あーーーんっ!」
「フゥフゥ、……あーーーん」
器用にお箸で、取り分けた具を差し出してきた。
ミー子は、早く食べて食べて!と期待の目をして、
クー子は、食べて? 懇願にも似た表情でミトへ差し出してくる。
あまりの嬉しさにクラッと昇天しかけた。
2人への愛が溢れそうになって仕方が無かった。
もっと食べて! と急かすケモ耳幼女たちから、奉仕のようにご飯を食べせてもらい、お互いに満腹になってきた頃。
ミトは至福感と共に、2人への想いを再認識していた。
初めはただ単に、自分好みの幼女だから好きなのだと思っていた。しかし、時間が経つにつれてその想いは間違いだったと気づかされた。
それぞれを1人の人として愛している、ということに。
何故なら、昔からずっと追い求めていた幼女の面影。それがこの2人だったのだ。
一緒に過ごしている内にその思いは日を追うごとに増していき、ついには確信へと至った。今ではどうしよもない程に2人のことが大好きで、離れたくないと思っている。
今にも溢れ出てしまいそう。
それに合わせて肥大化する想い。
胸の内で燻る謎の焦燥感。そして、2人からのミトへの無条件の好意の謎。
嬉しくて、でも分からなくて、色々なモノでゴチャゴチャしてきた気持ちに、いつしかミトの目に涙が浮かんでいた。
ついには溢れ出し、拭っても拭ってもポロポロと零れ落ちてくる涙。
「あれ……? なんで……」
《泣きたかった訳じゃないのに……嬉しいはずなのに……》
そんなミトの思いとは裏腹に止めど無く溢れてくる。
「あるじっ……!」
「あるじ……」
急に泣き始めたミトを久しぶりに主と呼び、ギュッと抱きしめるクー子とミー子。
ミトは2人の体温に包まれて、ついに塞き止めていた想いが溢れ出して、声を出して泣いた。
「うわぁあああああん」
みっともなく泣きじゃくるミトを、慈愛に満ちた表情で両方から抱きしめるクー子とミー子。
何処からともなく湧き上がる罪悪感と懐かしい感覚を胸に、ミトはいつの間にか眠りについた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ここは……」
いつの間にかミトは、薄ぼけた景色の中に立っていた。
目の前に見えるのは、住んでいる社。落ち葉に囲まれたその姿は今よりも古びていない。
ぼんやりと眺めていると、そこには袴姿の少しやせ細った美人な男性が現れた。その姿は尊く神秘的で、神様と言われても信じてしまいそうな程。
彼は突然、林の方へ歩いていく。慌てて後を付いて行くと、そこにはダンボール箱が置いてあり、中には真っ白な子犬が蹲っていた。
ミトはその姿を見た瞬間トクンッと胸が高鳴らせた。
子犬は見るからに衰弱しており、弱々しい声で鳴くが起き上がることすらできない状態。
男が子犬に手を添えて何か呟くと、子犬は白い光に包まれて小さな女の子になってしまった。
その姿は、クー子と瓜二つ。
更に場面は変わり、男性が巫女服姿のクー子と一緒に林の方へ。
今度は真っ白な子猫がダンボール箱の中に捨てられていた。それもまた、弱った姿で。
男が手をかざし呟くと、その子猫が光輝き小さな女の子に。
その姿は、ミー子と瓜二つ。
この時すでに、ミトは気がついていた。
これは過去に起きた事を追体験しているのだと。
そして、この幼女2人がクー子とミー子であるのことを。
場面は何度も移り変わり、そのどれもが幸せそうに暮らす3人の姿。
しかし、男性の表情にはたまに陰りのようなものが映った。
社の中に飾ってあるカレンダーが12月25日になった。その時には、男性は前よりも痩せこけており、覇気があまり感じられないように思える。
男性を気遣うクー子とミー子の姿に胸が締め付けれ、罪悪感がミトを襲った。
その日の晩ご飯は、奇しくも、ミト達と同じお鍋。
幸せそうに食卓を囲む3人の姿は、家族の団欒のように見えた。
しかし、幸せな時間は唐突に終りを迎えた。
心地よさそうに体をくっ付けるクー子とミー子の頭を撫でている男性。
彼はポツポツと何かを話している。
しばらくすると、撫でている手は透けてゆき、次第に全身が透明になっていく。
そして、そのまま雪解けのように彼は消えてしまい、残された2人は赤子のように泣き叫んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゆっくりと意識が浮上する感覚に、ミトは夢から目覚めたことを自覚した。
《どうやら、少し寝ていたみたいね》
壁に掛かっている時計をチラリと確認する。
意外と目覚めは晴れやかだった。
なぜなら、今まで分からなかった胸の奥にある数々の思いの正体が判明したからだ。
「あれは…………私だ」
そう、あの夢は他の誰でもない、ミト自身の魂に残っていた記憶の残骸。
夢で見た男性は、このちっぽけな社に住む神様でありミトの前世。
ミトが誰かの後ろ姿を常に探していたのも、この街に来たことも、クー子とミー子に出会い、好かれたことも、全ては偶然ではなかったのだ。
土地神としてこの地を守ってきたが、時代と共に薄れゆく信仰心により神としての力が弱まっており、参拝にくる人も少なく1人寂しい日々を送っていた。
このまま朽ちていくのならば、そう思い寂しさを紛らわせる為の気の迷いで、つい、弱っていた捨て犬と捨て猫を残り少ない力を使い、神の使いとされる狛犬と狛猫にしたのだ。
狛犬と狛猫にすると、年を取らなくなってしまうから神の力で怪しまれないようにした。
そこから、狛と子供の『こ』を掛けて、鳴き声からも1文字とって『クー子』と『ミー子』。なんて単純な名付け方。
でも、2人は大いに喜んでくれた。
それは楽しい毎日だった。力を使い過ぎて残り少ない時間であったとしても。
だが、同時に神は己のアホさ加減を呪った。
自分が消えた後に残される、愛おしい2人の事を考えて。
「もう……ほんとうに私のバカ」
過去の自分が余りにも考えなし過ぎてド突きたくなる。
一応知り合いの神に頼んであったために転生出来る可能性はあったが、ヘタをしたらそのまま消滅していた。
運良く転生は出来たが、長い間2人を待たせて寂しい思いさせていたと思うと、自分で自分を殴りたくなる。それに名前のことも、忘れていたとしても私に間違えて呼ばれた2人のことを考えると自分自身が腹立たしい。
そう思い、起き上がったミトだが、その為の腕は両方とも愛おしい小さい温もりに掴まれていた。
「んにゃ~~~?」
「ん……」
どうやらミトの気配で目が覚めた様子。ゴシゴシと瞼を擦りながら起き上がる2人。
そんな2人の頭を優しく撫でて、ミトは言った。
「ただいま、|クー子、ミー子」
「……!」
「っ!」
弾かれたように顔をあげる幼女たち。
驚きと嬉しさが混じりあった表情をしている。
「あるじ……!」
「あるじっ!」
辛抱堪らずミトに抱きついてきた2人に耐え切れず、勢いのまま押し倒されるミト。
更には、キスの雨みたいに顔をペロペロと舐めてくる幼女たちを成すがまま受け入れる。その時、いくつも水気がミトの顔に落ちてきたが、気がつかないフリをして、優しくその背中を撫でた。
程なく、落ち着いたクー子とミー子。
ミトが、顔についた幼女の唾液をちょっと勿体無く思いながら顔を拭き取り終わると、待ってましたと言わんばかりにその腕に抱きつくケモ耳幼女たち。
「ねぇ、あるじとミトねぇ、どっちで呼べばいいの?」
「そうねぇ……、もう昔の私じゃないからミトねぇでお願い」
などと抱きつかれたまま、他愛のない会話をする。
昔を思い出した今でも2人への愛は変わらない。むしろ強くなったとさえ思う。
「ミトねぇは、もう何処にもいかない……?」
「もちろんよ」
神の使いであるクー子とミー子は寿命がないに等しい。しかし人間であるミトは100年もしないで寿命が来てしまう。
《その辺は、また知り合いの神様を頼ってどうにかするしかないかな》
と心の中で独り言ちる。
「クー子は心配性ねっ! さっき私たちは親愛の契をむすんだのだから、どこにもいかないわよっ!」
「親愛の契?」
自信満々に言うミー子。
しかし、ミー子が言う親愛の契とはなんだろう、と考えるミト。
昔の記憶を手繰り寄せても、そのような言葉は出てこない。
「ん……人間で言うところの、誓のキス」
「そうよっ! 人間は親愛の印にキスをするのでしょ? だから私たちもマネて顔を舐めたのっ!」
「そう……だから、ミトねぇは私たちのモノ……」
「あれ、誓のキスみたいなものだったの!?」
まさかの事実に驚く。
《確か、犬とかも親しい相手の顔を舐めたりしたなぁ》
とぼんやりと思い出す。
よもや、それが婚約の様な形で使われることがこようとは夢にも思わなかった。
驚いたまま動かないミトに、不安が募ってくるクー子たち。
「ミトねぇ……いやだった?」
ミー子が不安げに問いかける。
心なしか、2人の間にドンヨリとした空気が漂い始めて、ミトは慌てて答える。
「ちがうわ! 私も2人のことを愛しているから、むしろ嬉しい……」
と最後の方は恥ずかしくなってしまい、尻すぼみになってしまった。
顔が赤くなっているのが自身でも分かるぐらいに熱い。
「えっへん! それならミトねぇより年上の私が旦那さまね!」
「ちがう……それならクー子が、旦那さま……」
「えっと……見た目的に私の方が――――」
「ダメッ!」
「ダメ……」
「えぇぇぇぇぇ!?」
「旦那さまになって、ミトねぇを守るのっ!」
「旦那さまになって、ミトねぇを守るの……!」
ついにはミトをそっちのけで言い争うクー子とミー子。
そんな2人を見て、ここが私の居場所なんだと思いふける。
こうして、姦しいクリスマスの夜はまだまだ続く。
最後までお読みいただきありがとうございます。
楽しんでいただけたのなら嬉しいです!
本当はクリスマスまでに投稿したかったのですが、忙しくてできませんでした。
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https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66484292