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地蔵盆  作者: 髙津 央
11/16

11.七人

 連日の猛暑で、コンビニ通いがすっかり習慣化している。


 小豆アイスにしようか、ソーダアイスにしようか、いや、パインも捨てがたい……


 コンビニの前で、呼び止められた。

 「あ、転校生」

 「ちょっと、えーっと……転校生!」

 「見津(みづ)君や」

 一番背の高いコが、小声で他の二人に教えた。

 「あ、はい、見津です。こんにちは」

 「こんにちは」

 制服姿の女子三人は、アイスを食べていた。


 少なくとも、一人は名前を覚えていたが、見津の方は、三人の名前を思い出せない。何とか、美術部員だと言うことは思い出せた。

 「明日、川池君らとお寺さん行くんやって?」

 先程、信吾の名を言ったコが聞いた。カフェオレ味のチューブ入りアイスを持っている。

 他の二人は、アイスキャンディーなので、急いで食べていた。


 信吾は、図書委員と同じ質問に身構える。

 「お地蔵さんのこと、知りたいんやって? 先輩から聞いた話、教えたげよか?」

 図書委員からは、余計なことを知り過ぎるな、と釘を刺された。

 それに、先輩から伝わる怪談は、既にサッカー部から聞いている。

 「保護者の人が、七人怪我する話なら、川池君達から聞きましたよ」

 「それ、何でか、聞いた?」

 それを「聞いてはいけない」と聞いている。信吾が断るより先に、アイスを食べ終わった女子二人が、語り始めた。 

 「お地蔵さんの呪いやから」

 「ずーっと昔に、自分の子供を殺した人が居ってん。お地蔵さんは、殺された子の為に作られたんやって」

 「殺された子が七人やから、怪我する大人も、七人やねん」

 「怪我で済まんかったこともあるけど……まぁ、それだけ強い呪いが掛かるような人らやったんやろ」



 子供の死因には驚いたが、ここまでは、信吾が大家の志染(しじみ)さんや、サッカー部員から聞いた話とほぼ一致する。

 中学生だけから聞いた話なら、口裏を合わせて転校生に怪談を語り、怖がらせるドッキリかと思うところだ。

 だが、志染さんがそれに乗るとは思えない。

 あのサイトも、ただのドッキリにしては、手が込み過ぎている。


 

 「どないかして欲しい大人が居ったら、お地蔵さんにお祈りすんねん」

 美術部員の声が、やや湿り気を帯び、低くなる。

 「美術部の先輩に聞いてんけど、ずっと前の先輩の代に、合唱部の人が、生まれつき顔にある(あざ)のせいで、いじめられとってんて」

 「クラスの人も部活の人も、その人のこと(かぼ)たり、先生に言うたりしてんけど、いじめっ子の親が学校に来て『ウチの子は正直なだけや。気色悪い顔しとるモンが悪い』言うて、逆切れしたんやって」

 「それで、いじめられた人と、いじめてへん人みんなで必死に『いじめっ子の親、どないかして下さい』て、お地蔵さんにお祈りしてんて」

 「そしたら、いじめっ子の親、車に轢かれて、顔ぐちゃぐちゃに……」


 「ドナイカ?」

 信吾は、方言でハイペースに語られる怪談について行けず、妙なタイミングで質問してしまった。

 「あ、方言わからん? どうにか。えーっと……改心するか、どっかへ消えるか、それが無理やったら、死んで欲しい言うこっちゃ」



 信吾は「死」と言う言葉に体の芯が凍った。

 あのサイトの嘲笑。

 死を喜ぶ言葉と、お地蔵様を称える言葉が、画面いっぱいに列を成す。

 その文字列が、信吾の脳裡(のうり)を駆け巡る。



 「自分の子供に酷いことする親とか、いじめっ子ほったらかしにして『ウチの子は悪ない』て、逆切れする親とか、『自分の子を贔屓(ひいき)せぇ』て、先生に無茶振りして、他の子ぉに迷惑掛けまくるモンペとか……えーっと……」

 「なんせ、子供の害になる大人は、みんな、お地蔵さんにお願いしたら、どないかしてくれんねん」

 「亡くなった子ぉが七人やから、多分、一人につき一人で、年七人だけなんやろなぁ」


 そんなことを、寄ってたかって、新入りの俺に話して、何がしたいんだ?


 「どんくらい(ばち)当たるかは、その大人の悪さのレベルに比例するみたいやね」

 カフェオレアイスを食べ終え、背の高いコも話に加わった。

 「改心できるかどうかも、ポイントちゃうかな? 今んとこ、即死は一人も出てへんらしいから」

 「近所のお年寄りも、昔から『怪我で済んどぉ内に性根(しょうね)入替えや』て言うとぉもんなぁ」

 「見津君もな、もし、どっかこの辺で、子供を虐待しとぉ悪い大人に気ぃ付いたら、こっそり児相(じそう)にチクるか、お地蔵さんに話したってな。それで助かる子ぉが居んねやから」


 ……この地区、オレンジリボン運動、浸透し過ぎだろ!

 って言うか、通報先、お地蔵様も含むのかよ!?


 児相と言われ、前の学校で夏休み前に配布された小冊子を思い出した。

 冊子をもらってから、公衆電話に通報用の電話番号が、貼ってあることに気付くようになった。

 公衆電話の数は少ないが、信吾が見た限り、全ての台に貼ってあった。


 聞いてもいいものかどうか迷ったが、思い切って、口に出してみることにした。

 「この学校、創立十年くらいって聞きましたけど、お地蔵様の祟りってそれより前から、あるんですか?」

 「昔は何かあっても、記録とか集計とかしてへんかったから、残ってへんだけ(ちゃ)うか?」

 「今は学校やから、お見舞いやらお葬式やらの連絡網で、ワーッて話広がるから、わかり(やす)なっただけ(ちゃ)うの?」

 「私は、小六ん時に引越してったから、昔のことは知らんゎ」

 アイスキャンディー二人は否定せず、背の高いコは、首を横に振った。


 折角、女子と喋ってんのに、何だ、この話題?


 信吾は内心がっかりしながらも、顔には出さなかった。

 「明日、お寺さんでそう言う話、聞いて()んねやろ?」

 「また後で、詳しい話、聞かしてな~」

 「ほな、また登校日に~」

 美術部員三人は、言うだけ言うと、さっさと帰ってしまった。

児相(じそう)=児童相談所

※オレンジリボン運動=こどもの虐待防止運動

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