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地蔵盆  作者: 髙津 央
10/16

10.事件

 地元のローカル新聞に、小さな記事が載った。



 児ポ法違反で父親逮捕


 幼い娘の画像を男らに販売していたとして、県警は二十日、児童ポルノ法違反(製造・販売)で市内の父親(38)を逮捕した。

 父親は入院中。手術を待って、身柄を警察病院に移送し、聴取を開始する。

 自宅に残してあった携帯電話宛に画像の送信を催促する内容の電話があり、代わりに出た母親が警察に相談して発覚した。

 県警では、画像の販売先の特定を急いでいる。



 記事は被害者の人権に配慮して、曖昧に濁してあるが、近所の人達には丸わかりだ。

 木幡(こばた)さんの奥さんが、警察に相談する前に、葉多(はた)さんに相談したせいもあるだろう。


 隣の部屋で志染(しじみ)の婆さんが、信吾の母を相手に熱く語っている。

 (ふすま)は閉まっているが、会話は筒抜けだ。

 信吾は、TVのサッカー中継をみるフリをしながら新聞を見ていた。


 「やっぱり、木幡さんの旦那(ダン)さんは、(ばち)が当たっとったんやねぇ。双子がお風呂上がって着替えよぉとこ、ケータイで盗撮して、変質者に売り(さば)いとったらしいんよ」

 信吾の母が、息を呑む。

 「ホンマに……前から、男の子欲しい欲しい言うて、娘、誰も可愛がらへんかったけど、まさか、変質者に売り飛ばすような真似しとったとはねぇ……」

 「インターネットで画像が出回ったら、なかなか取り消せないらしいですし……これから、どうなるんでしょうね?」

 母が、双子の小学生の将来を案じる。


 「昔っから、娘、赤線(あかせん)に売り飛ばして、酒代(さかだい)にするアル中親父は居ったけど、今でもあんなん居るんやねぇ……」

 「酷いことを……」

 母が言葉を失う。


 本人が直接、どうこうされた訳ではないが、画像流出の傷は長く残る。

 現在の技術では、流出画像を全て削除することは不可能だ。個人のローカルに保存されれば、ほぼ打つ手がない。

 PCの所有者が、単純所持で逮捕され、ハードディスクが物理的に破壊されるまで、被害は続く。


 でも、父親がそれで有罪になったら、前科者の娘ってことで、どっちに転んでも、人生ハードモードだよなぁ……


 信吾は胸にずしりと重しを乗せられた気分だった。


 図書委員のコが言っていたのは、こう言うことだったんだ……

 だから、何も聞かない。

 もし、知っても、事情を知らないフリで「あいつはお地蔵様の罰が当たったんだ」で、押し通さなきゃいけないんだ。



 台風が去り、厳しい暑さが戻って来た。

 溜め池の水位はギリギリ。用水路は濁流。

 溢水(いっすい)していなくても、畑は水浸しで、収穫前の野菜に被害が出ていた。

 大人が入院して、事前の対策が間に合わなかった地蔵盆中止派四軒と、木幡(こばた)さんの畑は、特に酷かった。


 これも、お地蔵様の祟りで、経済的制裁? いや、まさかな。フツーに自然災害だよな……


 信吾は、良くないことを何もかも、お地蔵様の祟りに結び付けようとする自分に苦笑した。

 同時に気付いた。

 この地区では、小中学生の保護者の身に何かあれば、まともな親まで、即「祟り」として、終わってるダメ人間の烙印を()される可能性があった。

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