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デジタルデトックス

作者: 雉白書屋

 どうも、こんにちは。ご存じのとおり、私です。いやあ、それにしてもパソコン、タブレット、スマートフォン、電子看板など、私たちの身の回りにあるデジタル製品を挙げたら、きりがありませんね。ははは、気づけば、腕時計まで喋る時代ですよ。AIが道案内をしてくれるのは便利ですが、あちらから話しかけられ、こちらから話しかけられ、今喋ったのは人間? それとも機械? なんて、やれやれ、服に着られるという言葉がありますが、今や私たちはスマートフォンに使われているような気がしてきますね。これは、いただけません。

 だから、このたび、私はデジタルデトックスを決行しました。

 スマートフォンをビニール袋に入れて土に埋めて、森の中を少し散歩することにしたのです。

 やってみてわかったのですが、いやあ、素晴らしいじゃないですか! 花や鳥、小川などを見かけるたびに写真に収めようと、始めはついついポケットに手を伸ばしてしまい、一人で照れ笑いしましたが、今この瞬間の光景を脳裏に焼き付けようと、だんだんと自分の五感が研ぎ澄まされていくんですよ。耳は自然の美しい音色を捉え、鼻は土や草木の中にある花の仄かな香りを逃さず、瞳は飛び立つ前の鳥を映しました。

 デジタルデトックス……最高。星五つです。

 しかし、考えてみれば、これが人間の本来の五感なのかもしれませんね。私たち現代人は、知らぬ間に毒に侵されていたというわけです。そう、デジタルという毒の沼にはまっていたんですよ。

 思い返してみれば、みんな下を向いて生きているじゃないですか。電車の中、カフェ、歩いているときもスマートフォンを見つめ、未来はこの手の中にあるって? いやいや、未来を見たいなら上を見ないと!

 美しいものを見たいとき、どうすればいいと思いますか? ネットで検索する? 有名人のSNSを覗く? いえいえ、上を向けばいいんです。ほら、見てください。美しい青空が広がっているじゃないですか。


 ……しかし、上を向きながら歩いていたせいでしょうか。私は道に迷ってしまいました。

 私は焦りました。この森に入ってからここまで誰とも出会っていない上に、助けを呼ぶ手段もないのですから。試しに「おーい、誰かー!」なんて叫んでみましたが、反応なし。馬鹿馬鹿しくてもう声を出す気になれませんでしたよ。

 しかし、歩けど歩けど、もとの場所に戻れません。森はどこも同じ景色で、まるで迷路です。ほんと最悪です。

 日が暮れて、辺りが暗闇に包まれると、もう歩くこともままなりません。光さえあれば道を探せたのに、暗くなる前に帰るつもりだったため、懐中電灯を持ってきませんでした。スマートフォンさえあれば、道を照らすことができたのに……。

 木々は私に道を教えてくれず、鳥は私の呟きに反応せず、川のせせらぎは私に『イイネ』なんて言ってくれません。森って、なんてくだらない場所なんでしょう。スマートフォンが恋しくなってきました。


 でも、あの温もりを思い出し、泣きたくなったそのときでした。川のせせらぎ……川です! 川の音です! 

 私はその音を頼りに走りました。すると、ああ、川です。なんて素晴らしいのでしょう!

 その後、どうにかもとの場所まで戻れました。九死に一生を得たとはこのことです。まあ、もとの道からさほど離れてはいませんでしたがね。

 私は森を抜け、スマートフォンを掘り起こすと、この体験をこのようなハッシュタグをつけて、SNSに投稿しました。


 #デジタルデトックス失敗


 ついでにSNS内を検索すると、他にもデジタルデトックスに失敗した人がたくさんいて、心が温かくなりました。

 この経験を通じて、私は思いました。私たちは抜け出すことのできないデジタルの森の住人になっているのではないか、と。

 でも、道を見つける方法はあります。それは、スマートフォンの画面を見つめながらも、自分が今どこにいて、何をして、これから何をしようとしているのかを常に意識することです。

 それこそが、私たち現代人にとっての新たなデジタルデトックスなのかもしれません。


 そして、私は再びSNSに投稿しました。


 #デジタルデトックス大成功


 しかし、その投稿を見た人々は、私に向かって『まずSNSやめろ』などと、皮肉めいた言葉を浴びせ、果ては誹謗中傷までしました。

 これこそ、私たちがデジタルの森の中で迷子になっている証拠かもしれませんね。

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