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悪魔と娘と手向けと

作者: シズオ

童話『悪魔と娘と手向けと』


 昔々、あるところに真面目な王様が治める真面目な国がありました。

 その国一角には、不思議な森があり、そこは『悪魔の住む森』と言われていました。

 この森は不思議で、森の中に分け入ろうとも一時間としないうちに入ってきたところに出てきてしまうのです。また、森の木を幾ら切り倒そうと翌日にはすっかり同じ用に木が生えているのです。そのため、近くにある村々ではあそこは悪魔の住む森だと言われるようになりました。

 そんなある日、森に一番近い村にいる変わり者が毎日毎日森に入っていくようになりました。それを見た村人が、何故毎日森に行くのか問いました。変わり者は、悪魔に会いたいからと答えました。何故悪魔に会いたいのかと問うと、悪魔に聞きたいことがあるからと答えました。しかし、何が聞きたいのかの問いには、変わり者は悪魔に会えて質問に答えてもらったら教えるとのことでした。

 毎日、毎日、裕福な家だったこともあってか、変わり者は仕事もせず森に分け入っては出てくるということを繰り返しました。その森は本当に不思議で毎日、一日に何回入っても滅多に同じ景色に出会うことはありませんでした。変わり者が森に挑み始めてから十数年のときが流れたある日、森の中で見たことのない景色の場所に出ました。そこには、小さな池とほとりに一本の倒木がありました。そして、その倒木には何かが座っていました。その何かは、肌が青黒く、こめかみからは羊のような角が生え、真っ黒の羽と尻尾を生やしていました。これは、やっと会えたと変わり者が口を開けた時でした。


「何を聞きたい?」


 しわがれた、でもどこか若々しいような声が聞こえました。


「いつまでも来られても面倒だから、通したんだぞ。聞きたいことがないなら、出てってもらうが?」


 その何かは一切口を開いてはいませんでしたが、声は確実に何かから聞こえていました。変わり者は、やっと会えたのにまた森から出されてはたまらないと、色々と質問しだしました。それは、悪魔かどうかの確認から始まり、この森はなんなのか、いつからいるのか、悪魔に会ったことのある人間はいるのか、悪魔とはどんな存在なのかと溢れるように質問をしました。それに悪魔は一つ一つ答えていきます。


「俺は悪魔だ」


「この森は、俺が作った、俺の城だ。面倒だから誰も入ってこられないよう面会謝絶にしているけどな」


「いつからなんて面倒なんで忘れた。忘れるくらい昔からいる」


「俺以外の悪魔に会ったことがある奴がいるかなんて知らない。そんな面倒なことするか。少なくともお前は俺に会ったはじめての人間だ」


「説明が面倒だな。面倒だが、説明しないとお前は納得しないんだろうな。そして、無理矢理出しても、また挑み続けて森に歪みができるか」


「面倒だが説明してやる。悪魔ってのは生き物の”感情”を糧とする生き物のことだよ。例えば、それは憤怒だったり、哀愁だったり、はたまた怠惰であったりとするわけだ」


「悪魔は生き物だ。人間に比べれば格段に強度は高いが殺されれば死ぬ」


「違うのは、死んで終わりじゃない。死んだら世界のどっかで新しい悪魔が生まれる」


「新しい悪魔は死んだ悪魔と同じ感情を糧とする」


「悪魔は大抵、自分が糧としている感情に引っ張られる」


「俺がなんの悪魔かって?面倒なことを聞くなよ。ここまでで大体分かるだろう?俺は”怠惰”の悪魔だよ」


「存外、俺が怠惰の感情を食べてるから、ここの王様とか国民とか真面目なのかもな」


 最後にそう言って、悪魔は忽然と姿を消しました。変わり者が悪魔を探そうと一歩踏み出してみればそこは、森の外でした。変わり者は、村に帰り悪魔に聞いた話を村人に伝えました。それは変わり者の戯言と思われていましたが、娯楽の少ないこの国では面白い話としてあちこちで語られるようになりました。


 そして、いつの日かその話は王様の耳にも入りました。話を聞いた真面目な王様は激怒しました。悪魔のおかげで真面目な国であると、真面目な王であると言われてしまったのです。王様はすぐに、軍隊を編成して悪魔の討伐に向かわせました。しかし、いつまで経っても悪魔を討伐するどころか森のせいで見つけることすらできません。困ったのは、将軍です。王様からは矢のように悪魔はまだかと催促の手紙、一方で全く成果が上がらないため士気の下がる軍隊。全く成果の出ない日が続くなか、軍の中であるうわさが飛び交い始めました。


 近くの村に魔女がいる。

 魔女が手助けしているから悪魔が捕まらないんだ。


 将軍はその噂に飛びつきました。それが、嘘だろうと真だろうととりあえずのそれらしい成果が出せると。早速、森に一番近い村に魔女を差し出せとお触れが出されました。魔女を差し出さなければ村を焼くとお触れの最後には付け加えられていました。

 困ったのは、村人たちでした。噂はあくまで噂。魔女などいないからです。しかし、魔女を差し出さなければ村を焼かれてしまいます。そこで、村に住む身寄りのない痴呆の進んだ老女が魔女として差し出されることになりました。将軍は魔女発見の報を王様に通達しました。そして一週間後、王様も見ている前で老女は処刑されることとなりました。

 処刑の日時が張り出されると、悪魔の森に軍の目を盗んで入ろうとする娘がいました。娘はあの変り者と同じように、何度も何度も何度も、変り者とは違い休むことなく、森に挑み続けました。

 それが良かったのか、はたまた悪魔が望んだのか、たった数日で娘は悪魔に出会いました。


「また、人か。面倒だ」

 悪魔は開口一番そう言い、続けて問います。

「どうせ、老人を救えとでも言いに来たのだろう?」

 しかし、娘はかぶりを振って答えます。

「いいえ。わたしは変り者の話を聞いて疑問に思ったことがありました」

 そして、悪魔が何か言う前に続けます。

「そして、貴方に出会ったことで確信しました。貴方の間違いを正に来ました」

 悪魔は楽しそうに、面白そうに娘に続きを促します。

「貴方は“怠惰”の悪魔ではありません」

 悪魔はさらに楽しそうに、では何なのかと目で問い掛けます。しかし、娘は頭を左右に振り答えます。

「今は言えません」

 娘は悪魔を真っ直ぐに見つめ、続けます。

「三日後、私が呼んだら来て下さい。そしたら、貴方が何の悪魔なのか教えて差し上げます」

 言うだけ言って、娘はさっさと森を出ていってしまいました。



 娘と悪魔の会話が知られることもなく日にちが過ぎていきました。

 そして、王さまが到着して処刑が行われる事になりました。広場の中央へと目隠しと枷をされたおばあさんが連れていかれます。

 おばあさんの裁判が行われている時でした。裁判に乱入する人がいました。

 娘です。

 捕まえようと兵隊が集まってくるなか、娘が大声を上げます。


「その人は魔女ではありません!」


 王さまの顔には驚きが、将軍の顔には苦みが、村人は顔を俯けました。

 みんなの表情など気にすることなく、娘は大声で続けます。


「私が魔女です!」


 乱入で騒ついていた広場が、しんと静まり返りました。

 みんなの驚きが醒めるのを待つことなく、娘はさらに続けます。

「今から証明します!」


「来て下さい!!」


 誰とは言わず娘は呼び寄せました。


 その瞬間、広場の風が逆巻き土煙が舞い上がりました。

 舞い上がった埃が晴れると、娘の隣には悪魔が立っていました。変り者の言ったように悪魔にしか見えない姿でそこにいました。

「面倒な所に呼んでくれたな」

 怒ることすら面倒だとでも言いたげな表情で娘に言います。

 悪魔の言葉に微笑みだけ返して、再度声を張り上げます。

「さぁ、証明しました。どうしますか?」

 その言葉に、いち早く驚きから醒めた将軍が捕縛の命令を出します。悪魔を捕まえることが王さまからの命令なのだから当然です。

 まだ、驚きのなかにいるためか緩慢に包囲を狭める兵隊を見ながら娘は悪魔に向き直ります。

「さて、このままでは捕まってしまいますよ。貴方は大丈夫であっても、私は無事ではすまないでしょうね」

 その言葉に心底に嫌そうな顔をして悪魔は先を促します。

「貴方がなんの悪魔か知りたければ、私を助けて下さい」

 そう言って悪魔の首に腕を回しました。

 嫌そうな顔をしながらも、振りほどかない悪魔を見て、兵隊に将軍に王さまに声をかけます。

「こんな大軍にはかなわないので、私たちは今から逃げます!」

 現われたときと同じように風が舞い上げた埃が二人を隠して、晴れたときには二人の姿はありませんでした。


 それから二人をこの国で見たものはいませんでした。

 ただ、西で貧困にあえぐ村があれば助けに、東で泥沼の戦争を続ける国々があれば終わらせに、悪魔を従えた魔女が現われると噂がたつようになりました。


 そうやって、人のためだけを考えていた娘も病には勝てませんでした。娘の最期には悪魔が手向けに、一面に花を咲かせたそうです。



 悪魔が本当は何の悪魔なのかを教えて貰えたかはわかりません。


 童話風な作品にしたつもり。はい、つもりなんですが後半と前半で書き方が変わってしまった感があります。それもそのはず、前半書いてから後半書くまでに三ヶ月は全く触れてなかったんですから。

 反省してます。


 短篇でうpりましたが、この話を前提にした話を書いていくつもりです。

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