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地蔵盆  作者: 髙津 央
3/16

03.昔話

 翌日、信吾はスーパーでの荷物持ちに駆り出された。

 母は昨日買えなかった分も、今日の会合までに買い込むつもりらしい。買物カゴ二個分の食糧と日用品を持ち、レジに並ぶ。


 レジ前の催事コーナーは「地蔵盆のご用意」だった。

 蓮の花型の落雁(らくがん)やまんじゅう、高坏(たかつき)、子供用の念珠、線香といった、所謂「お盆用品」の他に、紙皿や紙コップ、割り箸、色紙、駄菓子の詰め合わせ、花火セットも並んでいる。パッケージには、キャラクター化した地蔵尊や、卍が描かれた提灯、菊の花などがプリントされている。


 ……中止になったら、お店の人も困るよな。


 会計が済み、母と手分けしてエコバッグに詰めながら、ぼんやり考えた。



 空がすっかり暗くなり、会合から帰った母の顔も、暗かった。

 「悪いけど、そうめんだけで我慢してくれる?」

 「俺が茹でるよ。母さん、休んでて」

 「えっ、そう? じゃ、頼むわ。ありがとね」

 信吾は湯が沸くのを待つ間、トマトとレタス、ハムで簡単なサラダを作った。父の分にラップを掛けていると、丁度帰って来た。


 父が、冷奴に葱を散らす信吾を褒める。

 「へぇー。晩飯、みんな信吾が作ったのか。偉くなったなぁ」

 「母さん、へとへとだから」

 「ごめんねぇ」

 「いいよ。大変だったっぽいし」

 昼、二時頃に始まり、今は夜の八時過ぎだ。

 「何だ、結局モメたのか?」

 「それがねぇ……」



 町内会には、長い坂沿いの十軒と、小野家(おのけ)の面々が出席した。

 会合の場を提供した小野家は、中学の隣にある。短い坂と長い坂、それぞれの下端に位置する。低い谷の底だ。

 短い坂の上は粟生(あお)さん宅と畑、長く緩やかな坂の上には溜め池がある。


 小中学校の敷地は元々、小野さんと粟生さんの畑と竹林だった。

 粟生家への短い坂道は、本来、中学の裏門から正門まで続いていた。

 その為、現在も裏門付近の住民は、中学の敷地を通って、正門前のバス道に出ることが許されている。

 そのことは、大家の志染(しじみ)さんと担任からも聞いていた。


 小学校と中学校の境界部分も、かつては畑の中を通る農道だった。

 地蔵堂は、畑の中の四つ辻に建っていた。



 「工事でお地蔵さんを移動しようとしたらね、作業員さん達が次々怪我したんですって。それも、独身の人じゃなくて、子供が居る人ばっかり……」

 「おいおい、何でいきなり怪談になってるんだ?」

 「さぁねぇ。その話したの、私じゃなくて、小野さんだし。それで、独身の人だけで作業したけど、やっぱり子供の居る人だけ怪我して、動かすのやめようってなって、今もそのままになってるんですってよ」


 「お地蔵さんの祟りで子持ちのおっさん全員怪我? 死者は出なかったのか?」

 父が、そうめんをすすりながら聞く。


 「無事な人の方が多かったらしいけど、怪我した人達が、祟りだなんだって、怖がっちゃって、中止になったみたい。小野さんは特に言ってなかったけど、人死(ひとじ)にが出てたら、それも言うんじゃないかしらね」

 「ふーん。で、昔の事故と絡めて、粟生さんの轢逃げも、祟りだってのか?」

 胡散臭げに聞く。


 「いいえ。それがね、霊験あらたかで、そう言う強い力があるお地蔵さんだから、粗末にしたら(バチ)が当たるって、小野さんが……」

 「小野さん以外の人達は、何て?」

 「祟りなんて迷信だ、偶然だ。今時の子はこんな行事、面倒臭がって喜ばない。逆に嫌がってる。もうやめようって声が大きかったわ。縮小してでもやろうって人も、それなりに居るけど……」



 中止派と実行派は、大いにモメた。

 母は、昨日言った通りのことを発言して帰ろうとしたが、ならば証人として見届けて欲しい、と大家の志染(しじみ)さんに引き留められた。

 母が、実行・どちらでもいい・中止の三択で、恨みっこなし、証人は票を投じないことを条件に、多数決で決めることを提案し、場を治めた。



 「で、やるの? やらないの?」

 「中止派が勝っちゃった。一票差だったんだけどね」

 母は心底、残念そうだ。

 今年は、粟生さんの具合が悪いから中止し、来年以降は、また改めて、話し合いを持つことに決まった。

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