雨降る夜に……
少しコメディー混じりですが文学短編小説です。
お楽しみ下さい。
深夜0時、梅雨入りしたばかりなので外は雨。
にもかかわらず
カチャッ
「戸締まり良し、行くか」
俺、十々川桐は、傘を差して日課の散歩に行く。
大学に入学し、一人暮らしを始めてからは毎日散歩している。
「雨音を聞きながらってのも楽しいな……」
不規則なリズムに耳を傾けながら公園に入ると、
「………雨、やっと降ってくれた」
先客が居た。高校の制服を着て、ピンクの傘を差した女の子だ。
こんな時間に高校生が出歩くのは良くないと思ったので、
「こんな時間に何してるんだ? 早く家に帰りなさい」
良い子ぶって注意してみた。
だが返ってきた言葉は、
「私が見えるの?」
予想していたどれとも違った。彼女は更に続ける。
「へぇ、幽霊が見える人ってホントに居るんだ」
……幽霊?何を言ってるんだ、彼女は。
「心配してくれてありがとう。私は水谷優。幽霊だから大丈夫よ」
優は柔らかく微笑んでそう言った。
「もう時間だから行かなきゃ。じゃあ……」
優は手を振りながら、
「また、雨降る夜に会いましょう」
そう言って、虚空に消えていった。
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次の日、天気は晴れ。
いつもの散歩の時間、頭をよぎる彼女の、優の言葉。
『また、雨降る夜に会いましょう』
その日、公園に優の姿はなかった。
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天気は土砂降り。文句無しの雨。
少し急ぎ足で公園に向かう。
「あっ、来てくれたんだ」
一昨日と同じ場所に、優は立っていた。
「毎日歩いてるんだよ」
「そこは『会いに来たんだ』とか言ってくれると嬉しかったな」
「……会いに来たんだ」
「嬉しくも何ともない……」
他愛もない会話を交わし、今更ながら自己紹介する。
「俺は十々川桐、大学一年生。毎日この辺を散歩してる。優はなんでここに?」
「死んだ場所は遠いんだけど、暇だから漂ってきた!」
「……ツッコむべき?スルーすべき?」
「スルーでお願いします!」
「承りました。じゃあなんで幽霊に?」
「それは……」
そこまで言うと、ゆっくり天を仰ぎ、
「ゴメン、時間だ。続きはまた、雨降る夜に……」
そう言って、一昨日と同じように消えていった。
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二日連続で雨。
やはり公園には優が居た。
「ヤッホー、一日振り!」
「ヤッホー、一日と二分振り!」
「やけに正確だ!?」
嘘だけど……
「昨日の続き、聞いてもいいか?」
「どうしようかな〜♪」
「やっぱりいいや、それじゃ!」
渋っているので帰ろうとすると、
「わ〜、話す話す!話すから待って〜!」
予想通りの反応が返ってきた。
「じゃあなんで幽霊になったんだ?」
「傘を使うため」
「…………は?」
「この傘はね、私が死んだ日に母さんが買ってくれたの。母さんは私が小さい時に離婚して、物心ついてからは、その日初めて会ったんだ」
優は更に続ける。
「でも傘を買ってすぐ、私は交通事故で死んじゃった。でも……」
「でも?」
「傘はどうしても使いたかった。だから初七日の雨の日の夜、10分だけ現世に来れるの。神様の許可で」
神様ってホントに居るんだなぁ……
「もう10分過ぎてるぞ」
「あっヤバい。神様に怒られる!アイツ、怒ると怖いんだよね……」
「神様をアイツ呼ばわりか!?」
「ハハハッ、まぁね。じゃあまた、明日雨が降れば……」
手を振って消えていった。
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次の日、霧雨。
視界が霞み、景色がいつもと違って見える。
「ヤッホー、今日で七日目。お別れです!」
「あれ、五日目じゃないの?」
「死んだ日と次の日は晴れてたからね」
成る程……
「とゆうことで、ありがとね。少しでも話せてよかった!」
「あぁ、こちらこそ。楽しかったよ」
「昨日の門限破りのせいで、今日はこれで終わり。バイバイ!」
「じゃあな。神様によろしく」
「ハハハッ、任せといて!」
優の体が薄れていく。
「それじゃあまた……」
優のお馴染みのセリフに、今日は俺の声も被せる。
「「雨降る夜に……」」
楽しそうな笑い声を残して、優は消えていった。
優しく降り注ぐ、霧雨の中に……
いかがでしたか?
雨を見て思いついたので、すぐに書きました。
慣れないジャンルで、おかしな点が多々あると思いますので、指摘していただけると嬉しいです!
以上、カルタでした!