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小品集

かくれんぼ

作者:魚住すくも
 少し手直しをしました。どうなりますことやら……。
 微かな音がして、目を覚ました。リビングで本を読んでいたら、いつの間にか眠っていたようだ。窓の方でまた音がした。誰かが窓を叩いているのかと、音のする方向を見た。
(なんだ、風か)風にあおられて、日よけのすだれが揺れている。
 わたしはほっと、胸をなで下ろした。
 真っ青な青空。遠くの方に入道雲が見えている。初夏の午後の太陽は容赦なく、家の前のアスファルトを灼いている。
「かーくれんぼすーるひーと、この指とーまれ」
 遠くの方で、子どもの声が聞こえてきた。まだ小さな子どもの声。
 ほとんどの人が学校や会社に行っているのか、やけに静かだ。時計を見れば、午後三時を少し過ぎていた。

 わたしだって、半年前は普通に高校に通っていた。
 カワリモノを排除するクラスメイトに馴染めなくて、体調を崩すまでは。

 喉が渇いたので、冷蔵庫からアイスコーヒーを出す。ガラスのコップに注ぎ、一息で飲み干した。苦味と甘味がすぅっと喉を通りすぎていった。

 閑散とした住宅街は、どこか結界をつくっている気がする。耳を澄ませても、聞こえてくるのは通り過ぎる車の音と若い親子のささやかな会話。
 わたしだけ、この家ごと異次元にワープしているんじゃないかと思ったりする。

 ふいに玄関の方から音が聞こえてきた。かしかしとドアをひっかくような音だ。一瞬、空耳かと思ったけれど確かに聞こえてくる。
(なんでインターホン、押さないんだろう)訝しがりながら、玄関の方へそろりと歩いていく。
 おそるおそる鍵を開け、
「どなたですか?」と、辺りをうかがった。誰もいない。呆気にとられて、しばらく外を見ていた。どこかで子どもが、
「ちやちゃん、みーつけた」と言っているのが聞こえた。
 少し風がきつくなってきた。見ると、空模様があやしい。夕立が降るかもしれない。わたしはドアを閉めた。
 ダイニングルームに戻ったところで、わたしは足を止めた。
 猫だ。わたしが座っていた椅子に小さなキジ猫がくるんと寝ころんでいた。
「ありゃあ、いつの間に……」あまりのことに、呆然と呟いた。
 そろりそろりと猫の寝ている椅子に近づいてみる。猫はすうすう眠っているようだ。なかなか見上げた根性をしている。
 猫は好きだけど、こんなに近くで見るのは滅多にない。そぉっと丸くなった背中を触ってみる。フワフワと暖かい。
 ふいに猫が身じろぎをして、目を開けた。
「ありゃ、起しちゃった」わたしはそう言って、手を引っ込めた。猫は起きあがって椅子の上で伸びをする。
「もしかして、玄関叩いてたの、キミだったの?」と尋ねても、我関せずといった風に後ろ足で耳をかいている。
(見つかったのが決まり悪かったのかな)
 そう思って笑った。笑ってから、気づいた。

 笑ったのなんて、久しぶりだ。

 飼い猫だろうか。首輪こそなかったものの、毛並みはつややかだ。なでても嫌がるどころか、グルグルと喉を鳴らして目を細める。
 しばらく猫をなでていたら、急に猫が顔を起した。耳をそばだてて、じっと玄関の方を見ている。
「……ん? どうしたの?」
 わたしの手をすり抜けて、猫は床へ下り立った。軽い足音を立てて、ドアの方へ歩いて行く。猫のそばに行くと、猫はドアを開けてと言うようにわたしを見上げてきた。
 首をかしげながら開けると、猫は勢いよく走り出した。
「うわ、今までどこ行ってたんだよ、お前」
 玄関先で立ちすくんでいたわたしの耳に、男の人の声が入ってきた。
 声の方を見れば、大学生ぐらいの若い男の人だった。猫が彼の肩の上に飛び乗る。
 ホップ・ステップ・ジャンプ。
 その様子を見ていたわたしの視線に気づいたのか、男の人がにこやかに
「すみませんねー、こいつ放蕩娘なもんで、すぐ人んちに入っちゃうんです」と、言った。
 男の人に話しかけられたことに驚いて、わたしは首をぶんぶんと横に振った。

 どうしよう、言葉が出てこない。

「こいつにきつく言い聞かせときますんでねぇ」と、男の人は立ち去ろうとした。

「あ……あの!」わたしは、男の人に呼びかけた。
「かわいい猫ちゃんですね」
 わたしがそう言うと男の人はふわりと微笑んで、ありがとう、と言ってくれた。
 男の人の肩の上から、猫がわたしの方をじっと見ている。

 その時。
 ぽつりと、最初の雨粒が落ちてきた。

(END)
 もともと投稿していた作品に、少し手を加えてみました。といっても、主人公の設定を増やしただけですが……。
 ちょろっとドラマ性なんてものも、付加してみました。

 月に一度、仕事の休みを取って通院をしています。
 そのときに、異次元にいるんじゃないかってのを感じたり、感じなかったり……(どっちやねん!)。


 

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