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地蔵盆  作者: 髙津 央
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09.牽制

 八月二十日。

 信吾は今日も、中学の裏門から敷地を抜け、バス道沿いのコンビニへと行く。



 丁度、校舎から、見覚えのある女子生徒が出て来た。

 ポニーテールに銀縁眼鏡。いかにも真面目。絵に描いたような図書委員だ。

 川池が図書室を案内してくれた時、転校生・見津信吾(みづしんご)の読書感想文の心配をしてくれた。それは覚えているが、名前を思い出せない。

 軽く会釈して、コンビニへ向かう。


 「ちょっと待って。……えー……あー……転校生さん!」

 図書委員も、信吾の名を覚えていなかった。

 少し安心して、足を止める。

 「えっと、川池君らから聞いたんですけど、お地蔵さんのコト、調べとぉ(しらべている)てホンマですか?」

 図書委員は、やや躊躇(ちゅうちょ)していたが、まっすぐ信吾を見て聞いた。


 特に隠す必要もないので、信吾は答えた。

 「川池君達がお寺に話を聞きに行くそうで、連れて行ってもらうんです」

 「昔話は別にえぇけど、最近の話は、被害者も加害者も、まだ、ここに住んどぉ(すんでいる)から、あんまり根掘り葉掘り、ひつこぉ(しつこく)聞くんは、やめたって下さいね」

 「えっ?」


 「何も知らんのやったら、その方がえぇこともあるんですよ。転校生さん、お父さんの転勤で、また、じっきに(すぐに)どっか行くんですよね?」

 「えーっと、まだ、いつまで居るか、わからないんですけど……」

 他所者扱いには慣れているが、やはり少し傷付く。

 彼女にとっては、名前すら、覚える必要がない存在なのかもしれない。


 どうせ、すぐに異動で移動するんだから、余計なことを知るな、ってか?


 「プライバシーとか色々あるし、警察が動いて加害者を刑務所に入れるか、児童相談所が動いて被害者が保護されるかせんかったら、被害者がヤバいから。変に蒸し返さんとって下さいよ」

 先日の裏サイトが、信吾の脳裡(のうり)(よぎ)ったが、何も言わずに頷いた。



 今朝、大家の志染(しじみ)さんが、チラシの裏に入院した親の一覧を書いて持ってきてくれた。「個人情報言うんが(むつか)しいてねぇ」と、名前はイニシャルにしてあった。

 チラシの裏は、まとめサイトの情報とほぼ、一致していた。



 「罰が当たってやめた人も()んねやから、いらんこと言い触らさんとって(いいふらさないで)下さいよ」

 他所者が地元の問題に首を突っ込むなと言う話かと思ったが、微妙に違うようだ。

 信吾は念の為、図書委員に確認した。

 「お地蔵様の祟りって言うか、罰が当たったことにしておいかないとマズイってコトですか? まだ生きてる加害者が、被害者に『お前のせいで酷い目に遭わされた』って、八つ当たり……みたいな?」

 図書委員は、こくりと頷いた。

 「科学的な検証とか、別にいらんのです。気持ちの問題やから。何かあった時に『ホレ見てみい。あんなんするから、罰が当たったんや』て言われるような奴は、みんな見て、知っとんですけどね。……せやけど、中途半端に関わったら、子供に余計酷いことするから、警察沙汰にならん時は、お地蔵さんにお願いするしかないんです」

 ほぼ初対面で、お互い名前すら覚えていない。


 女子に一対一で……こんなに熱く語られたってコトは……俺、ヤバいことに首突っ込んでる?


 だが、余計なことをするな、と責められている訳ではない雰囲気だ。

 信吾が困惑し、顔を強張らせて黙っていると、図書委員は、少し表情を和らげて言った。

 「さっきも言うたけど、昔話聞きに行くだけやったら、別に(かめ)へんのです。せやけど、最近の話は、やめたって下さい。知ったら呪われるとかやのぉて、リアルに、実在の被害者が死ぬ程、迷惑掛かるかも知れんから」

 信吾は、図書委員の目を見て頷いた。

 彼女の目は、誠実な光と滲んできた涙に潤み、夏の日差しに光っている。


 付き合い濃いトコみたいだし、被害者さんと、仲良いんだろうな……


 図書委員は、大きく息を吐き、話を変えた。

 「読書感想文の提出、九月一日やのぉて、地蔵盆明けの八月二十五日の登校日やから、忘れんとって(わすれないで)下さいね」

 「あ、はい。もう書けてるんで、大丈夫です」

 課題図書は全国共通だ。

 「よかった。図書室開けるん、今日までやったから。ほな、また」

 「あ、はい。わざわざ、ありがとうございます」

 一方的に用件だけ言われて別れた。

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