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黄昏の再会 〜運命が交差する刻〜

運命は偶然なのか、それとも必然なのか——。


春の祭りの喧騒の中、アレクサンドルとエレオノーラは、導かれるように再び巡り合った。

花舞う広場、温かな灯火、祭りを彩る音楽——しかし、彼の胸に去来するのは喜びではなく、言い知れぬ疑念と希望の入り混じった感情だった。


——この少女は、本当に"彼"なのか?


懐かしさを覚える仕草、どこか遠い記憶を呼び起こす微笑み。

だが、確かめようとすればするほど、現実は霧のように手からこぼれ落ちていく。


夜空に響く鐘の音が、新たな歯車が動き出したことを告げる。

偶然の再会か、それとも運命の必然か。


春の訪れを祝う祭りが、王都の片隅で華やかに()り行われていた。


空には色とりどりの花びらが舞い、人々は華やかな衣装をまとい、踊り、歌い、笑い合っている。広場の中央には大きなかがり火が焚かれ、火の粉が夜空へと昇っていく。その様子は、まるで運命の炎が燃え上がる前触れのようにも見えた。


アレクサンドル・ヴァルディアは、王族の一員としてこの村を視察していた。


幼いながらも、王としての振る舞いを求められる。しかし、彼の心は別のところにあった。


彼は、人々の波の中に**"探している存在"**がいるのではないかと、ずっと目を凝らしていた。


いつものように、無能な王子を演じながら——



ふと、胸がざわついた。


何かが引っかかる。


視線の先、人混みの中に金色の髪を揺らし、微笑む少女がいた。


アレクサンドルの目が、彼女の存在を捉えた瞬間、胸の奥で何かが震えた。


(——直樹?)


一瞬、息が止まる。


彼は祭りの喧騒(けんそう)の中で、その名を口にしそうになった。しかし、その声は歓声と音楽にかき消される。


そして、少女は人混みに紛れ、消えていった。


「……っ!」


思わず足を踏み出そうとする。だが、その瞬間、彼の肩を王の側近が掴んだ。


「王子様、視察の続きを——」


「……分かってる。」


王族としての役目を果たすべきだ。


それは理解している。


だが、心のざわめきは消えなかった。


あれは、彼だったのか?


それとも、ただの幻想なのか——。



祭りも終わりに近づいていた。


朱に染まった空は、まるで燃え尽きる前の炎のように揺れている。


その時——


「王子様。」


ふと、背後から優しい声がした。


振り返ると、そこに彼女がいた。


金色の髪を持つ少女が、そっと小さな器を手にし、恥ずかしそうに差し出している。


「これ、ハーバルポリッジです。どうぞ。」


それは、春の祭りで振る舞われる、野菜とハーブをたっぷり使った粥だった。


アレクサンドルは器の中身を(のぞ)き込み、驚いた。


(……これは)


スプーンをすくい、一口食べる。


懐かしい味がした。


七草粥に似ている——。


記憶が蘇る。


日本で、美咲が語った「七草粥」の思い出。


(直樹なら……この味に気づくはずだ)


ふと、アレクサンドルは問いかけた。


「ねえ。君の名前を聞いてもいいかい?」


少女は頬を染めながら、恥ずかしそうに答えた。


「エレオノーラ・ヴァレンティーナと申します。」


その瞬間、胸の奥に淡い希望が広がる。



「七草のようで、好きだな。」


思わずつぶやく。


だが——


「……七草?」


少女はきょとんとした表情を浮かべた。


(——反応が、ない。)


彼女の中に、その記憶が存在しない。


もし本当に直樹なら、七草粥の話を覚えているはず。


「……そうか。」


アレクサンドルは微笑みながら器を少女に返した。


だが、その瞳の奥には、(わず)かに悲しみが滲んでいた。



王たちの視察も終わりに近づいていた。


従者がアレクサンドルに声をかける。


「王子様、王都に戻る支度を。」


アレクサンドルは静かにうなずく。


その時——


「王子様、またこの村には来られますか?」


エレオノーラが、期待を込めた眼差しで問いかけた。


アレクサンドルは、彼女の瞳をじっと見つめる。


(もし、本当に直樹ではなかったら——)


だが、それでも。


「もちろん。また春の訪れを一緒に祝おう。」


柔らかく微笑みながら、そう答えた。


それは、淡い希望を残したままの、(はかな)い約束だった。



夜空に星が瞬く頃、アレクサンドルは馬車の中で目を閉じた。


だが、心の中には未だ拭えぬ疑問が残っている。


(もし、彼女が本当に直樹ではなかったら?)


王子としての再会——。


それが、彼の運命をどう変えていくのか、まだ誰も知らない。


だが、確かなことが一つあった。


「——もう一度、確かめる。」


その決意を胸に、アレクサンドルは静かに目を開けた。



翌日、王族の視察は市場へと移された。


異国の品々が並び、商人たちの声が飛び交う中、一角に異様な空気を放つ場所があった。


奴隷市場。


初めて足を踏み入れたアレクサンドルは、その場の空気に飲まれそうになる。


視線の先に、鎖に繋がれた幼い少年がいた。


その瞳は、冷たく、それでいて燃えるような意志を秘めていた。


「……誰だ?」


その視線が、アレクサンドルをじっと見つめた瞬間、彼の胸に言い知れぬ感覚が走った。


まるで、(あらが)えない運命がそこに待ち受けていたかのように——。


これが、彼の"初めての友"となる存在との衝撃の出会いだった。


物語は、さらなる交錯へと向かっていく——。



春の祭りの黄昏の中、アレクサンドルとエレオノーラは運命に導かれるように巡り合った。

胸の奥で微かに響く懐かしさ。しかし、それが確信に変わることはなかった。


そして、運命はさらに試練を用意していた。


翌日の視察先——王都の市場。

活気あふれる商人たちの声、色とりどりの異国の品々が並ぶ中、彼が足を踏み入れたのは、決して目を逸らしてはならない場所だった。


奴隷市場。


そこで出会った少年は、誰よりも冷たい瞳を持ちながら、燃え盛るような意志を宿していた。

鎖につながれた少年とアレクサンドルの視線が交錯する瞬間、彼の胸に言葉にできない感覚が走る。


それは、抗えぬ運命か、あるいは未来を切り開く出会いか——。


王子としての人生を大きく変える、衝撃の出会いが始まる。

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