女性教官の独り言
「総員、打て!」
乾いた銃声が幾重にも響く。
ここはとある国の軍事演習施設。私はそこで働く教官の一人、リライアだ。
女性指導教官は珍しいかもしれない。現にこの施設には私一人しかいない。
しかし、私は「鬼のリライア」と訓練生の中で恐れられるほど厳しい。それは自覚している。
指導に当たる新人の軍人たちも当然男ばかりである。
このむさくるしい男だらけの中で私は唯一の女性として軍人の育成に励んでいる。
「第183期生。整列!」
私が声を張り上げると、新人の軍人たちが一斉に姿勢をただし、整列する。
番号点呼を指示し、全員そろっていることを確認する。
「この第183期生の指導の総括を担当するリライア・オーウェルだ。階級は大尉、リライア大尉と呼べ。」
今年、私は初めて新人軍人の指導総括を任されることになった。それに従い、階級も大尉となった。
この183期生が私の担当である。張り切っていかなくては。
この指導総括をやるに当たり、施設庁でもある上司であったマクダウェル上官から気になることを言われた。
「指導を厳しくするのはいい。だが壊すなよ。それができると思って私は君を推薦したのだから。」
私の指導でけが人を出したことはない。精神的に壊す?そんな輩が軍人になれるとは思えないのだ。
私の指導以上に厳しいことが現実では待ち受けている。
それに耐えられず戦争の世界へ送り出すほうがいけないことだと思う。
183期生が入ってきてから1か月がたった。
今のところ体も精神も壊した人間はいない。杞憂だったのだろうか。
そういえば、一人変な奴が入ってきた。
奴は名をコリンズ・ナカジマといった。
なんでも異国人の父を持つということで、少し変わった名前をしている。
どこが変わっているかというと、なんと上官である私を食事に誘ってくるのだ。
上官の指導を仰ぎたいというのなら本当に熱心な奴だと思うのだが、奴は食事のときはあまりそういう話はしない。
なぜか私のことばかり聞いてくるのだ。まったく変な奴だ。
ということをマクダウェル上官に話したところ、上官は「そうかそうか、あとで彼を呼びなさい」とやけににやけた顔で私に言った。
マクダウェル上官は時々何を考えているのかわからない。
その後、彼が私を食事に誘うことはなくなったが、時々彼は上官の部屋に入るようになった。
指導にも慣れてきたある日、コリンズがめずらしく訓練に遅れた。
いつもは必ず5分前にはいるようなやつである。その日の演習が終わった後、彼に話を聞いて見た。
彼は「いや、なんでもないんです。」といった。
上官である私に隠し事とはいい度胸である。まあいい、誰にだって隠したいことはある。
かくいう私も…だが。
ある日、朝の訓練に一人の訓練生が来なかった。
お仕置きは何にしてやろう。そう考えながら彼の部屋に行くと、彼は部屋にはいなく、
「私はもう軍隊を辞めます。探さないでください。」
と置き手紙だけが残されていた。
彼は183期生の中でリーダー的存在であった。
そんな彼が消えてしまい、183期生の中には動揺が走った。それはもう、私に止められるものではなかった。
その日の夜、マクダウェル上官に呼び出された。
「まあこうなるとは思ってたんだけどね。で、案の定壊しちゃった。と。このままじゃまずい。どうする?」
私は部屋で一人考えた。だが、この状況を打開する策は思いつかなかった。
そこへ、私の部屋にノックの音が響き渡った。
「リライア上官、コリンズです。」
コリンズは一度国内企業に就職してから士官してきたので、私とそう年齢は変わらない。
それでも私のほうが年上だ。
しかしこういう時、私はどうすればいいかはわからない。社会経験の豊富なコリンズの話を聞くのは有益だと感じた。
コリンズは私には逃げ出したものを上回るカリスマがあるといった。
あなたが指示すれば183期生はまとまる。そう教えてくれた。
私は昔、いじめられていた。当時、強くなりたい、強くなっていじめたやつらを見返したい。そう思っていた。
実際、強くなった。しかし、私は戦線に復帰することはできない。
一度アキレス健を切り、何度も骨折、ねんざを起こした左足が限界を迎えていたのだ。
私は指導教官という地位を得たが、戦線に戻れないと分かった時から、自分への自信を失っていたのだ。
コリンズはそれを見抜いて私に伝えた。
これでは私のほうが部下のようではないか。何とも部下に示しがつかない教官だったらしい。
コリンズに礼を伝えると、コリンズは満足そうな顔をして部屋を去って行った。
その顔がむかついたので、次の日の訓練はコリンズだけ倍にしてやった。
その後。マクダウェル上官のもとに報告に行ったところ、
「顔を見ればわかる、何も言わんでいい。やはりコリンズを行かせて正解だったようだ。」
どうやらコリンズはこの人に頼まれて私の部屋に来たようだ。
私の悩みをコリンズが解決するところまで見越していたのだろう。つくづく上官には頭が上がらない。
時が過ぎるのは早く、今日は183期生がこの訓練所を去る日だ。
ここはあくまでも訓練所。これから彼らは多くの駐屯地へと旅立つ。
数日後には新しい訓練兵たちが来るので暇はないが、私の教え子たちが去るのは少しさみしく感じる。
今朝、コリンズが私の部屋を訪ねてきた。
コリンズも今日この訓練所を去り、北方の駐屯地へと赴くことになる。
コリンズは最後に私に伝えたいことがあるとのことだった。
「上官、今日私はこの訓練所を去ります。その前にあなたに伝えておかなければいけない。
上官、いや、リライアさん、私はあなたのことが…
いかがだったでしょうか。
軍の訓練所でのお話でした。
リライアは自分の未熟さに気づけたから、成長できたのかもしれません。
バトルものが苦手ですから、こういう殺伐とした世界は新鮮です。
人情味あふれた話になってるといいのですけど…
っていうか急に二日連続で短編あげましたが見てくれる人いるのかな…
評価してくれると作者の意欲が上がりますよ(懇願)




