プロローグ
明かりが一つもない暗い部屋にいた。何日もこの薄汚いドブの掃き溜めの様な場所に閉じ込められていれば、誰だって気が狂うだろう。 かく言う俺も、食事を持ってくる男の足音が、死神の足音に聞こえて仕方がなかった。
今日もまた、この部屋に向かってくる足音が聞こえる。しかし、今日はどうやら複数人のようだ。多くの足音が、こちらへ向かってくる。
「彼が収容No.257か?」
「その通りです」
「では、指示通りに頼む」
「何だ、俺に何か用か?」
俺が目の前の男たちに向けてそう言うが、男たちは無視して話を進める。すると、屈強な二人の男が牢の中へと入ってくる。二人は肩を掴み、両手を捻り、俺が抵抗できないようにする。そのまま、なす術もなく男たちに外へと連れて行かれる。
「さて、そこへかけたまえ」
目の前の一際雰囲気が違う男に言われたように、彼の対面の席へと座る。ただならぬ緊張感からか、自分の手を拘束している手錠が、小刻みに揺れている。
「君は私を知っているかね?」
「いや、知らない」
「そうか、最後にあったのは君が6歳の頃だったな」
「親父の知り合いか?」
「あぁそうだよ。カンパニーのシルフだ」
「CIA……」
シルフと名乗った男は、ポケットからタバコを取り出し口にくわえる。
「昔話をしよう。君の親父さんと俺の話だ」