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第3話 露木楓華

廊下を歩く楓華の足取りは、シロのそれとは対照的に重かった。

シロはスキップでも踏むかのように楓華の数歩先を歩いていて、時折振り返っては楓華が付いてきていることを確認する。


「クラスの皆さんがお話してました。露木さまは本当にすごい魔女なのだと!」


そう言って、シロは楓華に羨望の眼差しを向けた。その瞳はあまりにも眩しく、今の楓華には直視することが出来ないほどだった。


「同じクラスで授業を受けられて、シロはとても光栄なのです。ちょっとずつでも魔法を覚えて、いつか皆さんに追いつくのがシロの夢なのです!」

「そっか……シロは偉いね」

「えへへ。毎日練習してると、昨日の自分より強くなってる気がして嬉しいのです」



シロは『落ちこぼれの出来損ない』だった。

まず、絶対的な魔力量が足りていない。これは本人の努力でどうにかなる問題ではなく、生まれ持った素養が全てだ。

それはシロ自身も理解している。理解した上で、それでも努力を重ね、日々の些細な向上も見逃さずに前進し続けている。


それに比べて、と楓華は自分自身に目を向ける。

この一ヶ月、自分は何か努力をしただろうか?

『エリート編入生』と持て囃され、自らの無能が露呈しないように逃げ続けている。

『落ちこぼれの出来損ない』は、シロではなくむしろ自分だった。



「……ホントに、シロはすごいよ」

「えっ? ……あ、またまたそんな! シロをおだてたって何も出ませんよ!? ちょっと嬉しいかもですけど……えへへ」

シロは照れ隠しに頭を掻く。冗談だと受け取られたらしい。


「お世辞じゃないよ。魔力だとかなんとか、そんなもので認められたって……」


私は何も出来ないのに。考えれば考えるほどに気持ちは暗く沈み、楓華の足は遂に止まった。

自分とシロの、埋められないこの距離が、そのまま両者の決定的な差だ────


だが、シロは事も無げに駆け寄って、楓華の手をしっかりと握った。



「えっと……露木、さま? あの、お節介かもですけど……何か悩みがあるなら、他人に頼ってみてはどうでしょうか」

「……どういうこと?」

「クラスの皆さんが言っていたのです。露木さまはすごい人だけど、近寄りがたいって……自主練の時間はいつも居なくなるし、誰にも話しかけようとしないって」



ああ、そうか。なんとなく気付いてたとはいえ、こうして改めて第三者から聞かされると、落胆もしたくなる。


法紅陵学園に編入を決めたのは、母の勧めだった。

高校に上がっても周囲に馴染めずにいる楓華を見かねて、環境を変えてみたらと提案された。

だが結局は、環境を変えても同じことだった。



「でも……! シロは、露木さまが優しい人だって知ってます! 露木さまだけは、シロのことを馬鹿にしたりせず、さっきも励ましの言葉を頂きました!」

「シロ……」

「皆にも露木さまの優しさを知ってほしいと、シロは思います。……露木さま、なんだか寂しそうに見えて、シロは心配なのです……」



まるで自分のことのように、シロは楓華のことを心配してくれていた。

それはとても温かくて、編入以来初めて、心からの優しさに触れた気がした。

シロになら。シロになら話しても良いと思えて、シロなら聞いてくれるとも思えて。



「……私ね。昔っからノロマだって、よく言われててさ」

「えっ?」シロは驚いたように顔を上げる。


「考えてから動くまで、感じてから顔に出るまで。人よりも時間かかるみたい。……それだけが理由じゃないんだろうけど、中学ではよく揶揄われてたんだ」

「露木さまが……ですか? それは、ちょっと想像できないのです……」

「高校上がって多少はマシになったんだけど、やっぱりうまく馴染めなくて。環境を変えてみたら、って母さんに勧められて、ここに入ったの」

「ほあぁ……そうだったんですね、お母さまの勧めで……」



感心したように、シロは何度も何度も頷きながら話を聞いている。

楓華の秘密を聞いたら、シロはどんな顔をするだろうか。魔法も使えない落ちこぼれに、シロは今まで通り接してくれるだろうか。


少し怖い。でもそれ以上に、「シロに聞いてほしい」。そう思った。



「……実はね。魔法とか魔女とか、よく分かんないまま編入しちゃったの」

「……えっ??」


シロの瞳が揺れ動いた気がして、楓華は思わず、目を伏せた。

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