ドラゴン・ネクサス
とりあえず、プロローグだけ。何でこれだけ掲載したんだ、俺……。
プロローグ『人間と龍の共存』
「今から千年以上前、西暦二千十二年に地球へ宇宙から来訪者が訪れます。その幻想物語に出てくる生物にそっくりな来訪者達を、当時の人々はこう呼びました。ドラゴン、と」
教壇の上に立ったはげ頭教師の話を生徒達は気だるそうに聞き流していた。壁に掛けられた時計が示す時間は午後四時。一日の授業終了間際の脱力感が生徒達の集中力をガリガリと削っていた。生徒達の様子に気付いてないのか、教師は相変わらずの平坦な調子で講義を続ける。
「人類はこの宇宙からの来訪者を歓迎しようとコンタクトを取ろうとしました。が、ドラゴンは人類からのコンタクトを無視し、攻撃を仕掛けてきました。ドラゴンの侵攻が始まってから僅か半年で人類の一割が滅ぼされました」
アンニュイな空気が漂う中、真面目に授業に取り組む生徒が一人。視線は黒板へと向けられ、ノートの上を走る筆記具は止まらない。意志の強そうな瞳、少し長めの黒髪の中に一房ある蒼いメッシュが特徴的な少年だった。
「ドラゴンの攻撃を受けた人類はコミュニケーションが無理だと判断し応戦。ここから百年の間、ドラゴンと人間の血で血を洗う戦争が続きます。後にこの戦争は百年戦争と言われるようになります」
(そのまんまだなぁ)
過去の人類の安直と言うか、お座なりなネーミングセンスに少年は苦笑を浮かべながらノートに“百年戦争”と書き記す。
「この百年戦争で人類は人口の半分以上を失い、文明のほとんどが崩壊しました。しかし、それはドラゴンも同じことで、彼らもまたその数を半分以下にまで減らしました。脆弱でありながら自分達と百年もの間、戦い続けた人類にドラゴンは共存の可能性を見出し、人類に和平を申し込みました。人類はドラゴンの申し出を承諾。以降、人類とドラゴンは共存の道を歩むことになりました。以降、暦は“西暦”ではなく“共生歴”となり」
教師がそこまで話した所で授業終了を告げるチャイムが鳴った。何か質問はありますか、と教師は生徒達を見回す。手を上げる生徒はいない。
「では、今日の授業はここまで」
きり~つ、気をつけ、礼、と活気が欠片も感じられない声で日直が号令をかける。
「「「「「ありがとうございました」」」」」
腹から声を出したのはただ一人、蒼いメッシュの入った黒髪の生徒、焔真龍星だけだった。
龍星が帰り支度をしていると、二人の級友が話し掛けてきた。
「はぁ~、眠ぃ……何でこう、歴史の授業は眠くなるんだろうな?」
「あの先生の声、催眠効果でもあるんじゃねぇか?」
「いやいや、催眠云々以前に授業中に寝ちゃ駄目だろ」
龍星の正論に何も言い返せない二人。相変わらず真面目だねぇ、と言われても龍星は肩を竦めるだけだった。
「で、何か用か?」
「いや。放課後、暇ならどっか寄ってかないかと思って」
級友の誘い。対して龍星は、
「悪い。今日は一緒に真っ直ぐ帰るってあいつと約束してるから」
もう一度、悪いと謝り、龍星は鞄を肩に引っかけて教室から出ていく。
「付き合い悪いな、焔真の奴」
「いや、付き合いが悪い訳じゃないだろ。ただ、優先順位の一番上に自分のラディが位置してるだけで」
「ま、確かに野郎からの誘いよりもラディ優先するよなぁ。焔真のラディ、滅茶苦茶可愛いし」
それに比べて俺達は、と級友二人はため息を吐く。その背中からは何とも言えない哀愁が漂っていた。
上履きから外履きに履き替え、龍星は昇降口から飛び出した。すれ違う同級生達に挨拶し、鞄が上下に跳ねるのも構わずに走る。校門から出て走り続けること数分、龍星は足を止めた。
彼の眼前に道はなく、崖のようにぶっつりと途切れていた。覗き込むと、眼下に数え切れぬほどの摩天楼がミニチュアサイズで並んでいる。巨大な都市が彼の視界に映っていた。
空中都市『ドラグティス』。そう呼ばれている。
「ここだな」
視線を持ち上げながら龍星は大きく息を吸い込み、声を張り上げた。
「イヴーーーっっっ!!!」
彼の叫びが赤く染まり始めた空に吸い込まれていく。数秒と経たぬ内に龍星の呼び声に応えるように咆哮が轟いた。一つ頷き、龍星は何の躊躇いもなくそこから飛び降りた。その瞬間、龍星を追いかけるように空から何かが急降下してきた。
「イヴーーーっっっ!!!」
体を反転させ、もう一度、龍星はその名を叫ぶ。すぐさま、吠え声が返ってきた。雲一つ無い、澄み渡った蒼穹のような声だった。龍星の視界一杯に広がる赤い空に“蒼”が飛び込んでくる。
耳元で風が轟々と唸るのを感じながら龍星は声の主を視認し、大きく両腕を広げる。力強く羽ばたく強靭な翼、屈強な後肢には鋭利な爪、頭部から流れるように生えた一対の角は槍の穂先を想起させる。滑らかな表皮と強固な鱗は空を連想させるほどに蒼い。俗に“ドラゴン”と呼ばれる存在だ。ドラゴンは咆哮を上げ、翼を折り畳んで龍星に向かって加速していく。龍星に追いつく寸前、ドラゴンは空中で体を一回転させ、その身を変貌させる。
「マスターーーーっっっ!!!」
さっきまで蒼いドラゴンがいた所に蒼髪碧眼の美少女がいた。風にあおられる長いポニーテールとこめかみから生えた一対の短い角、太陽のように眩しい笑顔が特徴的だ。龍星は胸の中に飛び込んできた美少女をしっかりと抱きとめた。
「マスターマスターマスターマスターーーっ!」
「はは。お疲れ様、イヴ」
ぐりぐりと胸に顔を埋めてくる美少女を龍星は愛おしそうに撫でる。彼女の名はブレイヴハート。その身に炎を宿しながら蒼を纏う非常に珍しいレッドドラゴンであり、龍星のラディだ。
「今日はどうだった?」
「あ、見てくださいマスター!」
イヴは鞄の中から何かを取り出す。赤いペンで十個の丸がつけられた紙だった。
「今日やった小テストで満点取ったんです!」
「お、凄いじゃないか」
口元に微笑を浮かべながら龍星はブレイヴハートの髪がくしゃくしゃになるまで撫でる。嬉しそうに目を細めながらブレイヴハートはされるがままになっていた。
「はい。今日の鉛筆サイコロが冴えてました!」
龍星の手が止まる。確かによく見てみると、ブレイヴハートが持っている小テストは全てが選択問題だった。龍星の手が止まり、ブレイヴハートはきょとんとした表情を浮かべて龍星を見る。
「そ、そっか。でもイヴ。次からは鉛筆サイコロを使わないでも満点取れるようにしような……」
はい! と元気よく答えるブレイヴハート。引き攣った笑みを浮かべながら龍星は再びブレイヴハートを撫で始める
「……あ、マスター。そろそろ飛ばないとまずいかも」
「あ、本当だ」
気付けば、地表がかなり近くまで迫っていた。後、十秒もしない内に二人は高層ビルにぶつかるだろう。しかし、二人に慌てる様子は無かった。
「イヴ」
「はい、マスター」
ブレイヴハートの体から蒼いオーラのようなものが溢れ、瞬く間にブレイヴハートの全身を包む。次の瞬間、ブレイヴハートの体は人間からドラゴンへと変化していた。ブレイヴハートは背中に龍星が乗っているのを確認し、両翼を大きく上下させ、空に向かって上昇していった。
「それじゃ、少しここら辺を飛んでから寮に帰るか」
龍星の申し出にブレイヴハートは嬉しそうに頷く。二人は完全に日が暮れるまで飛び続けていた。
『ドラグティス』。初めて人類とドラゴンが共同して創り上げた産物。人類とドラゴンの絆の象徴であり、太平洋上空に存在する空中都市。宙に浮かぶムー大陸とすら言われていて、その姿は都市というよりも大陸と呼んだ方が表現的にはしっくりくるだろう。
西暦から共生歴へと移った際に人類とドラゴンが設立した世界組織『人龍連合』に直轄統治された、どの国にも属さない治外法権地帯。様々な人種の人間、及びドラゴン。新たに生まれた人間とドラゴンのハーフ、ヒューラゴンが生活しており、世界の中心と化していた。
人口は二十億を超える。その内の数パーセントの者達はこう呼ばれていた。ドラゴンと絆を結んだ者“繋ぐ者”と。
とりあえず、軽い設定みたいな。
設定
・舞台
西暦二千十二年、異星から渡ってきたドラゴンが地球に襲来、地球を巡って人類と争う。百年続いた戦争の後、両者は和平を結んで共存の道を歩むようになる。それから千数百年後の世界。現在は「共生暦」というのが世界共通の暦となっている。
・人類
ドラゴン襲来以降、文字通り総力を挙げて徹底抗戦。百年の戦争の間に六割近くが死亡。後にドラゴンからの和平を受け入れ、共存の道を歩むことに。戦争で文明はほとんど崩壊しかけていたが、ドラゴンと一緒に新しい歴史を構築していった。時を経て、西暦二千十二年時よりも高度な文明社会を築く。また、ドラゴンが人型になれるようになってからはドラゴンと結婚する者も出てきて、ドラゴンと人間のハーフという種も誕生した。
・ドラゴン
異星から数千年の時をかけて地球へとやってきたエイリアン。基本的にレッド、ブルー、イエロー、グリーン、ブラック、ホワイトの六種が存在する。知力、身体能力全てにおいて人類を遙かに凌駕する。地球を自分たちの星にするために人類を殲滅しようとする。しかし、宇宙を渡る旅で疲弊しきっていたのと、人類の徹底抗戦もあって戦況は泥沼化してしまい、元々数百頭にまで減っていたのが百頭近くになってしまう。いくら疲れ切っていたとはいえ、百年もの間、自分たちと戦い抜いた人類に共存の可能性を見出し、和平を申し込む。現在は人類と共存の道を歩んでいる。人類と共に生きていく内に人の姿へと変ずれるようになる。凄まじい成長スピードを持ち、現在は順調に数を増やしている。人類と共に生きていく内に政治にも介入するようになり、それに危機感を覚える人間もいる。
・『繋ぐ者』
ドラゴンと特別な絆を結んだ人物の呼称。人類とドラゴンが共存していく内に最初の『繋ぐ者』が誕生し、徐々に数を増やしていった。『繋ぐ者』になった人間は常識を逸した能力を得て、寿命もドラゴン同様長命となる。また、ドラゴンも特別な力を得る。現在ではかなりの数のネクサスがいる。全ての人類は一定の年齢に達すると『ドラグティス』へと連れて行かれ、同い年のドラゴンの赤子と対面し、ネクサスになれるかどうか、つまりドラゴンと絆を結べるかを確認される。ネクサスと絆を結んだドラゴンは『ラディ』と呼ばれる。
・『龍力気』
ドラゴンやネクサス、ヒューラゴンが宿す特殊なオーラ。ドラゴンの力の源でもある。ネクサスが既存の人類を凌駕する寿命や身体能力を得るのも、絆を結んだラディから与えられる龍力気のため。ドラゴンのブレスの元であり、龍装もこの龍力気で形成されている。
・『ヒューラゴン』
ドラゴンと人間の間に生まれた新しい種。ドラゴンほどで無いにしろかなりの長命で、人間の十倍以上の寿命を持っている。現在は当たり前に世界に浸透しているが、生まれたばかりの時は酷い差別を人間やドラゴンから受けていた。そのため、現代でも彼らに対して恨みを持っているヒューラゴンもいる。彼らが『繋ぐ者』になる場合もある。
・『龍装』
ネクサスとラディの間に生まれる特殊な武装。これが生まれることでネクサスは『ドラゴン・ライド』の出場権を得る。多少の個人差はあるがほとんどのネクサスは十代後半くらいで目覚める。ネクサスとラディの絆が深まるごとに進化していく。龍装を発動させるためには解号が必要であり、解号はネクサスでそれぞれ違う。
・『ドラグティス』
初めて人類とドラゴンが協力して創り上げた、宙に浮かぶ都市。とにかく巨大で、ムー大陸の再来とまで言われるほど。現在確認されているネクサスとそのラディは全てここに住んでいる。ネクサスやラディのための学校などもある。『ドラゴン・ライド』が行われるためのステージは数え切れないほどあり、もっとも大規模なものは中央にある。
・『ドラゴン・ライド』
ドラグティスに作られたステージの中で行われる、ネクサス同士の戦い。現代では最大の娯楽となっている。ドラグティスは勿論、地上にもテレビ放送されておりアマチュア、プロに分けられている。尚、プロになるとE~Sのランクに分けられる。
・『ドラゴンストーン』
小山ほどの大きさの宝石のような巨大な塊。ドラゴンの宝であり、莫大な龍力気を内包した秘宝。和平を結んだ際、友好の証として人間に送られた。人とドラゴンの絆の象徴、ドラグティスを浮かせる永久機関として稼動している。現在はドラグティスの最奥にあり、これが停止するとドラグティスは落下する。
キャラクター
・焔真龍星 男 十六 主人公 ネクサス
ドラゴンをこよなく愛する少年。少し長めの黒髪に蒼いメッシュが入っている。自分のラディであるイヴには惜しみない愛情を注いでいる。非常に快活、真っ直ぐな性格の持ち主で曲がったことを嫌う。努力家であり、毎日の鍛錬を怠っていないため運動能力は同年代の者達よりも頭一つ分抜けている。誰に対しても誠実に向き合うため、誰からも好かれる。反面、お節介な面もあり、それが原因でトラブルに巻き込まれる事がある。夢は『ドラゴン・ライド』のチャンピオンになること。何よりもイヴとの繋がりを大事にしている。
・ブレイヴハート 女 六 メインヒロイン 龍星のラディ
龍星のラディで愛称はイヴ。非常に珍しい蒼いレッドドラゴン。ラディになった頃から一身に龍星の愛情を受けていたため龍星のことが大好き。また龍星の真っ直ぐな性格にも影響され、純粋に育つ。本来の姿よりも人間の姿を好み、人間になっては四六時中龍星にくっついている。まだ人間への変身が上手く出来ないので、こめかみの辺りから短い角を生やしている。この角と角のように見えるポニーテールからついた渾名は『三本角』。人間の時は空のように蒼い髪と瞳を持った十代後半の美少女で、ドラゴンの時は強靱な翼と後ろ肢を持つ蒼いドラゴンになる。
『ブレイズソウル』
龍星とイヴの龍装。身の丈ほどもある片刃の大曲刀。鍔がリボルバーのような形状をしている。柄部分にバイクのブレーキに酷似したトリガー状の装置があり、それを引くとリボルバーから薬莢が飛び出して刀身に蒼い炎が生まれ、斬撃の威力を上げる。また、火の斬撃を飛ばす遠距離攻撃も可能。炎を爆発させてロケットのように飛ぶなど、汎用性が非常に高い。消費する薬莢が多いほど炎は大きくなり威力も上昇するが、同時に龍星を傷つけていく。
解号『我が勇壮なる心の御名において魂の焔を解放す』