旅立つ少年少女
アランとバロンの決闘から30分。酒場は、いつも以上に騒がしかった。酒場の中では2、30人の人たちが酒を飲んで、喋って大盛り上がりだ。しかし、その中にははなしをここまで盛り上げた少年の姿はなかった。
店の裏庭
そこには、大きな木が生えていて、ちょっとした丘がある。そこに、真っ赤な髪の少年が座っていた。
「アラン」
その少年に声をかけたのは、金髪の少女。ミリアだった。
「何してるの?」
少年は下を向いて少し考えると、話し出してくれた。
「...... バロンは、俺が思ってる以上に強かった。俺は、本気でやってたのに、足下にも及ばなかった。バロンはあぁ言ってたけど、まだまだだって、改めて思ったんだ。」
そして、先ほど渡された剣を見た。
「この剣、さっき聞いたけど、小さい頃に、俺が倒れていた近くに一緒に落ちていたんだって。」
「そうなんだ。」
「......俺が、あの森、『ウィンドルの森』に行きたい理由は、そりゃあ、帰りたいとかそういう気持ちもあるぞ、でも、それよりも、思い出したいんだ。自分が何者なのか。」
「それって、どういう意味?」
思い出したい。なぜそのようなことを言うのか。何を思い出したいのか。しかし、そのときは、何も答えてくれなかった。また今度と、悲しそうに笑う少年の顔に、何も言えなくなってしまった。
「そうだ!」
いきなり立ち上がり、そう言うとこちらを向いた。
「お前も来るだろ?」
楽しそうに笑い、嬉しそうに言ってきた。
「えっ!い、いいの?」
ついていくつもりであったが、まさか、誘われるとは思っていなかった。
「おう!いいに決まってんだろ!それにお前がいないと、地図の見方わかんねーしな!」
「それ、すっごい大変なことよ!」
そう言うと、楽しそうにしししっと笑っている。でもよ、というと、
「来るだろ?」
そういって、手を差し出してきた。
驚いた顔を少ししたが、すぐに微笑み。
「うん!」
そう言いながら、差し出された手を元気よくとった。
「それじゃ、ちょっくらいってくる!」
大きなリュックサックを背負った少年と、女の子らしい、可愛いトランクケースをもった少女が、街を出ていった。
「本当にあなたにそっくりね。」
「何の事かわからないな。」
見送る人々のなかで話している二つの影があった。
「嘘ばっかり。何で素直に教えてあげないのよ。」
「ヒントはあたえただろう?」
「わかってるんじゃない、バロン。......昔あんたもウィンドルの森を探してた、りっぱな冒険家でしょ?」
そう言いながら、笑っているのはマリアだった。
「あの子達くらい頃、この街を出ていって、15年も探し続けたんでしょ?」
「まぁな......でも、選ばれたのは、俺じゃねぇみたいだからな。あいつらが帰ってきたときの土産話を楽しみにしてるよ。」
そう言いながらバロンは、マリアから顔を背けた。
(頑張ってね、アラン、ミリア。これから起こる困難も、あなた達ならきっと乗り越えられるはずだから。)
店の奥では古びた片手剣と杖が輝いていた。