表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

第04話 チキン&ポーク

 ──連れ込み宿。

 それも、相場の数倍の金をブン取る買春用の。

 ガキを連れ込んでも、フロントは見て見ぬふり。

 絶対に利用したくねぇ、もっと言えばブッ壊してやりてぇ建てもんだが、いまはしけ込むほかない。

 まっとうな宿は、このオーガの子を見るなり、どこも門前払い……だ。


『オーガを泊めろだと!? 冗談じゃないっ、さっさと出てってくれ!』

『物置きでもいいだって? オーガなんてゴミ捨て場でもお断りさ!』

『風呂だけでもぉ? ふざけんなっ! うちの浴場をヌタ場にする気かっ!?』(※ヌタ場:動物の泥浴び場)


 ……人間と同じ見た目、言葉も通じる、なのに肌が赤くてツノがあるだけで、なんともひでぇ扱いだ。

 ただそれは、この世界特有の風潮ってわけでもないんだろうな。

 元の世界……日本でも大して変わりゃしないだろう。

 般若を彫ってる俺が、銭湯サウナお断りだったようにさ。

 ……にしても、女の子と風呂ってのは、なんとも落ちつかねぇ。

 こっちにその気なんて、微塵もなくてもよ──。


「……悪いな、ヒビキ。こんなオッサンと一緒だなんて。おまえの手足がまだ動かねぇから、我慢頼まぁ」


「ううん……ありがと……。人間のお風呂……初めて……入った。広くて……水もきれいで……うれしい」


 樽みてぇな狭い風呂桶に張られた、ぬるいお湯。

 あとは、エロいことするためのサイズな敷き板があるだけ。

 これでもこの子にとっちゃあ、豪華な造りなんだろうな。

 この子……ヒビキ。

 背骨と肩甲骨がくっきり浮かび上がってる、ガリガリの背中。

 軽く掴んだだけで折れそうな細い首と腕。

 夜盗の連中から、ろくに食事貰えなかったんだろう。

 ただ……暴力の痕はねぇ。

 ふくらはぎから太腿に掛けて引っ掻き傷があるが、これはダニかなんかの虫刺されを、自分の爪で擦った痕。

 喧嘩のプロの俺から見て、不穏な傷は見当たらない。

 垢さえ流し落とせば、ピカピカの女の子の肌。

 変態の客を取らされていたか、夜盗たちの間で百万遍……なんて心配はなさそうだ。(※百万遍:輪姦の類語)

 ま、門前払いされた宿屋の様子から見て、そっち方面の需要はヒビキにはなさそうだが……。

 しかしこの、瘦せ細った赤い体……。

 未熟児だった響をますます思い出させる──。


「ヒビキ、風呂上がったらメシ食うぞ」


「お風呂の前に、食べた……貰った。パン……」


「ありゃあ、おやつだ。いまのおまえは、もっともっとメシ食わなきゃならねぇ。今度は肉も焼いて、たっぷりソース掛けてパンに挟むぞ。ハンバーガーだ!」


「お肉……。鳥……? 豚……?」


「どっちもあるぞ。牛は予算的に無理だったがな、ははっ」


「お肉……。食べ……たい……」


 これまで淡々としていたヒビキの語りに、わずかに抑揚が交じった。

 手足の関節がまだほぐれていない体を、かたかたと揺らし始める。

 早く肉を食べたい──。

 保護してから初めて俺に見せた、ヒビキの自分の意思。

 そうだな、この子にいま一番必要なのは、心と体への栄養。


「よし、風呂は中断! なにはさておいても、メシだメシ!」


「うれしい……」


 ひとまずの仕上げに、ヒビキの頭からお湯をかけ、泡立ちの悪かった石鹸と浮いた垢を流す。

 それからバスタオルで体をくるみ、胸元に抱えて寝室へ。

 一晩寝れば関節の強張りも、それなりに抜けるだろう。

 今夜のメシまでは、俺が口まで運んでやるさ。

 ……ははっ。

 なんだかすごく楽しみだ。

 この世界へ来て、楽しいって思いをしたのは初めてな気がする。

 親ってぇやつの真似事を、ここに来てできるたぁ思わなかったな。

 ヒビキは本当の両親へ、無事に届けなきゃいけないが……。

 それまでは父親ごっこを楽しんでもいいよな、菜緒。

 そして親分オヤジ──。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ