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消えた真相

作者: ありま氷炎
掲載日:2026/04/19


 気持ち悪い。 

 そう思って、由佐は部屋を出た。

 

 母親が失踪した。

 前後に男の影がチラついていて、事件ではなく、不倫の末の失踪を見られた。

 しかし、何件もそれが続き、男の影が類似していることから事件性が囁かれるようになった。

 警察は男を事情聴取したが、男と失踪した母親たちが一緒にいたことはわかったが、殺人などに繋がる証拠は何一つなかった。

 男曰く、数日一緒に過ごした後に、母親は忽然と消えるそうだ。

 男の部屋を調べたが、母親たちの持ち物は見つかっても、殺人や傷害に繋がることも何もなかった。

 彼を拘留して取り調べをしようとしたが、弁護士が現れ、彼は釈放となった。


 宮野由佐は警察官であり、この事件に関わっていた。

 ある日、休暇中に偶然友人を見つけ、声を掛けようとしたら、あの男が現れた。

 二人は腕を組み仲良さそうに歩いていく。


 事件のこともあり、由佐は二人の後を追う。

 ラブホテルに入った二人を追って、中に入る。

 非番でも持ち歩いている警察手帳をフロントに見せて、彼女は二人のいる部屋に飛び込んだ。

 二人はベッドの上で重なり合っていた。


 友人は小中学の子どもがいる母親であり、この関係はどう見ても不倫だ。

 警察としてはあるまじきことだが、不貞を働く二人に吐き気を催し部屋を出た。

 しかし、冷静になり、彼女は再び扉を開けた。


 そこにいたのは男だけだった。


「百合子はどうしたの?」

「あ?あんた、誰?っていうか、さっき覗いた人でしょ?」

「私は警察よ。覗いたのは悪かったわ。それは謝る。それよりも女性はどこにいったの?シャワー?」


 音はしないが、とりあえず聞いてみた。


「消えちゃった。気持ちよくてどこかに行ったのかな?」


 男は笑い、由佐は彼を殴りつけたくなった。


「ふざけないでよ!どこにいったの?」

「うーん。ここ?」


 男は今度は目を細め、誘うように由佐に笑いかけて、自分のお腹に触れる。


「へ。は」


 男は真っ赤な舌を出すと、ぺろりと唇を舐める。


「ふ、ふざけないで。あなたを捕まえるわ」

「いいよ。でもきっとあんたも罰せられるだろうね」

「そんなのいいわ!」


 由佐は本部に電話して、応援を呼んだ。

 彼は一時拘留されたが、すぐに釈放される。

 証拠がないためだ。

 逆に由佐には謹慎処分が下り、三日ほど勤務停止になった。


 彼女の友人の百合子はやはり、あの後の消息が掴めていない。

 男の笑み、仕草を思い出し、由佐は寒気を覚える。

 人が人を食べる。

 ありえないことではない。

 けれども、丸のみしたように数分で血も何も残さず食べることは不可能だ。


 あの後、部屋も捜索したが百合子の脱ぎ捨てた服以外。何も見つからなかった。

 彼女の家族から由佐に連絡があったが、どれも酷い内容だった。

 彼女を責め立てる感じで、心配している様子はなかった。

 男が会った後に消えているのだ。

 しかもホテルで。残されているのは彼女の服と持ち物だけ。

 裸でどこかに消えた。

 オカシイ、と思うのが普通なのに、彼女の夫はふしだらな女などと酷い言葉で詰った。

 

 由佐は彼女の夫からの電話を静かに聞いていたが、ふつふつ怒りが込み上げてきた。

 彼女は会うたびに、元気がなかった。

 疲れていた感じだった。

 だから、男と会った時にとても幸せそうで、驚いた。


 謹慎が明けて、由佐は上層部から止められているのに、男に会いに行った。

 彼は彼女を見ると、笑顔で部屋に招きいれた。

 危険信号が頭の中で鳴り続けていたが、彼女は男の部屋に入る。


「真相を知りたいの。百合子はどこにいったの?」

「……話してもいいけど、条件がある」

「条件?何?」

「あんたを食べたい」

「た、食べる。やっぱり、あなたは」

「痛くないよ。全然、むしろ気持ちいいと思うけど。みんな喜んでくれた。だって、みんなすごく疲れていた。消えてしまいたいってみんな言うんだ」


 由佐はただ男の言葉を聞いていた。

 

「やっぱり辞める。なんかあんたはまだ生きたそうだし。そうだなあ。消えたくなったら、連絡してきて。そしたらわかるから」


 男は真相を話してくれず、由佐もそれ以上踏み込みたくなくて、男の部屋を出た。

 事件は迷宮入りになり、男もいつの間にか消えていた。


 数年後、由佐は同僚と結婚し、二人の子供に恵まれる。

 仕事が忙しいのに、家事と育児をこなすことは想像以上に辛かった。

 子どもたちが中学生、高校生になり、病気もしなくなり、休みを取ることは減った。

 しかし、反抗期の子どもたちは由佐を酷く詰り、彼女は完全に疲れてしまった。

 ふらふらと、電車に飛び込みそうになり、腕を引っ張られた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 振り向いた先にあの男がいた。


「消えたくなった?」


 由佐は静かに頷く。

 そうして男に連れられ、ホテルに入る。

 そこで彼女は百合子が消えたわけを知った。


 男は女性と交わることで、女性の精気を奪う。女性は行為の中、髪の毛一本まで精気にかわり、男に取り込まれた。

 だから何も残らないのだ。


 消えていく意識の中で、由佐は百合子を思い出し、自分の人生を振り返った。

 やはり痛みはないが消えていくことは悲しいし、子供たちにもすまないと思う。

 同時に解放された気持ちがあって、由佐は安らな気持ちで消えていった。




 



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