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雲の上の土竜  作者: Ria
10/12

罪人

「坊主、目を覚ませ」


 目を覚ますんだ。


「お前は雲に騙されていたんだよ。魔法なんて無いし、あいつの語ったことは事実じゃない。この街で生まれ育ったお前ならわかるはずだ、ここはそんな場所じゃない、そうだろ」


 確かにそうだ、有り得ない。


「不必要な話に惑わされるなよ」

 泥棒はそう言って立ち上がった。


「あの……雲はどこへ行ったんでしょう」

「さあな。俺が知るわけ無いだろ」

 それにしてもあいつ、キツく縛りやがってと悪態をついている。


 面と向かって見ると、着ているものも見たことがないほど美しかった。

「あなたはあの山の向こうの人?」

「そうだ、俺は向こうから来た」

 そう言ってさらさらと美しい髪を掻きあげる。幾重にも羽織った布のなんと繊細なことか。


「手紙を盗みに来たんだ」


 雲はどこへ行ってしまったんだろう?飛び出してしまった雲を引き留めようとしたのに、どうしてか出来なかった。


 雲。

 今、雲と離れてはいけないはずだった。

 一人にしてはいけないはずだった。

 憎しみと孤独に肩を震わせる君には、僕しかいないはずなのに。



「坊主、魔法なんて信じているのか?」

「雲があるって言ったんだ。それならきっとあるんだろう」

「嘘をついているかもしれないぞ」

「雲は嘘をつかないよ」

「なんであんなやつ、信じられるんだか」


 こうしている間にも、雲はどこかへ行ってしまう。

 どうして僕は追いかけない?

 どうしてなんだろう。


「泥棒さん」

「……その呼び方やめろ」

「じゃあ英雄さん?」

「泥棒でいいや」

「じゃあ泥棒さん、神様の話は嘘なの?」


 僕を見つめる泥棒は、朝日を煙たがるように目を細めた。


「嘘だよ。雲が話した残虐な昔話は、あいつが勝手に作り出した妄想だ。あいつは坊主にそれを話して、嘘によって街を嫌いになって欲しかったんだろう」

「……なんでそんなことをするんだ」

「雲はこの街が嫌いだからな」


 吐き捨てるように言って、泥棒はそっぽを向く。本当にそうなのか、僕はそっと心の中で保留にした。


「雲を信じるな」

 信じちゃいけないと、泥棒は繰り返した。僕は頷きもせずに彼をひたと見つめる。この人が善いのかそうでないのかは、僕には分からない。


「雲はどこへ行ったのだろう」

「俺が知るか」

「そうだよな」


 探しに行かなくちゃ。こんなやつ、放っておいて。

 友達なのだから。


「行かなきゃ……」


 君がこの街を嫌ったとしても、僕をそちらに引きずり込もうとしても、それでもいい。

 僕は君を信じなくてはならないのだから。

 雲の、たった一人の友として。



「坊主、お前はとんでもない馬鹿だ」

「僕は馬鹿だけど、雲は馬鹿ではないよ」

「雲もお前も馬鹿なんだ、魔法なんて嘘だ」

「何度も言うけれど、雲は嘘をつかない」


 信じるものを信じるのが僕のやり方だと、そう思いたいのだ。


 飛び出してしまった雲の行方を誰も知らない。もし飛び出したのが僕だったなら、すぐに分かっただろうに……雲は雲だから、どこへ行こうと何をしようと、隣にいなくちゃ分からないことがほとんどだ。


「ここは幸せな街」


 背後で泥棒が呟いたのに振り向かず、僕は外へ出た。ぽっきり折れそうな三本の桜の木が並んでいる。風が揺らすけれど、この風は今までに何本の木を揺らしたんだろう?


 ああ、雲。僕は君を信じているよ。例えこの街を汚すような話だっていいんだ、嘘をついたりしないと知っているんだから。

 きっと全てほんとうだ。神様は僕の街に殺されてしまったんだ。雲はその事実に苦しんでいる。


「雲ー……」

 雲の姿はない。


 どこへ行ったのだろう?どうしてか、少なくとも北の大樹のところではないような気がした。西か、東か?


「そうだ、悪霊だ」

 僕の頭の中に、夢でみた光景が広がる。赤い光を放った魔法使いは、あの刃物で悪霊を消せと言ったのだ。もしかしたら雲は、悪霊を消すために西の広場に行ったのかもしれない。

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