鳥居の上
――今年も此の季節がやつて来た。
此の神社は、地元では少しばかり有名な桜の名所だ。
鮮やかに咲き誇る桜並木を見に、多くの人間が訪れる。
僕は毎年、此処から其の顔ぶれを眺めてゐる。
皆、笑顔ばかりだ。
綺麗な桜に、あの家族も、あの男女も、あの老夫婦も。
皆が笑顔を浮かべてゐる。
――けれど。
僕は胸中で呟く。
今、手を繋がうとした彼は隣に居る人が昨年と違ふ。
今、腕に抱き付いた彼女は隣に居る人が昨年と違ふ。
毎年の事だつた。
仕方の無い事なんだ。
さう思わんとしても、肺を掴まれたやうな想ひは霧散しなかつた。
此れも又、毎年の事だ。
――祈らう。
結局いつも、同じ答へに辿り着く。
昨年も一昨年も、同じ願ひを祈つてゐた。
翌年も翌々年も、同じ願ひを祈るだらう。
――翌年も、彼等の居場所が変わりませんやうに――
―了―
御笑覧、有難う御座いました。
いとま潰しの御手伝いになりましたら本稿も私も幸せです。
本稿は季節外れの超短編です。
旧かな遣いのアイディアは友人に頂きました。此の場を借りて、改めて御礼を。
どうぞ今後とも宜しく御願い申し上げます。