わたしの姉
私の家には女王様がいる。ほかならぬ、私の姉だ。
姉は美しい姿をしている。染色のない髪、化粧けのない肌、どれひとつとっても、私より美しい。
姉は美しい声を持っている。金糸雀の鳴く声より澄んでいて、金色のハンドベルよりも響く。当然、私のだみ声とは比べものにならない。
姉は好かれる人でもある。きっぷがよくて、交友も広い。会話を回すのが上手いから、人も寄ってくる。人と関わるのが苦手な私とは大違いだ。
だから、姉は、私の家の女王様なのだ。美しくて力強い、女王様。
両親は当然、姉を優先する。いつだって比較するし、いつだって私に落胆している。いっそ、私のことなんて見捨ててしまえ、と思う。でも姉がなにかにつけて私をかまうから、両親は決して私を見捨ててはくれない。姉が私を庇うから。
私はこんなにも、私の姉が憎たらしいのに、一方の姉は妹のことが大好きで仕方ないらしい。
皮肉だ、と思う。
私は姉が嫌いだ。私は姉が憎い。完璧に限りなく近くて、だけど可愛らしくて、誰からも愛される姉が。
私は嫌われ者で、私は憎まれっ子で、欠落だらけで、可愛げもなくて、愛されない。姉以外には。
姉はどうして私を愛するのだろう。こんなできそこないを愛して、必死に庇って、姉は何を得るというのか。私にはわからない。わかりたくもない。女王が、私を守るのは当然だとでもいうのだろうか。嗚呼、わかりたくもない。…私の家は、姉を中心に回っている。姉が家の世界を回している。小さな世界の女王様は、外聞のために自分のナルシズムのために、奴隷を寵臣にしたのだろうか。ああ、知りたくない。
姉は私の女王様だ。私を庇い、愛し、認めてくれる。父母の暴力から私を逃がし、雨の中でうずくまる私を抱きしめて、自分なんて要らないと泣く私に“×××は私の自慢の妹なのに”と泣きそうな顔をする。
姉は私の女王様。奴隷も寵臣も、主なくしては生きていけない。私は、私の姉なくしては生きていけない。
……ああ、姉が憎い。どうしようもないほど憎い。
……嗚呼、わたしは、あなたなしでは生きていけない。私の崇める、私だけの、私の女王様。あなたの愛なくして。




