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契り

作者: けーすけ
掲載日:2014/01/09

 川辺に佇み、穏やかな風を感じる。青々とした空には、柔らかそうな雲がいくつか浮かんでいる。

「ここは……変わりませんね……」

 着物の裾をついと引き、私は手ごろな石に腰を下ろした。

 ――幾年月を越え、再びここへ戻って来れたことが嬉しい。

 どこからやってきたのか、はらりと目の前を横切った桜の花が、まるで祝福してくれているかのように思えた。

 風のさざめきを聞こうと、目を瞑る。

 すると、この場所で過ごした、鮮やかだった頃の日々が浮かんできた。


 『遅れてすみません……!』

 ――あなたは、いつも遅刻ばかりでしたね。


 『そこで綺麗な花を見つけて……。あの、これを……!』

 ――私の機嫌を取るのもとても上手でした。


 『僕と一緒になってもらえませんか』

 ――あなたの方が年上なのに、あの時はなんだかとても可愛く思えました。


 次々と湧き出るように流れる情景は、まるで走馬灯のようだ。

 私は、意を決し、最後までその短い夢を見続けることにした。


 『君は笑顔の方が美しい』

 ――最後まで、あなたは笑顔でしたね。


 『必ず戻ってくる。美味い飯でも作って待っててくれ』

 ――ええ、本当に最期まで……。


 お国からの手紙は、全て読まずに破り捨てた。

 あの人の褒めてくれたこの笑顔を、絶やすわけにはいかないから。頑固者だと言われても仕方がない。

 何を思うでもなく虚空を見つめると、自然と言葉が漏れていた。

「あなた……」

 誰もいない川辺に独り、私の声は宙を舞う。

「私は……」

 出会いも別れも共にした、この場所で。

「もう泣いてもよいのでしょうか……」

 心に誓った約束を。

「私は、あなたを心から愛していました……」

 静かに散らせた。

 無作法だと思いながら、頬に垂れるものを拭うことが出来なかった。

 しばらくすると目元も乾き、私はゆらりと立ち上がり、襟を正す。

 ここへ来るのは今日で終わりにしよう。誰に言われるまでもなくそう誓った。

 頑固者な私の、おそらく最後の誓い。一つ目を破ってしまった私の、決意の誓い。

 小さく頷き、川を背に足を踏み出す。

 その時、そよ風が頬を撫でた。私は突然のことに信じられず、目を見開いてしまう。

 乾いたはずの目元は、再びどうしようもなく潤んでしまっていた。

 私はそれでも必死に笑顔を作り、応える。

「私も……幸せでしたよ」

 どうしてそう聴こえたのかはわからない。ただ、私の耳には確かに届いた。

 ――『幸せだったよ』と。

 見上げた空は、雲ひとつない青空だった。

たしか、20歳の時に書いたものです。

知人に見せたら、「教科書みたい」と言われました。

短いながらもある程度しっかり終われていると思ったのですが、どうだったでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] つら。゜(゜^ω^゜)゜。 [気になる点] つら。゜(゜^ω^゜)゜。 [一言] たしかに教科書ぽい笑笑
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