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第五話 初陣

「ったく、あやつはどこへいったのじゃ」


信長は一人村を歩いていた

理由は突然消えた、赤毛の青年を探す為である

上で寝ていたるみな達に聞いても何処へ行ったのか分からないという


信長からしたらあの青年とは何の面識も無いのだから何処へ行こうが関係無いし放置してもいいはずなのだが


(あやつは儂と同じ境遇なのやもしれんしのう)


この世界にいきなり放り出された信長にとって、自身と同じような状況の者が一人でもいるだけで大分心強い

いなくなられるのは都合が悪い


「あの叫び声があやつのものだとしたらまだそんな遠くへは行ってないはずじゃが・・・」


信長は青い月の光を頼りに辺りの暗闇を見回すがなかなか見つからない


「はー・・・まあ急に別世界に飛ばされたら動揺するのも無理もないのぅ」


特にあやつはまだ若い。人生もこれからって時にいきなり別世界で暮らせと言われれば受け入れるのは難しいじゃろうのう


そんな思案を浮かべながら村を歩いていると、何やら前方―村の外に幾つかの灯火のようなものが浮かんでいるのが目に写った


「なんじゃ?あれは」


こんな村中が寝静まった時間に祭りでも催しておるのか?


信長は目を細めて詳細を確認する


灯火が近づいてくると少しずつ全容が見えてくる


真夜中なので判りづらいがどうやら何かの集団が灯火を掲げているようだ

黒い馬に跨がって村へと行進しているように見える

全部で30人ほどだろうか

そして跨がっている者もまた、黒い鎧で全身を覆っている

顔も鉄製と思われる兜で覆われているため見えない

そして灯火を持つ手の反対には何やら長い棒のようなものを持っている


「あれは一体・・・」


信長は灯火の集団に近づく


「あれは・・・槍か・・・?」






「隊長、目標の村までおよそ50ルースの距離です」


「・・・全軍停止」

隊長と呼ばれた男が手を平にし、高く上げる

周囲の者達よりも体格が一回り大きい様子が鎧越しにも伝わってくる

鎧自体も部下が着けている通常のものよりも豪華に仕上がっており、全身に細く赤い線の模様が通っている


静かに行軍していた馬の群れが停止する


「諸君、これより目標リット村への奇襲をしかける。村人どもは皆殺しにしろ。女を犯すのは構わんが用が済んだら必ず殺せ、穢れた人族どもを根絶やしにする。家を燃やすのは奇襲が終わってからだ、家具や金貨などが略奪出来なくなるからな」


「「「はっ!!!」」」

隊長の指示に、部下が統率のとれた軍隊のごとく応じる


「では行くz・・・ん?」

突撃の指示をしようとした直前、前方遠くに何者かがこちらへ歩いてくるのが見える

月の逆光で詳しい姿は分からないが、背はそれほど高くなく、そして頭の上に何かが刺さっているように見える

何だあれは?そういう髪型なのか?そういう帽子なのか?


「村人か?ふん、まあよい。どっちにしろ全員殺すつもりだったのだからな」

隊長はそう言うと少し間を空け、腹に大きく息を吸う

そして部下を鼓舞するように周りの草木が揺れるほどの大声で叫ぶ


「お前ら!!!!行くぞ!!!!!!!!!!!!」


「「「おおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」」」


隊長を先頭にし、黒馬の群れが一斉に村へと駆け出していく





黒馬が地面を蹴る音が遠く離れた信長にも伝わってくる


「!? 来おったか・・・」

こんな夜遅くに村へ武装して押し寄せてくるとは、夜盗の集団か?


だとしたら状況はかなり危うい

信長は丸腰で刀など装備していないし、着ているものだって村人が着ていたであろうお下がりの服で防御力は紙に等しい


「・・・ふん、是非もない」





帝国兵と謎の村人との距離がみるみる近くなっていく

10ルースほどの距離となった時、隊長が近くにいた部下に大声で命じる


「ドルゲイ!あのダサい髪型をした人族を殺れ!!!」

「御意!」


ドルゲイと呼ばれた男が、黒馬を腹を足蹴りし加速し、集団から出て目標に向かう


「死ね!穢れた人族め!!!」

ドルゲイは黒馬の加速を利用し、目にも止まらぬ速さで槍を降り下ろす


(完全に捉えた)


ドルゲイがそう確信した直後、人族が身を屈め、槍を躱す


「なっ!?」


人族は即座に姿勢を立て直し、そのまま槍を掴み、引く


馬上の帝国兵は思いっきり転落し、全身を地面に打ち付ける


「ぐはっ!!!」


悶絶し、思わず声を発する


それが彼の最後の言葉となった


「死ぬのはおぬしじゃ」


信長が言った直後、ドルゲイの兜と鎧の隙間に槍がねじこまれ、喉を裂く


信長が槍を抜く


先端が、深紅の鮮血で滴っている


動かなくなった黒い鎧からは中から血があふれでていた


「!?」


隊長が腕を上げ進軍を停めさせる


少し地面を擦る音がした後、進軍は止まる


「・・・何者だあの人族は」


気がつくと村人も騒ぎに気付き、皆が外へ出ている。

周囲がざわつく

「あれは・・・帝国兵じゃないか!?」

「まさか!?帝国と王国との国境は王国軍が常時警備している筈だぞ!!」

「だがあの黒い鎧と双頭竜の紋章は間違いなく帝国のものだ!!」


「逃げろ!!!」


何者かがそう叫んだ瞬間、村人は一斉に駆け出した

恐怖と焦りでそこら中から悲鳴が聞こえる

帝国兵に捕まれば、死は免れない


「お姉ちゃん!早く逃げないと!!」

「でも、ノブナガさんと赤髪の人がいないわ!」


するとどこからともなく、大勢の悲鳴を押し退けるようにノブナガの声が聞こえてきた


「るみなあああああああ!!!!!!!!竜太ああああああああああ!!!!!!!!何処にいるかは知らんが儂は大丈夫じゃからおぬしらは逃げろおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」


ノブナガの姿は見えないが遠くからはっきりと聞こえた


「姉ちゃん・・・!」

「・・・逃げるわよ、リュータ」

二人は村人らが駆けている方へ走り出した





「人族どもを一人も逃すな!!!やつらを追えええええ!!!!!!!!」


「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!」」」


配下の者共が一斉に信長の先の村人の集まりをめがけて馬を駆けさせる


「行かせんぞ!!!」


信長が槍を先頭の馬めがけて投げつける


槍は曲線を描いて飛び、見事に黒馬の脇腹へと突き刺さる


「ひぃいいいいいいいいん!!!!!!!!!!」


槍を受けた黒馬は生々しい悲鳴をあげ、地面へと勢いよく倒れこむ


それに巻き込まれて幾つかの黒馬も足を掬われて倒れる


信長は一目散に倒れた帝国兵から槍を奪うとそのまま突き刺し止めを刺していく


「こしゃくな!」


後方から駆けてきた帝国兵が信長をめがけ槍で垂直に突こうとする


「ふんっ!」


信長が槍で受け突きを弾くと、間髪入れずに相手の顔面を槍で兜越しに貫く


「おぼろっ!!」


一突きにされたされた帝国兵は脳ミソを撒き散らし、そのまま落馬して倒れこんだ


抜いた槍には脳ミソの破片がこびり付いていた


「・・・汚いのう」


そう発した直後、視界の右端に赤い光が写る


即座に身を傾けて避けようとするが、大きな破裂音とともに左腕に衝撃を受ける


「ぐっ!!!」


左腕を見ると服が焼けて破れ、皮膚には大きな火傷負っている


「こいつは俺が相手する、残ったものも逃げられる前に村人どもを狩ってこい」


「「はっ!」」


隊長の後ろで控えていた黒馬の群れが一斉に信長を大きく避けて通っていく


「貴様ら・・・!」


信長が群れへ目を向けた瞬間に、再び先程の光が放たれた


瞬時に気配を察知し、今度は何とか避ける


「余所見をするでない、人族よ・・・中々の腕前だ、名前を聞いておこう」

赤い線模様の入った鎧を身に付けている男が言う


「・・・儂は信長・・・織田信長よ」

信長が低い声で答える


そして、槍で相手を指して問う


「して・・・そちの名は」


「我が名はヴォード、帝国陸軍奇襲隊隊長だ」

信長よりも、さらに低い声で答える


信長が槍を向けたまま言う

「ふん・・・おぬし知っとるか?大名とは ただ戦場の安全な所で偉そうに踏ん反り返ってるだけの存在では、無いのじゃぞ」


続けて、言う


「日の本の侍を、嘗めるなよ」


肌が剥き出しになった左腕に、龍の紋章がうっすらと赤く輝き始める―――






1ルース=約1.5メートルです

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