暮春の荒天
五月初めの汗ばむ程の好天に恵まれた連休。
浮かれた世間と同じ様に楽しむ筈だった俺はその最中に死んだ。
意識が朦朧とする。
自分が裸で椅子に拘束されている事すら、どうでもいい程に世界が歪む。
「やめろ・・・」
と、俺は言ったつもりだった。
「ぎゃはは、何言ってっかわかんねぇ。飲み足んねぇんじゃね?」
視界も朧な所為か、俺の前に立って嗤う原、芳野、谷口の顔が醜悪に見える。
口の端が吊り上がり、愉悦を含んだ眼が俺を見下ろしていた。
「仕方ねぇ、雨宮の頼みじゃ断れねぇもんな。」
芳野が一升瓶を掲げると、原と谷口が俺を押え顔を上に向ける。
谷口が額に手を当て鼻を摘まみ、もう片方の手で顎を下に下げ口を開ける。
原は動かない様に頭を固定した。
「雨宮がこんなに好きだとは思わなかったぜ。」
芳野はそう言うと、無理矢理開けられた俺の口に向かって一升瓶を傾けた。
「・・・ごぼ・・・ごはっ・・・」
喉に直接注がれる酒を吐き出す事も出来ず、咽かえる俺の中に日本酒が流し込まれた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
気持ち悪ぃ。
酒を飲むとこんなにも気持ち悪くなるなんて知らなかった。
飲みたい気持ちはあった。
だが、二十歳になるまでは駄目だと親父にきつく言われていた。
そんな親父は毎日飲んでいたが、適量という言葉を知っていたからなのだろう。
こんな状態になっているようには見えなかったから。
飲みたいなら、二十歳になってから付き合ってやる。
親父が言ったその言葉は、俺が二十歳を迎える楽しみの一つにもなった。
「おいおい、目が据わってんじゃねぇか、もっと楽しくなろうよ雨宮ちゃん。」
グラスを片手に飲みながら、谷口が俺の肩を叩く。
それは視界に薄っすらと入ったから認識できたが、実際は肩に感触は無かった。
だが、酷い状態なのは俺だけじゃない。
むしろ、酒を無理矢理飲まされている俺の方がましかもしれない。
虚ろな目で鼻や口から体液を流し、まったく動かない女子二人に比べれば。
大学に入った俺は登山サークルに入った。
もともと山登りは好きだった。
まぁ、親父が好きで着いて行ってたうちに、俺も好きになったんだが。
サークルの存在に気付いたのは大学に入ってからだ。
別に大学で何かしたいわけじゃなく、とりあえず大卒で就職できればいい。
その程度の考えでしかなかった。
だから、バイトでもしながら過ごそうと思っていたのだが、偶然目に入った登山サークルに興味を持ったのが始まりだ。
四年の芳野、三年の原と谷口は俺と、同じくサークルに入った女子二人に分け隔てなく親切だった。
登山のルールや、準備する物、心構え等活動時には丁寧に教えてくれた。
雰囲気の良いサークルだと思わされた。
もちろん、それは俺だけじゃなく女子二人も言っていたのでそうなのだろう。
入ってすぐ、ゴールデンウイークには簡単な山に登る計画を立てた。
それに向け、先輩三人に教えられながら準備をした。
「順調な滑り出しで良かったな、気を付けて登ってこい。」
当日、出かける前に親父にそんな事を言われた。
俺もそう思っていたよ。
山から下りた時までは。
「どうだった?」
「楽しかったです。」
「みんなで登るの楽しいですね、比較的登りやすかったですし。」
「まぁ、初心者向けだからな。大学から近いってのも良いんだよ。」
夕方前に下山した俺たちは、先輩が入っている寮の会議室に集まった。
帰省のため利用者はほとんどいないし、管理人も呼び出さない限り不在。
だから、多少騒いでも問題無いからと。
俺は寮生活じゃないが、無人の管理室を少し気まずい思いをしながら横切って入る。
芳野の計らいで鍵付きの部屋が用意され、男子と女子それぞれ登山服から普段着に着替える事も出来た。
「というわけで、新入生を迎えて初の登山の打ち上げだ。」
と言って、芳野が部屋から段ボールに入れて持ってきたいろんな酒を置く。
その後に肩から下げていた小さめのクーラーボックスも置く。
準備が良いとはこの事だろう。
このために、用意してくれていたのだと思わされた。
「あの、私たちまだ二十歳前なんですけど。」
「大丈夫だって。みんなやってるからさ。」
「それに、登山後は格別だぜ、それも味わって欲しいからさ。」
「じゃぁ、ちょっとだけ。」
と言って、女子二人が顔を見合わせ、お互いで確認する様に頷いた。
「なんで水持ってんだよ!」
俺だけ水のペットボトルを持っていた事に、芳野がつまらない事をするなと言わんばかりに睨んで奪い取った。
「いや、親父に怒られるんで。」
親父との約束を反故にはできない。
中学の時、反抗期で多大な迷惑を掛けた。
それでも、大学まで行かせてくれた親父に今は感謝しているから。
「先輩の提案を断れず泊まったって、明日帰えりゃわかんねぇだろ。そうしろよ。」
「なんなら今から電話でもしろ。」
飲む飲まないはさておき、一度家に連絡はしておいた方がいいだろう。
そう思った俺は親父に電話をする事にした。
「それじゃ、ちょっと連絡入れます。」
「おう。」
「君たちはいいの?」
「いえ、私たちは夜には帰るので。」
「おっけーおっけー。じゃ、それまでは楽しもう。」
何故女子は良くて、俺は泊まる事を前提にされているのか。
腑に落ちない気持ちはありつつも、親父に連絡する。
「わかった。ほどほどにな。」
親父は最後にそう言うと通話を切った。
多分、わかっていたんだと思う。
その言葉が、切った後にだんだんと重く圧し掛かってくる気がした。
それでも、このサークルで今後も楽しめたらと思うと、付き合った方が良いのだろうと思い、後ろめたさはありつつも親父との約束を破る事にした。
最初はみんなビールだった。
苦い。
それが初めて飲んだビールの感想だ。
ただ、食べ物があれば飲めない事は無い。
親父はどんな味を感じて毎晩飲んでいるんだろうか。
「登山後に飲みたくなる気持ち、ちょっとわかる。」
「うんうん。」
「でもビールはちょっと苦手かも。」
「私も。」
女子二人には合わないようだった。
「よし、じゃぁ俺が特製カクテルを作ってやるよ。」
と言って、芳野がシェイカーを持って見せる。
「え、作れるんですか!?」
「あぁ。任せておけ。」
芳野は親指を立てると、シェイカーの中にクーラーボックスから氷を入れ、幾つかの液体を注ぐと振り始める。
そのほとんどはジュースに見えるが。
「はい、シンデレラ。」
「シンデレラ?」
「本来はノンアルなんだけど、ウォッカを少し混ぜた俺のオリジナル。」
「それって、強いお酒じゃないですか?」
「ほとんどがフルーツジュースだから、ビールより軽いよ。飲んでみりゃわかる。ダメだったらまた別のを考えるよ。」
言われた女子は、恐る恐る口を付ける。
が、直ぐに驚きの表情になった。
「美味しい!お酒っぽさも感じない!」
「ほんとだ。」
「お前にはこれな。」
と言って、谷口が俺の前に日本酒の一升瓶を置いた。
差が激しく無いか?
とは言え、俺もあのカクテルを飲みたいとは恥ずかしいので言えないが。
「初めてなのに、きつくないですか?」
「まぁ、そうだよな。そう思ってこれ。」
と言って、原が氷の入ったグラスを持ってくる。
そこに谷口が日本酒を注ぎ、原がグラスを回転させかきまぜた。
「飲んでみ。」
俺は差し出されたグラスを受け取ると、一口含む。
家で親父が飲んでいた熱燗と違い、つんとした香りもせず冷たくて飲みやすい。
「これは・・・」
「飲みやすいだろ。」
「はい。」
「酒ってのは無理に飲むもんじゃねぇ、美味しく楽しくが基本だ。」
芳野は言って笑顔を向けて来た。
登山だけじゃなく、酒の飲み方も教わった気がした。
本来、それは親父に教わるものと思っていたが、登山にしろ打ち上げにしろ良い先輩だと思えた。
だがそう思ったのも、ものの三十分だった。
三人の先輩の笑顔は別物に変わっていた。
気付けば、女子二人が眠そうに身体を揺らしているのが目に入る。
「大丈夫か?」
「すいません、少し眠くて・・・」
「横になってていいぞ。帰る頃には起こすから。」
「ありがとう、ございます。」
と言って、二人は横になって直ぐに眠ったようだった。
「まぁ、暫くは起きねぇと思うがな。」
と言って、芳野は一人の頬を平手で軽く叩くと、両手で太腿を掴んで広げた。
最初からそのつもりだったんだろう。
スカートが捲れ下着が露わになった姿を見て、俺は初めてこいつらの目的が最初からここだったんだと気付かされた。
「去年は一人だったから待たされたが、今年はそれなりに楽しめそうだ。」
「お前らはじゃんけんな。」
芳野が原と谷口に言うと、直ぐに二人はじゃんけんをやって谷口が勝つ。
「くそ!」
悔しがる原の横で、芳野は既に下半身を曝け出していた。
「新入生の雨宮ちゃんは俺らが楽しんだ後な。我慢出来ないならオナっててもいいけどよ。」
谷口がズボンを脱ぎながら言うと、三人がゲラゲラと笑った。
こいつら・・・
「やめろ!!普通に犯罪じゃないか!!っ・・・」
俺は思わず立ち上がって叫んでいた。
だが、直後に側頭部への激痛と共に視界が歪む。
一瞬だった。
原が俺を瓶で殴ったのは。
躊躇も何も無かった。
それが当たり前の様に。
そうか、此処では、こいつらがルールなんだ。
「飲め。」
ふらつく俺は押し倒され、女子が飲んでいたカクテルを無理矢理口の中に流され押さえられる。
そうか、この飲み物に・・・
殴られた激痛で抵抗の意志は無くなった。
正義感で向かったところで、またこの痛みを受けるのかと思うと起き上がれなかった。
監視するように瓶を持った原が俺を見下ろしている。
その向こうでは、既に芳野と谷口が女子二人を犯していた。
その光景を見ながら、俺の意識はだんだん薄れ、やがて無くなった。
どれくらい意識が無かったのかわからない。
気持ち悪さでまた起きる。
何度目だろうか、こいつらが行為に及んでいるのが。
「さて、と。雨宮ちゃんちょっとこれ握ってね。」
と、俺は何かを握らされる。
朦朧とする意識の中、右手に目を向けた。
ナイフ?
これ、登山ナイフか。
谷口が刃先を布で包んで持っていた。
何がしたいんだ。
「はい、次これね。」
と言ってスマホの画面に親指を押し付けられる。
「いつも指紋で開いてるのはわかってるからな。」
「な、にを・・・」
かろうじて絞り出せた声で疑問を吐き出す。
「鈍いねぇ、飲みが足りないようだ。」
と言って、行為を終えた芳野がまたも一升瓶を手にする。
「俺ら雨宮ちゃんにナイフで脅迫されてしかたなく、ってな。」
谷口が俺のスマホで女子の写真を撮る。
やめろ!!
と、言いたかったがろくに声も出ない。
「よし原、行け。」
「脅されたんじゃ、仕方ねぇもんなぁ。」
と言って、俺のスマホで動画を撮影し出した谷口の向こうで、原が女子の足を開くと精液塗れの場所にまた肉棒を突っ込んだ。
「お前は飲み足りないようなんでな、俺が付き合ってやるよ。」
俺は芳野に顔を掴まれると、一升瓶を口の中に突っ込まれた。
直後、込み上げる逆流に逆らえず嘔吐する。
「きっったね、ふざけんなボケ!」
と言って椅子ごと蹴り倒された。
視界が歪む。
痛みは感じなかった。
気持ち悪ぃ。
まともに思考が出来ない。
天井がぐるぐる回っている様だ。
「汚ぇ口を漱いでやるよ。」
芳野はまたも、俺の口に何かを突っ込んだ。
口の中に入ってくる液体に咽込む。
それでも容赦なく、それは続けられた。
俺の意識が無くなるまで。
「おい、息してねぇぞ・・・」
「嘘だろ。」
「起きろ!」
芳野が俺の頬に何度も平手を打ち付ける。
「これ、垂れ流しってやつじゃね。」
谷口が俺の下半身の方を指差す。
「マジかよ・・・」
「流石に殺しはやべぇって。」
「飲んで死ぬなんて思ってねぇわ。」
「どうする?」
慌てるかと思いきや、三人は冷静に俺を見下ろしていた。
その光景を傍から見ている自分にも驚きだったが。
つまり、俺は死んだって事か?
「谷口、車持ってるよな。」
「あぁ・・・まさか。」
「埋めに行くぞ。」
芳野の言葉に二人が頷く。
俺の疑問を他所に、三人は構わず進めていた。
俺が此処に立っている事に気付かないという事は、死は間違いないのだろう。
「女はどうする?」
「雨宮のスマホから画像送って脅しとけ。」
「なる。そうだよな、俺ら雨宮に脅されたんだもんな。」
と言ってまた三人は笑った。
強姦に殺人、目の前で起こした事にすら笑うなんて、こいつらに罪の意識なんてものは無いんだ。
死人に口なし。
そういう事なのだろう。
俺が証明できない以上、こいつらは被害者面をするんだ。
くそっ!!!!!!
どれくらい時間が経っただろうか。
俺の身体は既にブルーシートにくるまれて、床の掃除も終わっていた。
自分たちで起こした事なのに、文句を言いながら俺の身体に蹴りを入れながら掃除してた光景に、殺してやりたい気分だったが何も出来ない。
見ているだけで、動く事は出来ない。
女子二人は着衣だけ適当に直し、部屋の隅へ移動させ横たわらせた。
「この後どうする?」
「原はここに残れ。あいつらの動向を気にしとけ。」
芳野が女子二人を親指で示す。
「えぇ・・・」
「谷口と俺は雨宮を埋めて来る。そっちが良いなら代わるが?」
「いや、ここでいい。」
原が頷くのを確認すると、芳野は布で落ちていた登山ナイフを掴んで自分の腕を斬りつけた。
「気でも狂ったか?」
「信憑性が増すだろ?お前もやっとよ。」
「そうだな。ついでに殴ってくれよ。それであいつらが目を覚ますまでやられた振りをしとくわ。」
「名案だな。」
こいつら本当にクズだな。
「雨宮を埋めて、あいつら帰えしたら飯でも食いに行くか。」
「あぁ。明日飲み直そうぜ、雨宮の所為でシラケちまったしよ。」
「だな。」
殺したんだろ。
他人の人生はそこまでどうでもいいのか!?
こいつらにとって、俺の命は本当に些事でしかないと!?
こんなんじゃ、親父と母さんに申しわけなさすぎる。
反抗期で迷惑をかけ、大学に行かせてもらい、入った途端死ぬなんて親不孝にも程があるだろう・・・
「車持ってきたぜ。」
「よし、行くか。原、雨宮の荷物を入れた袋を頼む。」
「おっけー。」
谷口と芳野が俺を運び、それに続いて俺の衣類や所持品が入ったビニール袋を原が運ぶ。
俺の意識は身体に引きずられるようにその後を追った。
それは、走る車でもそうだった。
一定距離を保ったまま俺の意識が移動する。
やがて谷口の車は、登ったあの山へと入る。
車道から舗装されていない道に入り、悪路を進んで更に、道かどうかもわからないような場所を草を踏みつけながら走った。
「ここならまず見つからないだろう。」
「だな。この山は大体知ってるから、人の寄らない場所も知ってるしな。」
「あぁ。」
木々が立ち並ぶ中、スコップを手にした芳野と谷口が穴を掘る。
何故、そんな場所まで把握しているのか。
こいつらの行動を見た後だと、その理由は想像に難くない。
「スマホはどうするよ?」
「画像と動画だけ共有して埋めちまえ。俺らが持っている方が怪しいだろ。」
「え、死体の指紋を使うのか?」
芳野の言葉に、谷口は明らかに嫌そうな顔をした。
死体にしたのはお前らだろうが。
「嫌だな。埋めるだけにしとくか。」
「あぁ。」
「電源は切っとけよ、GPSが有効になっていると面倒だ。」
「わかった。」
これで俺も終わりか。
なんとか、この場所だけでも家族に伝えたい。
そんな事を考えながら、自分が埋められていく状況を見るだけしか出来なかった。
ぼうっと見ていると、いつの間にか隣に少年が並んでいた。
いつ、現れたのかわからない。
水先案内人とかいうやつだろうか?
そんな疑問を持った時、少年は俺に顔を近付け耳元で囁いた。
俺は二人が去った後、自分が埋まっている場所を掘り返して荷物を回収した。
衣類は袋に入れられていたから、ほとんど土で汚れていない。
スマホも起動する。
帰り道も、谷口の車の轍があるから車道までは出られる。
家に帰り着いたのは日が暮れてからだった。
現金は抜かれていたが、カードはそのままだったのでコンビニで金をおろす。
おそらくカードは足がつくから盗らなかったのだろう。
後は大学までの定期も残っていたのでそれほど費用は嵩張らなかった。
「ずいぶん遅かったな。」
家に帰ってリビングに入ると、親父が声を掛けてくる。
「あぁ。先輩や同級の女子と話しが盛り上がってね。」
と笑顔で応えておく。
「そうか。幸先が良いのは嬉しい事だが、あまり本分から外れるなよ。」
と言って、既に飲んでいたビールを口に運んだ。
「わかってるって。」
「宏くんご飯は?」
「風呂に入ってから食べる。」
「じゃ、準備しておくね。」
母さんに笑顔で返事をすると、部屋に荷物を置いて風呂に入った。
既に夕食が並んだテーブルに座ると、親父が立ち上がって台所からグラスを持ってきて俺の前に置く。
疑問を浮かべて親父を見ると、ビールを差し出して来た。
「ちょっとお父さん!」
「二十歳まで駄目なんだろ。」
「今日だけだ。付き合え。」
「今日だけでも駄目です。」
母さんはそう言うが、俺はグラスを持ち上げて、親父が注ぐに任せた。
「宏くん!」
「ごめん母さん、今日だけでいいんだ。頼むよ。」
と言った俺の顔をみた母さんは、一瞬戸惑いを見せたあと仕方がないとばかりに頷いた。
今日、だけなんだ。
今日、しかないんだ。
親父の気が向いた、今だけしか。
二十歳になって、親父とは飲んでやる事が出来ないから。
心の中で思っていた事が、顔に出ていたのかもしれない。
グラスを打ち鳴らすと、俺は一口含んだ。
付き合ってやる事しかできない。
もう、味を感じないから。
もう俺が、二人にしてやれる事は少ない。
ゴールデンウイーク明け、俺は何食わぬ顔で大学に来た。
誰も俺が死んでいるなんて知らないだろうから、むしろ来ない方が不自然だからな。
授業を上の空で聞いたあと、サークルの部屋に向かう。
確か今日は活動日だから居るだろう、そう思って。
案の定、部屋にはクズ三人が揃っていた。
「あ、まみや・・・」
部屋に入った俺に三人が驚く。
まぁ、無理もない。
殺した筈の人間が目の前に現れたんだから。
「どうしました先輩?サークルメンバーが普通に来ただけなのに。」
「い、いや・・・そう、だよな。」
(埋めたんじゃねぇのかよ。)
(間違いなく埋めたって。)
(それに死んでる事も確認しただろうが。)
小声で話しているが丸聞こえだ。
「ところで芳野先輩。」
「な、なんだよ?」
笑顔で話しかけると、胡散臭そうに睨んでくる。
きっと現実を理解出来ないのだろう。
俺自身、理解していないが。
「もう一度、あの山に登りましょうか?」
「は?暫く行きたくねぇな。」
そうか。
俺はスマホを取り出すと、悪いと思いながらも当時の画像を利用させてもらう。
もうなりふりなんて構う必要もない。
「拒否権、あると思ってんですか?」
「お前がやった事だろうが!?」
「そういう事にする、そう言えばそんな話しをしてましたね。」
「・・・」
そう言うと、芳野は黙ってきつく睨んできた。
「俺が登山ナイフで脅し、彼女らを脅迫した。死人に口無しなら可能かも知れませんが俺が証言したらどうします?」
「本当に脅す気か?」
何を甘い事を。
お前らのクズ行為に比べればはるかに健全だよ。
「このスマホ、指紋拭きとってませんよね。俺以外にも誰が操作出来たか。それに、動画に先輩たちの会話も入ってますけど。アホですか?」
「てめぇ!!」
掴みかかってきた谷口を避けると足を掛ける。
盛大に転んだ谷口に冷めた視線を向けた。
「今すぐに警察に行ってもいいんですよ。でも、世話になりたくないから俺を埋めたんですよね?」
「なんなんだ、お前は。」
「それを教えてやる必要はないんですが。」
「・・・」
「で、登りますよね?」
笑顔を向けて言ってみたが、三人とも無言で睨んできただけだった。
やはり、自分らが何をしたか自覚は無いんだな。
「拒否権は無ぇんだろ・・・」
睨んだまま芳野が苛立ちを隠しもせず、呟くように言った。
「いやぁ、良かった。」
「ふざけろ、何が目的だ。」
「山登りですよ、単に。」
目を細め無表情で芳野を見る。
「てめぇ一人で行けばいいだろうが。」
一瞬たじろいだものの、すぐに声を荒げる芳野。
一人じゃ意味がない。
「サークルでの初登山で、何故か死んだんですよねぇ。このままじゃ成仏出来ないなぁ。せめて最後くらい楽しい登山をしたいなぁ?」
目を見開いて芳野に顔を近付けて淡々と言ってやる。
すぐに顔を逸らされたが。
「成仏って、オカルトかよ。」
その言葉に、俺は芳野の肩をポンと叩く。
びくっと身体を跳ねさせ俺に恐る恐る目を向けた。
「オカルトだの幽霊だのは関係ないし、俺の存在が何かなんて言う必要も無い。お前らがする事はもう一度俺と山に登る事だ。」
「・・・」
「嫌なら警察に行って洗い浚い話すんだな。」
「・・・わかったよ。」
渋々芳野が頷くのと同時に、サークルの部屋の扉が開いた。
目を向けると、そこにはこのサークルメンバーの女子が二人立っていて、慌てて俺から顔を逸らした。
(何故未だいる?もう会う事も無いと思っていたのに。)
二人は俺を避けるように部屋の隅に移動した。
「どういう事だ?」
芳野を睨んで確認する。
「おま・・・雨宮さんが抜けない様に脅せって言ったんじゃないですか。」
そういう事か。
くだらない。
本人を目の間にして、まだそれを続けようというのか。
どこまでもクズだな。
「お前ら、もう一回登山だ、強制参加だからな!」
それまで芳野の隣で黙っていた原が、女子二人を指差して怒鳴った。
それならそれでいい。
制約があるのは残念だが、使える可能性はある。
俺は壁際で怯える女子二人に近付く。
壁を背にもう下がれないと思うと、恐怖の目を俺に向けた。
恐怖で目を見開き、若干呼吸が荒くなっている二人の背後の壁に手を付いて顔を近付ける。
「頼む、少し協力してくれ。」
俺が言うと、二人は硬直した。
何を言っているのかわからないのだろう。
思考が追い付かないのかも知れない。
「あいつらには二度と手は出させない。それまで、もう少し我慢してくれ。」
俺は死んでいてあいつらに報復したい、と言ったところで信じはしないだろう。
クズ三人には聞こえない様に小声で言うと、二人から離れる。
どう解釈されても困らない。
参加しなくても問題無い。
ただ、居るなら利用する、その程度だが。
「それじゃ次の日曜。前回と同じ時間、同じ場所でいいですね?」
再び芳野に向き直り、俺は日時を指定する。
「あ、あぁ。わかった。」
「集まりが悪いと、誰か一人でも欠けると、どうなるか理解してます?」
「わかってるよ!」
スマホを振って言う俺に、芳野は切れ気味に吐き捨てた。
「わかってるならいいです。風邪だろうが熱があろうが、這ってでも来てくださいね。」
「・・・」
笑顔で言ってやると、俺は扉を開けて女子二人に目を向ける。
「帰れ。」
言うと、二人は恐る恐る部屋から出ようとする。
「それと、当日まで二度と此処には来るな。単位が問題無いなら出来れば大学にも。」
二人は恐怖の中に、多少の疑問を抱いたような顔で走り去って行った。
俺も三人を一瞥して部屋を後にする。
登山当日、曇天の空の下全員が集まった。
「それじゃ、行きましょうか。」
「午後天気が荒れるって予報だったぞ、別の日にした方がいいだろ。」
芳野が空を見上げて言った。
生きているならそれでもいい。
だけど、俺の時間は限られている。
「今日じゃなければ意味が無い。」
言って俺は顎で示すと、五人は渋々登山道を歩き始める。
今日までの間、大学には普通に通った。
もう、二度と出来ない事だから。
親父が行かせてくれたから、最後まで身に刻もうと思って。
「そこ、左です。」
俺は後ろから先頭を歩く三人に声を掛ける。
三人とも林を見た後、俺に顔を向けた。
そう、道なんかない。
「頂上に行かねぇのかよ。」
「そこに用は無い。黙って着いてくればいい。」
言って俺は、草を踏み分けながら登山道から逸れた。
俺が埋められた場所は、車で行こうとするとかなりの回り道になる。
だけど、登山道からは歩いていける距離だと調べてわかった。
道は無いが、そんなところにこいつらが埋めるわけもなく。
何度も山に来ているこいつらも知らないのだろう。
悪態を付きながらも疑問を浮かべながら着いて来た。
「おい、雨が降って来たぞ。これ以上は危険だ。」
そんな事はわかっている。
親父にも昔から言われてきた事だし、お前らにも散々教えられたからな。
「問題無い、もう少しだから。」
「・・・」
そう言うと、無言で歩き続ける。
鬱蒼と茂った晩春の林の中は、天気も相まって薄暗い。
登山道からそれほど距離はないものの、この茂った環境が音を分散させてくれるだろう。
都合の良い事に雨も降って来た。
ある程度の音は、掻き消してくれるだろう。
「此処だ。」
俺は立ち止まると後ろを振り向く。
既に芳野と谷口は苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。
ちゃんと覚えてくれている様でなによりだよ。
「芳野先輩と谷口先輩はわかっているようですね、この場所は。」
「・・・」
黙秘ね。
まぁいい。
「登山道からも離れたし、草木も生い茂っている。都合の良い事に雨だ。此処で何かしても助けは来ないだろうなぁ。」
俺は言って女子二人を見る。
その言葉を聞いて、二人は一瞬で顔が恐怖に染まった。
別に脅したつもりじゃないんだが。
意地の悪い事だとは理解している。
二人がどんな思いで生きているのか、俺にはわからない。
それでも、俺も生きたかったよ・・・
俺は女子に近付くと顔を近付ける。
「おい雨宮、此処では止めろ!」
何を?
いいから黙ってろよ。
(言っただろ、少し協力して欲しいって。)
小声で言った内容に恐怖を浮かべていた二人が、多少怪訝な表情になる。
(可能なら、スマホで録音してくれないか、これからの会話を。出来るなら一回だけ口を開いて。)
頷いたりしたらあいつらに疑念を抱かれるかもしれない。
口を開くだけなら、何かを言おうとした、恐怖でうっかり開いた程度に見えるだろう。
場合によっては俺の陰で見えないかも知れないし。
(ありがとう、頼むよ。俺の背中に隠れて操作して。)
一人が小さく口を開いた事で、俺は言って両手を広げる。
「さて、お楽しみの時間だ。」
言って振り返る。
「此処で始めんのかよ。」
芳野が嫌そうな顔をして言う。
「雨宮ちゃん、変態かよ。」
続けて谷口。
馬鹿の口を今すぐ塞いでやりたい衝動に駆られるが、それは俺がする事じゃない。
「原先輩はこの場所知りませんよね?」
「あ、あぁ。するなら此処じゃなくてもいい。そう考えると、こんな林の中に何があるっていうんだ?」
へぇ。
少しは頭を使ってくれるんだ。
馬鹿谷口よりいくらかマシだな。
「それは芳野先輩と谷口先輩がよ~く知ってます。教えてくれますよね?」
「・・・」
笑顔で言う俺から、二人は顔を逸らして黙した。
言う気はないらしい。
「黙ってるなんて酷いですねぇ、仲良しこよしの原先輩が知りたがっているのに。三人でやった事なのに、仲間外れですか?」
「黙れ!」
芳野が怒鳴った。
原はなんとなく気付いた様で、俺と二人を交互に見る。
「もしかして、此処なのか?」
お、やっと気付いたか。
「・・・」
「雨宮を埋めた場所なのか?」
それでも無言の芳野に、原がやっと欲しい言葉を出してくれた。
「別に隠す事でも無いだろ。そうだよ、確かに雨宮は此処に埋めた筈なんだよ。だけどあれ、何なんだよ!?」
黙っていられなくなった谷口が声を大にして言った。
「谷口!!!」
怒鳴る芳野に谷口がびっくりして目を向ける。
芳野が顎で、女子二人を示す。
谷口は「あっ!」と口を開け、慌てて口に手を当てた。
典型過ぎて滑稽だ。
ここまで馬鹿だとは思わなかった。
「谷口先輩の言う事が本当か、答え合わせをしましょうか?」
俺は三人に近付き、地面に目を向ける。
そこだけ雑草が生えてなく、千切られたように土に混じっていた。
明らかに最近掘り起こしたであろう形跡が隠されもせず露わになっている。
「と、その前に。」
俺はスマホを取り出すと、指紋認証から暗証番号に切り替える。
そのスマホを女子二人の前に放った。
「暗証番号は今日の日付四桁にした。内容を消すも、警察に持っていくも君たちの好きにしたらいい。」
「ふざけんな!」
慌てて走り出した原に足を掛け転ばせると、殴りかかってきた芳野の顳を持っていた金槌で殴る。
悶絶して転がる芳野を横目に、原の横腹にも金槌を入れた。
「ぐっぅ!」
苦鳴を上げて原が脇腹を抑える。
谷口は金槌を持つ俺を見て、動くのを止めた。
「ちょうど、警察に行こうって話しをしていた、いいの?」
そうか、それは助かる。
「二人は被害者だ、当然だろう。」
「え?」
「信じる信じないは任せるけど、俺のスマホを利用して脅していたのはこいつらだ。その最中、俺はこいつらに殺されたんだよ。」
何を言っているんだ?
そうなるのはわかっていたが、それはどうでもいい。
「やめろ!ぐっ・・・」
原が起き上がって女子二人に向かおうとしたので、足に登山ナイフを突き立てた。
「まだ話しは終わってない。黙ってろ。」
原は足を押えながら凄い形相で俺を睨んで来た。
ナイフ自体の刃渡りは長くない、致命傷にはなってないだろう。
「ところで、何故このサークルに二年が居ないと思う?」
俺は女子二人に疑問を投げるが、反応は無い。
目の前で起こる事態に頭がついていってないのだろう。
別に反応は無くてもいい。
「芳野先輩。去年、新しく入った女子にも同じことをしましたよね?」
「何故雨宮がそれを知ってんだよ!」
「馬鹿谷口!!!」
俺の言った内容に谷口が反応した。
芳野は怒鳴るが、もう手遅れで無駄だ。
それに、あの日自分たちで去年は一人だったからと言っていた事すら覚えていないのだろう。
本当に馬鹿だ。
俺は、こんなどうしようもない奴らに殺されたのか。
そう思うと、悔しくてたまらない。
「で、一人だけだったんですか?サークルに入ったの。」
「男子も一人いた・・・」
もう隠しても無駄だと思ったのか、芳野は歯噛みする様に吐き出した。
「あいつは俺らと一緒に楽しんだくせに、逃げやがったよな。」
他人事なんでどうでもいいが。
「逃げた?」
「それを理由に金蔓にしたんだけどよ、大学辞めて引っ越しやがったんだ。」
谷口が隠しもせず話す事に、諦めたのか芳野は何も言わなかった。
「女子は?」
「さぁ。大学を直ぐに辞めたあと連絡も取れなくなったから知らね。」
やはり、他人事なんでどうでもいい。
しかし本当にこいつらはクズだな。
だが、もう少し。
「だけど、生きてはいる。何故、俺は殺したんだ。」
「・・・」
そこはわからないのか、谷口は考えるようにした後、苦虫を噛み潰した様な顔をしている芳野に目を向けた。
「加担すれば共犯としてどうとでも扱える。だが、お前の様に正義感ぶった奴は必ず俺らの邪魔になる。だから潰しておきたかった。ただ、殺そうとまでは思ってなかった。」
加減も知らないクズが、生きている人間をなんだと思ってんだ。
「で、死んだから自分らの身を守るために死体を埋めて無かった事にしようと?」
「そうだ!」
「俺に彼女たちにした暴行の罪をなすりつけて?」
「そうだよ!もうわかってんならいいだろ!」
逆切れの様に芳野は怒鳴った。
切れたいのは俺の方なんだけどな。
「何人もの人生を壊して、俺の人生を奪って、どうしてのうのうと生きてられるんだろうな?」
「がっ!・・・」
言って俺は谷口の頭を金槌で殴りつけた。
続けて起き上がっていた芳野の顎も殴りつける。
原は、足にナイフが刺さったままだからいいか。
「さて、聞きたい事は聞けたし、答え合わせといこうか。」
俺は言って、自分が埋まっている場所を指差す。
「掘れ。」
「・・・」
「俺の死体を掘り起こせと言っている。」
それでも三人は動かなかった。
俺は金槌を振り上げると、谷口が慌てて両手を出して振った。
「ま、まて、スコップが、無い・・・」
「だから?手なり手持ちの道具で掘れ。」
もう一度金槌を振り上げる。
「わかった、わかったから止めてくれ・・・」
谷口は慌てて俺の死体が埋まった場所に這って移動すると、両手を土に突っ込んだ。
それに芳野も続く。
「お前もだよ!」
言って、動かない原の腹に蹴りを入れる。
原は睨みながら足を引き摺って二人の場所まで移動した。
俺は女子二人の方を向くと、手を振って行けと合図する。
ゆっくりと数歩下がると、振り向いて一目散に走りだした。
「あ!待てコラ!!」
それに気付いた谷口が慌てて追おうとしたので、横から蹴りを入れる。
バランスを崩した谷口がよろめいて地面に倒れ込んだ。
「誰が掘るのを止めていいと言ったぁ!!」
「ぐがぁっ!」
足首に金槌を振り下ろすと、谷口はその足首を押さえて転げまわった。
骨折させるつもりで殴ったんだ、これで追おうとは思わないだろう。
「ほら、ブルーシートが出てくるまで休むなよ。」
金槌持って見張る俺を、たまに見ながら三人は堀り続けた。
女子二人が警察に行くなら、今の話しをしてくれる事を期待する。
そうじゃないと、俺がサークルで事件を起こしたとこいつらは言っていただろう。
そうなると、親父と母さんの余生がめちゃくちゃになりそうだ。
これは、死んだ俺が最期に出来ることだ。
親孝行なんてものじゃないがせめて、余生は平穏に生きて欲しい。
どれくらいの時間が経っただろうか。
雨は激しくなり、暗くなった森を落雷の閃光が照らす。
掘った穴に土が雨水で流れ込み、一向にブルーシートが出て来る気配は無いが、三人はそれでも手を動かしていた。
はは、ざまぁみろ・・・
「もう、許してくれ・・・」
手を止めた芳野が、顔も上げずに泣き声を出した。
それにつられて他の二人も動きが止まる。
「何故?」
俺がこいつらの懇願を聞き入れる必要がある。
「え・・・」
芳野が顔を上げたところで、金槌を振り上げる。
落雷の閃光が照らした芳野の顔は、弱弱しかった。
轟音が通り過ぎた後、俺はゆっくり口を開く。
「お前らは、止めたのか?」
その言葉に、唇を噛んだ芳野はまた泥の中に手を突っ込んだ。
雨が気温を下げ、体温を奪い、動きが緩慢になっても三人は無言で泥水を搔き続けた。
「黒い泡沫は弾けました。」
「まだ時間はあったんだろ?」
いつの間にか隣に居た少年に確認する。
「あくまで目安です。ただ、弾けなくても一カ月程度が限度ですから。」
そうか。
期間を待たずして終わったという事は、少しは俺の溜飲も下がったんだな。
上空から真っ黒な山を見下ろすと、遠くに赤い回転灯が幾つも見えた。
きっと、あの女子二人が警察に行って話したのだろう。
あいつらの事の顛末まで見届けたかったが、それは叶わないか。
出来れば、親父と母さんに火の粉が降らないところまで。
それも贅沢か。
本当は殺しても良かったんだが、それだと闇に葬られる事実があるかも知れない。
何より、親父の怒りの矛先を奪ってしまう事になる。
生きている人間は、生きている人間のために残した方が良いだろうという自分なりの結論だ。
ま、あいつらにやり返せただけでも、感謝しないとな。
そう思って少年を見ると、黙って温和な笑みを俺に向けていた。
「ありがとう。」
「はい。仕事ですがありがたく受け取っておきます。」
「あぁ。」
「では、参りましょう。」
俺は、差し出された少年の手を掴む。
そこへ、少年と同い年くらいの少女が現れた。
「■■■、多重発生、応援よろしく。」
「■■■■、せめて、見送ってからにしてください。後で向かいます。」
少年が言うと直ぐに少女の姿は消えた。
それより、なんだ?
名前か?
何を言っているか全然わからない。
それ以外の言葉はわかるのに。
「失礼しました。」
「いや。」
「では改めて、参りましょう。」
俺は頷くと、もう一度下に目を向ける。
遠目でわかり難いが、おそらくパトカーを降りた警官らしき集団が山を駆けていたように見えた。
これで、あいつらも終わりだろう。
そう思うと少年に視線を戻す。
願わくば、あいつらが罪を意識して謝る事を期待して。




